炎城という超人
俺は、家族が嫌いだ。
けど、最初から嫌いだった訳じゃ無い。
母が死んだ後、父は
そしてもう一人、俺のことを見捨てた家族がいる。
俺の姉だった女。最初は俺と同じく、母親から暴力を受けていた。
なのに、ある日突然俺を置いて家を出て行った。
姉が家を出た時、リビングには『必ず迎えに戻る』とだけ書き置きが残されていた。
もし見つけていたのが私ではなく義母であったなら、と思うと背筋が凍る思いだった。
暴力を振るう対象が減ったことで、義母から俺への当たりはかなり強くなった。
俺は、待った。必ず戻るという姉の言葉を信じて耐え続けた。それだけが俺の希望だった。
そして姉が迎えにくる前に、俺は義母を殺した。
正確には、先に俺を殺そうとしたのはあの女だが、俺にとって重要なのはそこではない。俺は、姉をもう待つ必要が無くなったこと。そして、おそらく姉はもう迎えになど来ないということ。
義母の葬式に出席したのは、俺と、茫然自失状態の父のみ。
義母の葬式に姉は来なかった。仮にも家族、呼ばれなかった筈はない。ならば、姉は自分の意思で俺を捨てたのだろう。
夢から覚めた様な、しがらみが解けた様な気分だった。
俺は自由と力を手にして暴れ、捕まり、気づけば裏組織にいた。
下っ端として働いて、殺して、殺して、初めて魔法少女を殺して、俺は墓場の幹部にまでなっていた。
俺は炎城と名乗り、その名が定着した頃、ふと考えてしまった。
姉はどこで何をしているのだろう、と。
別に心配になったとか、今更恨みを晴らそうと思ったわけじゃない。
俺にとって姉のことはすでに過去、片手間に調べられる、力ある立場になったから調べ始めただけのことだ。
すぐに、姉の行方は分かった。
姉は、とっくの昔に死んでいた。自殺だった。
脳の奥がじりじりと痺れる。
姉は、魔法少女になっていた。否、魔法少女になったからこそ家を出たのだ。
その魔法が強力であったが為に学園の直属のチーム『Blue』に半ば強制的に所属させられた。
そしてある日、敵の怪異から特殊な『呪い』を受けた事が原因で、同じチームの中でいじめが発生。
同じ学園直属チームのWhiteとは違い、Blueは遠征組織。
大人の手が入らない、少女だけの独立したグループであるが故に、誰にも止められる事はなく、姉は壊された。
同時に、理解する。
日付から逆算して、姉が死んだその後で、義母は俺を殺そうとした筈だ。
父がなぜ、愛していなかった筈の義母の葬式でやつれていたのか。
二連続だったのだ。その余りにむごい遺体の状態からか、俺に知らされなかったが、義母と父は姉の葬式に出ていた。
そう、流石に父も葬式では義母を避ける事はできなかった。
父に会う為に。
姉は義母の葬式に来なかったんじゃない。もうその時には死んでいたのだ。
かつて解けた筈のしがらみが、もう一度形を変えて俺を縛る。
頭の中で、何度も何度もくだらない考えがリフレインする。
魔法少女に選ばれなければ、姉はずっと共にいてくれたんじゃないのか?
魔法少女に選ばれなければ、姉はずっと生きていられたんじゃないのか?
姉を殺したのは『呪い』を付けた怪異ではなく、いじめた他の魔法少女じゃないのか
俺は魔法少女が嫌いだ。
特定の魔法少女が嫌いなんじゃない。きっと、魔法少女っていうシステムそのものが嫌いなんだ。
だから、最後に言う言葉もそれでいい。
「俺は、魔法少女が嫌いだ」
□ □ □
「『領域拡大、範囲指定、対象捕捉』」
ハイエンドの周囲を浮かぶ領域の一つが、炎城に近づき、巨大化してその身体を完全に包み込む。
「『巻き戻し、十分前』」
そして、
十分前、炎城はそこにいなかった。当然、領域の中から炎城は消え去る。
こうしていとも容易く、炎城は時間の矛盾に巻き込まれて死んだ。
死体すら残らないそれは、およそ人間の死に方ではない。
攻撃力が高いという次元ではない。対処不能、防御不能の絶対即死。
これが『最優』の魔法少女、ハイエンド
□ □ □
「分からないな」
思わず、ハイエンドはつぶやいた。
「ただの人間が、魔法少女に勝てるわけないのに。頑張って鍛えても、意味なんて無いのに。それに、あんな無意味な遺言を残すなんて」
それは、侮辱ではなく。また、悪意による言葉でも無い。
ハイエンドには、本当にわからなかったのだ。
なぜ、炎城が戦ってこれたのかを
「そりゃ、おぬしにはわからんじゃろな」
だが、その独り言に、返答があった。
その声の主は、いつのまにかビルの入り口に立っていた。
巫女服のコスチューム。鎖で繋がれた二刀。黒いマフラーをした、魔法少女
「不統合同盟所属魔法少女『メタルシップ』…………おぬしを殺しにきたぞ」
エクストラマッチ成立
『不統合同盟』魔法少女メタルシップ
対
『学園最優』魔法少女ハイエンド
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