第3話-2 その花に棘はあるか
白石からもらったラブレターの横に、新しいラブレターを2枚並べる。
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ねえ、いまさらだけど、あたしってやっぱり不器用だなーって思う。
面と向かっては何も言えないのに、こうやって手紙を書くとか、昭和かよ、って感じだよね。
でもね、あんたが私に話しかけてくれると、ほんとに気持ちがぐちゃぐちゃになるの。
なんでかわからないけど、あたしまで前向きになれそうでさ。
だから、この手紙、別に返事とかいらない。
あたしの気持ちは、ここに全部おいていくから。
ヒマワリのようなあんたの笑顔は、わたしの憧れ。
大好きだよ。
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例えば朝 靴音だけで 君だと知る
振り返るのが 少し怖くて
カーネーションのように 深い愛情で包まれた 君の声が響く
その音色が 僕はとても大好きで
ずっと聴いていたいと そんなことを 思ってしまうんだ
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3つのラブレターは全然異なる文体と筆跡だった。
白石の手紙は、ペン習字でも習っているのかというくらい整った筆跡、2つ目の手紙は丸字でいかにも若い女性が書いたような筆跡、3つ目は筆圧の強い、男性的な筆跡だった。
共通しているのは、宛先も差出人も書かれていない、というところだけだ。
私はぼんやりと手紙を眺める……。
他に共通点と言えば、花が記載されていることくらいか。たまたまと言えばそれまでだが。
私なんぞは、薔薇とそれ以外くらいしか違いがわからないのに、大したとものだと感心する。
ちなみに薔薇だけは、色々な格好比喩に使えそうなので、結構詳しい。
そんなことを考えていた私は、はたと気づき、急いでバタバタと調査ノートに書いたメモをめくり始める。
『格好いい探偵の名台詞集』 違う
『新英学園 怪しい女子ラインキング(妄想Ver)』 違う
『新英学園 セクシー女子ラインキング(観察Ver)』 もっと違う
……見つけた。
『誕生花の花言葉リスト(念のため)』
白石の手紙に誕生花の話があったので、少し調べてメモしていたものだった。
そこを見ると、やはり、
ひまわり:憧れ
カーネーション:深い愛
という記載がある。
「ねえ」
そこで東堂に問いかける。
「誕生花とか花言葉って、そこまで一般的かな?」
「うーん、聞いたことない、とは言わないけれど、誕生石とかの方が一般的な感じはするね」
東堂が、心なしか少し嬉しそうに答える。
「そうだよね。そこまでメジャーな例えでないということか……。そうか!」
絶好の「探偵らしい」シーンなのに、見ているのが東堂だけなのが残念だが、私は続ける。
「このラブレターは同一人物によって書かれている可能性がある!」
とりあえず、格好つけて、意味もなく宙を指差してみる。
東堂が面白そうに、その指差した方向を向く。
もちろん、そこには、特に何もなく、部室の蛍光灯が白々と灯っているだけだった。
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