第9話 華麗なる(?)舞踏会開幕!②
あまりにも煌びやかなあの姿を見た瞬間、思わず私は口元に手を当ててしまった。大ホールの入り口のほうで、宝石をこれでもかと身につけたコーデリアと、気だるそうにあくびをする王太子アルフレッドが、妙にミスマッチなコンビとして入場してきたのだから。
「うわぁ……あれがコーデリア・フローラン? ずいぶん張り切ったようね」
私は深紅のドレスの裾を軽く振りながら、ホールの隅に寄って成り行きを見守る。周囲の貴族たちも気づいてざわつき始めているのがはっきり伝わってきた。
何より強烈なのは、コーデリアの姿だ。全身に宝石がこれでもかと散りばめられていて、ドレスそのものがキラキラと光を乱反射している。遠目には豪華絢爛と言えなくもないけれど、どう見ても実用性や品の良さは二の次三の次にしか考えられていないようだ。正直、私から見てもギラギラしすぎて目がチカチカする。
「皆さま、ごきげんよう。私、コーデリア・フローランと申します。今日は殿下とともにこの舞踏会を盛り上げようと思いまして……うふふ」
大ホールの真ん中を堂々と歩いてくるコーデリア。彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、隣の王太子アルフレッドに視線を投げかけているが、肝心の王太子はやる気のなさそうな顔で、ちらっと周囲を見回すだけだ。
宝石ジャラジャラの派手ドレスを引き連れてきたせいか、二人の周囲には自然と人垣ができている。それは決して歓迎ムードというよりは「近づくと目が痛い」「なんだあれ」などの好奇と戸惑いが混ざった距離感。まさしく会場が微妙な空気に包まれているのを感じる。
「……殿下、あくびなんかしてないで、もう少し堂々と歩いてくださらないと。私たちが注目を浴びられませんわ」
コーデリアが悶々とした表情で王太子の腕を引くが、アルフレッドは生返事のように首をかしげるだけ。どうやら相当乗り気ではないらしい。きっと、この舞踏会そのものが面倒で仕方ないのだろう。そんな頼りない態度にもかかわらず、コーデリアはまったく気にせず引きずっていくから、よけいに二人のギャップが際立っているわけだけど……。
「……あれが私の代わりって思うと、なんだか可哀想ね。王太子ったら相変わらずの態度だし」
低く呟く私に、近くのモブ貴族の声が聞こえてきた。「コーデリアさん、すごい意気込みだけど……王太子殿下はやる気ゼロじゃない?」「あの派手な衣装はちょっと……うーん、目が痛い……」などと遠巻きに囁く様子を見ていると、思わず気の毒になる。
「もしかして殿下とコーデリアさん、このあとダンスでもするのかしら? 正直、ちゃんと踊れるとは思えないんだけど」
小さく呟いたところ、モブのひとりが「彼女、すでに何人かに『殿下と華麗に踊る』って言いふらしてたらしいですよ」と耳打ちしてきたので、心の中で「あちゃー」とツッコミを入れてしまう。あれだけの宝石を身につけて踊るなんて、足元が絡まるどころの騒ぎじゃないだろうに……。
「でも、やっぱり自信満々なのよね。私のことをどう思ってるか知らないけど、勝手に張り合ってくれてるみたい。まあ、助かると言えば助かるかもね……」
あまりに滑稽で、逆に笑いが込み上げそうになるのをこらえる。コーデリアが隣のアルフレッドを盛り立てようと必死に笑顔を振りまいているが、王太子はやる気がないどころか、みんなの視線を感じてますます憂鬱そうにしている。
「殿下、少しはしっかりしてくださらないと! 私たちが主役になれませんわ!」
「ふぁ……ああ? 主役って、めんどくさいだろ。なんでそんなこと……」
「いいから黙ってついてきてくださいまし。ああ、皆さま、ご挨拶が遅れまして!」
コーデリアは貴族たちの視線を一身に受けながら必死にアピールを続けるが、その度にアルフレッドの気の抜けた態度との落差が浮き彫りになっていく。むしろ「殿下はああいう方だから……」と周囲が憐れむような眼差しを向けているのに、コーデリアだけが気づいていないようだ。
「……なんなのかしらね、本当に。二人して同じ方向向いてないじゃない」
私は柱の陰から成り行きを見守りつつ、思わず笑いをかみ殺す。とはいえ、同時に「あんな人に未練があるわけじゃないけど」とも思う。王太子とコーデリアが迷コンビぶりを発揮するたび、「昔の私のポジションがそれなの?」と考えると微妙な感慨にとらわれる。
「ま、いいわ。あれはあれで自滅してくれれば助かるし……下手に私と絡んでくるよりはずっとマシ」
そう呟いて視線を外そうとすると、コーデリアと目が合った気がした。彼女は一瞬「むっ」とした表情でこちらを見てきたようだけど、すぐに視線を逸らして殿下の腕を引っ張る。どうやら私と絡むより、王太子を表に立たせるほうが大事なようだ。あくまで「殿下の隣は私こそがふさわしい」と周囲に印象づけたいのだろう。
だが、アルフレッド本人は「あー……もう帰りたい」と小声で呟いてるのが聞こえるほどだ。華やかな舞踏会に足を踏み入れてなおテンションの上がらない王太子と、空回り感全開のコーデリアという組み合わせ。案の定、会場には微妙な雰囲気が漂いつつある。
「ある意味、私の代わりというか、殿下が次に振り回される相手ってことか。ご愁傷さまね」
正直、こんな二人ならさっさと王太子を引き渡してしまってもいいかもしれないと、思わず考えてしまう。でも、今夜はそれだけで終わらせるつもりはない。私には私の計画があるし、舞踏会で堂々と殿下を追い込む算段も進めている。コーデリアがどう動こうが、私の決意は揺るがない。
「さて、ここからどうなるかは分からないけど……コーデリアに足元をすくわれるより、殿下の自滅を見届けるほうが早いのかしら。いずれにせよ、私は私のやるべきことをやるだけね」
内心でそう気合を入れ直し、私は軽く深呼吸をする。この大舞踏会が始まってしまえば、もう後には引けない。兄たちと仕組んだ暴露劇や、国王の珍采配が待ち受ける一方で、第二王子セバスティアンや父の動きも気にしなければならない。
わずかな隙があれば王太子から変な仕返しをされるかもしれないし、コーデリアがとんでもない自爆を巻き起こすかもしれない。けれど、私はそれを恐れている余裕はない。
コーデリアと王太子を横目に見ながら、こんなふうにひとりごとを呟く自分が、ほんの少し可笑しくなる。もしかして、昔の私が彼らの様子を見たら「これがあの殿下?」と呆れ返るだろう。でも、今は私のほうが状況を把握して力をつけている。むしろ、先に自爆しそうなのは向こうのコンビだ。
「がんばってね、コーデリア。もし私に突っかかってくるなら、それはそれで構わないけど……。王太子と、うまく踊れるといいわね」
小さくそう呟いた瞬間、遠くでコーデリアが大げさにスカートをひるがえし、王太子に話しかけているのが見えた。殿下は相変わらず気の抜けた顔だけど、何とか「そうだな」とか短い言葉を返している。ああ、波長が合わないとはまさにこのことだ。
私は柱の陰を離れ、会場の別の方向へ足を向ける。ここでぼんやり見ていても仕方ないし、わざわざ近づいていく気もない。明日になれば、また大きな展開が待っているし、今夜はまだまだ前哨戦だ。まずは他のゲストとも挨拶を交わし、様子をうかがっておこう。
「王太子とコーデリア……あの二人、どうなっちゃうのかしらね。まあ、その先にあるのは私の見せ場だし、しばらくは放っておきましょうか」
そう決めて、私は踵を返す。周りから聞こえてくる失笑混じりの噂話を後ろに残して、静かに胸の内で笑みを作る。あそこまで噛み合っていない二人が、舞踏会の場でどんな騒ぎを起こすか――大丈夫、きっと最後に笑うのは私であるはずだ。
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