【第三十四章】 封じた真実

 第二の事件以降、校内の空気は明らかに変わっていた。

 生徒たちはお祭り騒ぎの中にもどこか薄氷を踏むような表情で、誰もが言葉を選びながら“あのこと”に触れようとしなかった。

 新聞部の展示室で、九条さやかは校長と理事会の面々と向かい合っていた。形式は「聞き取り」だが、その実態は抑制に名を借りた圧力だった。

「これ以上、部活動の範疇を逸脱した報道をするのであれば、校内新聞の発行を一時停止せざるを得ません」

 理事のひとりが書類を机に置きながら告げる。淡々とした口調だが、明らかな敵意がにじんでいた。

 さやかは無言のまま、薄く笑った。

「では、確認させてください。私たちが事実に基づいて取材を行い、その結果、ある種の不祥事に近いものが露見したとしても、それは“発行停止”に値する、と?」

「九条さん。これはあくまで生徒の安心と教育環境を守るための措置です。報道の自由を否定しているわけでは──」

「いいえ、否定しています。遠回しに、はっきりと」

 口調は穏やかだったが、言葉には研がれた刃のような鋭さがあった。

 校長が小さく咳払いをして、言葉を挟む。

「……君が追っている事件に、学外の協力者が関与しているという話も耳に入っている。私的な探偵まがいの活動は慎んでほしい。君自身の安全のためにも」

「その“私的な活動”によって、すでに何人もの証言が集まり、トリックの一部が明らかになっているのですが」

「君は何か勘違いをしている。これは刑事事件でもあるが、校内の風紀と秩序の問題でもある」

 さやかはあくまで冷静に、言葉を重ねる。

「これは、組織の問題です。でも、私は“名前のある個人”に向き合いたい。アヤメが何を思い、何を遺したのか。その全てを、記録として残すために。報道は止めません。止めるなら、手段を選ばずどうぞ」

 誰も口を開かなかった。

 しばらくして、理事のひとりが眼鏡の奥で目を細め、低く告げた。

「……ならば、発行は一週間だけ認めましょう。

 その間に“問題が終息しない”場合、正式に活動停止を通達します」

「一週間──了解しました」

 さやかは立ち上がり、静かに一礼した。

 扉を開けたその背には、わずかながらの震えがあったが、振り返ることはなかった。

 その夜、新聞部の掲示板には、彼女の直筆でこう記された。


『真実を封じた瞬間に、私たちの言葉は終わる。』

           九条さやか

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