強制

それは精霊降ろしの儀の前日だった。


火精霊「本当に済まない!」


鉄雄「いや、許さん!」


火精霊「許せとは言わん!だが、了承してくれ!頼む!」


鉄雄「断る!」


闇精霊「何があったの?」


風精霊「私もさっぱりで。何かあったんですか?」


水精霊「うん?何か火精霊が現れるなりいきなり謝って、そしたら鉄雄が訳も聞かずに怒ったの。」


闇精霊「話が出来て無いじゃないか。よくそれで、会話が成立してるかの如く振る舞えるね。」


火精霊「実は妹の結納が決まったのだ。」


水精霊「へぇ。良かったじゃん。」


うん?結納?


鉄雄「結納って?精霊って結婚するの?」


風精霊「まぁ、人間は知らないですね。私達にも家族がいますから。」


闇精霊「で?それっていつ?」


火精霊「あ、明日だ。」


鉄雄「はぁ?」


水精霊「え?じゃあ鉄雄の儀式はどうするの?」


火精霊「申し訳無いが欠席で。」


そんな身内の結婚式出るから、同窓会は欠席でみたいな事突然言われても。


鉄雄「困る!」


火精霊「それ故の謝罪だ。風か、水の。どちらかが出てくれ。今回は仕方ない。」


水精霊「まぁ、あたしは構わないけど?」


風精霊「私も良いですが、もっと早く仰って頂かないと。」


火精霊「う、うむ。大事な妹なのだ。頼む!鉄雄!理解してくれ!」


鉄雄「はぁ、分かったよ。行ってくれ。こっちはそっち抜きでやるよ。」


火精霊「ありがとう!皆んな!」


闇精霊「ここが鉄雄に取って運命の分かれ道であった。」


火精霊「・・・。」


水精霊「・・・・。」


風精霊「・・・・・。」


鉄雄「・・・不穏な事言うなよ。」


闇精霊「可能性を・・・・。まぁ、とにかく明日だね。」


ただ、この予測が当たったから余計に始末が悪い。


父親「何故だ!何故っ!精霊が現れない!」


僧侶「これはもう、"精霊無し"としか。」


ヤバい、このままでは。今現在の状況を説明するとだ。


風精霊「私が行きます!」


水精霊「ここはあたしが行く!」


水と風が言い争いを始め、気が付くと取っ組み合いの喧嘩へと発展した。

・・・・何とかしろよ。


闇精霊「僕?無理だよ。殴ったら言われるし、殴らない様にしてもこっちは平気で殴られるんだよ?とにかく僕には止められないよ。」


はぁ?じゃあお前で良いからこっちこいよ。


闇精霊「僕が鉄雄の精霊?僕は良いけど、多分親父さんは納得しないよ。」


何で?


闇精霊「闇精霊を宿している人はこの国にもいるけど、一般的には嫌われてる。そんな闇精霊を良家のお坊ちゃんが宿したって話になったら大騒ぎになるよ。」


え?そんなに?


闇精霊「下手をするとこの場で斬り捨てられちゃうよ。」


マジか!でも、結局どうすんだよ!


闇精霊「どうしようか?」


父親「とんだ期待外れだ!」


鉄雄「え?あ、あの!」


父親「寄るな!痴れ者!」


闇精霊「あ〜。」


水精霊「何?」


風精霊「え?」


そして父親も僧侶もいなくなる。


鉄雄「どうすんだ?これ?」


俺はシナリオ通り精霊無しと判定された。


水精霊「うっ。」


風精霊「うぅっ。」


火精霊「むぅ!」


風と水が正座し、目の前で火精霊が仁王立ちしている。


火精霊「お前達!何をしていた!」


水精霊「いや、だって!」


風精霊「済みません。」


火精霊「大体、お前がいて何故こうなった?止めるべきだろう!」


闇精霊「僕?僕の所為じゃないでしょ!第一そっちなんてその場にいなかったじゃないか!そんな奴に言われたく無いよ!」


火精霊「そもそも何で喧嘩なんぞ。」


水精霊「いや、折角だからあたしがメインに・・・。」


風精霊「水では火と真逆じゃないですか、だからまだ風の方が良いかと。」


火精霊「で?この後はどうなる?」


鉄雄「え?取り敢えず予定通りなら爺やが庇ってくれて、一応しばらくの間は離れ屋で生活する事になる。」


火精霊「仕方ない。最後の手段だ。」


水精霊「何するの?」


火精霊「今直ぐ屋敷を半壊させる!」


闇精霊「はい?」


風精霊「それだと誰がやったか分からないのでは?」


火精霊「親父殿が来たら改めて屋敷の残りを吹き飛ばすのだ。」


水精霊「確かに、それなら何とかなるね。」


闇精霊「待ってよ!そんなの後が大変でしょ?良いのそんなんで?」


火精霊「ならばどうする!このままでは追放だぞ!」


鉄雄「考えたんだけどさ、このままシナリオ通りに追放されるのもありかな?ってさ。」


風精霊「それはどういう意味ですか?」


水精霊「まぁ、一応それが物語の自然な流れだから別に間違ってはいないね。」


闇精霊「でもその流れだと、結局はお家騒動が起きて親父さんと争うんだよね?」


鉄雄「だからそうならない様にするんだよ。」


水精霊「うん?」


鉄雄「親父に捨てられるのは勿論悲しい。でも、このままだと一生戦い続ける事になる。なら一層の事、追放後はシナリオに関わらない様にすればお家騒動も起きない。それに生涯を戦闘で費やす事も無いだろ?」


皆んながそれで大丈夫なのか?という顔をしてる。まぁ、こっちも具体的な計画は無い。


風精霊「でも話によると鉄雄さんは物語の主人公ですよね?」


鉄雄「うん。」


風精霊「物語的に大丈夫なんですか?主人公でなければ倒せない敵とかいるんじゃ?」


鉄雄「確かに強そうなのもいたけど、大体の敵は"鉄雄"関連で現れる敵なんだ。話の流れを見る限り、俺がいなければ戦う理由は発生しないんだ。それに、その他の敵は皆んなで協力すれば倒せる敵だと思う。」


闇精霊「メインのボスは現れず、雑魚だけになるって事?」


火精霊「本当にそれで行けるのか?それに我も少しは戦いたい。」


風精霊「追放は予定通りなんですよね?ならこの先、状況次第で戦闘は幾らでもありそうですけど。」


鉄雄「嫌な事を言うなよ。とにかく、俺はこの家を出て普通に暮らす。決めたんだ!」


火精霊「ぬぅ、鉄雄がそこまで言うならば仕方ない。因みに皆の意見はどうだ。我は宿主の鉄雄に従う。」


水精霊「まぁ、あたしもそれで良いかな。」


風精霊「元々、争い事は好きではありませんから私も構いません。」


火精霊「貴様はどうする?闇の?」


闇精霊「考えたんだけどさ。あの時、水と風が同時に出れば良かったんじゃない?火じゃないけど、世界初の精霊を2つ宿してるって話なら流石の親父さんも文句は無かったかもよ?」


火精霊「・・・・何でもっと早く思い付かなかったんだ!」


精霊達の話し合いは続いている。

とにかくこのままだと俺の人生は死ぬまで戦う事になる。全ての人が好きで戦っている訳では無いと分かってはいる。だが、戦って死ぬ様な悲惨な最期なんて嫌だ。

俺は普通の一生を生きる為にシナリオ回避の覚悟を決める。

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