第3話-2 その花に棘はあるか

 白石からもらったラブレターの横に、新しいラブレターを2枚並べる。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

ねえ、いまさらだけど、あたしってやっぱり不器用だなーって思う。

面と向かっては何も言えないのに、こうやって手紙を書くとか、昭和かよ、って感じだよね。


でもね、あんたが私に話しかけてくれると、ほんとに気持ちがぐちゃぐちゃになるの。

なんでかわからないけど、あたしまで前向きになれそうでさ。


だから、この手紙、別に返事とかいらない。

あたしの気持ちは、ここに全部おいていくから。


ヒマワリのようなあんたの笑顔は、わたしの憧れ。

大好きだよ。


△△△△△△△△△△



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例えば朝 靴音だけで 君だと知る

振り返るのが 少し怖くて


カーネーションのように 深い愛情で包まれた 君の声が響く

その音色が 僕はとても大好きで

ずっと聴いていたいと そんなことを 思ってしまうんだ


△△△△△△△△△△


 3つのラブレターは全然異なる文体と筆跡だった。

 白石の手紙は、ペン習字でも習っているのかというくらい整った筆跡、2つ目の手紙は丸字でいかにも若い女性が書いたような筆跡、3つ目は筆圧の強い、男性的な筆跡だった。


 共通しているのは、宛先も差出人も書かれていない、というところだけだ。


 私はぼんやりと手紙を眺める……。


 他に共通点と言えば、花が記載されていることくらいか。たまたまと言えばそれまでだが。


 私なんぞは、薔薇とそれ以外くらいしか違いがわからないのに、大したとものだと感心する。

 ちなみに薔薇だけは、色々な格好比喩に使えそうなので、結構詳しい。


 そんなことを考えていた私は、はたと気づき、急いでバタバタと調査ノートに書いたメモをめくり始める。



『格好いい探偵の名台詞集』 違う

『新英学園 怪しい女子ラインキング(妄想Ver)』 違う

『新英学園 セクシー女子ラインキング(観察Ver)』 もっと違う


  ……見つけた。

『誕生花の花言葉リスト(念のため)』


 白石の手紙に誕生花の話があったので、少し調べてメモしていたものだった。


 そこを見ると、やはり、


 ひまわり:憧れ

 カーネーション:深い愛


 という記載がある。


「ねえ」

 そこで東堂に問いかける。


「誕生花とか花言葉って、そこまで一般的かな?」


「うーん、聞いたことない、とは言わないけれど、誕生石とかの方が一般的な感じはするね」

 東堂が、心なしか少し嬉しそうに答える。


「そうだよね。そこまでメジャーな例えでないということか……。そうか!」


 絶好の「探偵らしい」シーンなのに、見ているのが東堂だけなのが残念だが、私は続ける。



可能性がある!」



 とりあえず、格好つけて、意味もなく宙を指差してみる。


 東堂が面白そうに、その指差した方向を向く。


 もちろん、そこには、特に何もなく、部室の蛍光灯が白々と灯っているだけだった。

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