【第五十一章】 譜面が鳴るとき、血が流れる
「……ルカさんの譜面が“血を流した”のは、偶然でも演出でもなかった。あれは、仕組まれた反応だったんです」
いぶきは、そう前置きし、かつて自分たちが文化祭のポスター制作ブースで得た用紙の話を持ち出す。
「以前、あの紙が“ある音”に反応して赤い液体を浮かび上がらせるのを、俺たちは実験で確認しています。使われていたのは、マイクロカプセル型の感熱インク。五線譜の部分にだけ反応するよう、狙って塗布されていた」
静かに、ミユが頷く。
「超音波スピーカーで再現したとき、五線譜からだけ血がにじみ出たの……見たよね」
いぶきはうなずき、篠宮に視線を向けた。
「じゃあ、問題は“その音”を事件当時、誰が、どこから流したか。Bluetoothスピーカーを事件までに仕込んだ人物がいるはずなんです」
そして――いぶきは、一歩前へ。
「さやか先輩から聞きました。あなたが“ピアノのチューニングキーを落とした”と。でも、それはピアノじゃなく、オルガンだったんじゃないですか?つまり、あなたはオルガンの内部を開けていた。Bluetoothスピーカーを隠すために」
講堂の空気が凍りついた。
「だが、事件後にスピーカーを回収しようとしたらキーがなかった」
いぶきは続ける。
「そして、事件発覚後――旧講堂は学院の管理下に置かれ、厳重に封鎖された。保守作業を除いて、生徒どころか教職員ですら原則立ち入り禁止。監視カメラまで設置されて、無断で中に入ることなんてできなかった」
いぶきの声は、確信に満ちていた。
「篠宮さんが、スピーカーを“回収したくてもできなかった”理由は、それだ。事件直後、講堂の封鎖と同時に、回収の機会は完全に断たれた」
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