27話 仮釈放

彼女を救うか、殺すか――

その二択のどちらも選べない状況に、グラウブたちは立たされる。

斬られてもなお再生するその身体。

だがそれは、不老不死などではない。

媒体の寿命を削り、肉体を復活させる悪魔的な契約だった。

そして今、その代償は確実にアルベリスの命を削っている。



「……おい、アルベリスはどうした?」


グラウブの問いに、異質な声があっさりと返す。


「彼女か? 彼女は私の“本体”で眠っているよ。

――腕がないまま戻りたくないそうだ」


声の主はアルベリスの体を使っていた。

だが、もはや彼女本人ではなかった。


「全く君たちは……傲慢だねぇ。

切られた者の後のことなんて、誰も考えちゃいない」


ひひひ……と気味の悪い笑いが、アルベリスの口から漏れる。


「私は“人身交換魔法”を使える。

能力は、さっき君らが見た“契約”そのものだ」


そして――いやらしい愉悦を込めて言った。


「ひひっ……若い身体はいいのぅ……

しかも女だ。ゾクゾクするのぅ……」


その下卑た声音に、フェアヴァールトの背筋が凍りついた。

(――善でも悪でもない。ただの非道だ……)


アルベリスは、もうそこにいない。

今この身体を使っているのは、紛れもない“異物”。


「……グラウブには酷かもな」


その瞬間、迷いのない剣閃が空を裂いた。

アルベリスの足を狙った刃――振るったのはメストアだった。


「メストア!? やめろ……!」


驚くグラウブを、メストアは静かに見返す。


「グラウブ、わかってるだろ……?

こいつはもうアルベリスじゃない。

アルベリスは――戻ってこない。なら、せめて殺してやる」


その声には、かつて愛した者を想う、矛盾した優しさがあった。


しかし。


「……ふむ。なかなかいい剣じゃ」


ずるり――と黒い文字が浮かび上がり、アルベリスの腕が再生する。

斬撃を受け止め、メストアの剣は弾かれた。


「なっ……!」


グラウブが目を細める。

「お前……不老不死なのか?」


ホーフムートは愉快そうに笑った。


「違う違う。私は不老不死ではない。

ただ、媒体の寿命を削って復活させているだけだ。

つまり――この女の寿命を削り、代わりに肉体を再生させただけのこと」


グラウブの喉が鳴る。

(……アルベリスの寿命を……削っている……)


フェアヴァールトは鎌を呼び出しかけ、低く吐き捨てた。

「じゃあ……お前を切れば、彼女は……」


「やめろ!」

グラウブが怒声を飛ばす。

「殺せば、アルベリスも死ぬ……!」


ホーフムートの目が妖しく光る。


「そういうことだ。殺せば共に死ぬ。

生かせば、私が完全に“傲慢”として蘇る。

――選んでみろよ、勇者ども」


場を覆うのは、逃げ場のない二択。


殺せば、アルベリスが死ぬ。

生かせば、悪魔の復活を助ける。


そのどちらも選べぬ中で――

**“絶望”と“傲慢”**が、彼らの胸に芽を出し始めていた。



次回予告


第28話『ニヒトテーヘン ―不殺―』

殺すことも、生かすこともできない。

正義を守る者たちは、今――歪んだ命にどう向き合うのか。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


メストアの刃を防いだのは、ホーフムートの“再生”。

その裏に隠されていたのは、媒体の寿命を削るという冷酷な真実だった。

殺せば彼女も死ぬ、生かせば悪魔の復活に加担する。

次回、第28話『ニヒトテーヘン ―不殺―』――

正義を守る者たちは、どんな選択をするのか。

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