27話 仮釈放
彼女を救うか、殺すか――
その二択のどちらも選べない状況に、グラウブたちは立たされる。
斬られてもなお再生するその身体。
だがそれは、不老不死などではない。
媒体の寿命を削り、肉体を復活させる悪魔的な契約だった。
そして今、その代償は確実にアルベリスの命を削っている。
*
「……おい、アルベリスはどうした?」
グラウブの問いに、異質な声があっさりと返す。
「彼女か? 彼女は私の“本体”で眠っているよ。
――腕がないまま戻りたくないそうだ」
声の主はアルベリスの体を使っていた。
だが、もはや彼女本人ではなかった。
「全く君たちは……傲慢だねぇ。
切られた者の後のことなんて、誰も考えちゃいない」
ひひひ……と気味の悪い笑いが、アルベリスの口から漏れる。
「私は“人身交換魔法”を使える。
能力は、さっき君らが見た“契約”そのものだ」
そして――いやらしい愉悦を込めて言った。
「ひひっ……若い身体はいいのぅ……
しかも女だ。ゾクゾクするのぅ……」
その下卑た声音に、フェアヴァールトの背筋が凍りついた。
(――善でも悪でもない。ただの非道だ……)
アルベリスは、もうそこにいない。
今この身体を使っているのは、紛れもない“異物”。
「……グラウブには酷かもな」
その瞬間、迷いのない剣閃が空を裂いた。
アルベリスの足を狙った刃――振るったのはメストアだった。
「メストア!? やめろ……!」
驚くグラウブを、メストアは静かに見返す。
「グラウブ、わかってるだろ……?
こいつはもうアルベリスじゃない。
アルベリスは――戻ってこない。なら、せめて殺してやる」
その声には、かつて愛した者を想う、矛盾した優しさがあった。
しかし。
「……ふむ。なかなかいい剣じゃ」
ずるり――と黒い文字が浮かび上がり、アルベリスの腕が再生する。
斬撃を受け止め、メストアの剣は弾かれた。
「なっ……!」
グラウブが目を細める。
「お前……不老不死なのか?」
ホーフムートは愉快そうに笑った。
「違う違う。私は不老不死ではない。
ただ、媒体の寿命を削って復活させているだけだ。
つまり――この女の寿命を削り、代わりに肉体を再生させただけのこと」
グラウブの喉が鳴る。
(……アルベリスの寿命を……削っている……)
フェアヴァールトは鎌を呼び出しかけ、低く吐き捨てた。
「じゃあ……お前を切れば、彼女は……」
「やめろ!」
グラウブが怒声を飛ばす。
「殺せば、アルベリスも死ぬ……!」
ホーフムートの目が妖しく光る。
「そういうことだ。殺せば共に死ぬ。
生かせば、私が完全に“傲慢”として蘇る。
――選んでみろよ、勇者ども」
場を覆うのは、逃げ場のない二択。
殺せば、アルベリスが死ぬ。
生かせば、悪魔の復活を助ける。
そのどちらも選べぬ中で――
**“絶望”と“傲慢”**が、彼らの胸に芽を出し始めていた。
⸻
次回予告
第28話『ニヒトテーヘン ―不殺―』
殺すことも、生かすこともできない。
正義を守る者たちは、今――歪んだ命にどう向き合うのか。
*
最後まで読んでいただきありがとうございます。
メストアの刃を防いだのは、ホーフムートの“再生”。
その裏に隠されていたのは、媒体の寿命を削るという冷酷な真実だった。
殺せば彼女も死ぬ、生かせば悪魔の復活に加担する。
次回、第28話『ニヒトテーヘン ―不殺―』――
正義を守る者たちは、どんな選択をするのか。
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