第3話-1 乱舞するレター

 東堂には、大見得を切ったものの、私はどう動くべきか悩んでいた。


 今回の調査で難しいのは、ストレートに聞き込みが出来ないという点だ。

 さすがに私も、ラブレターという極めて個人的な手紙の差出人を、そのまま様々な生徒に聞き込むほど、野暮ではない。


 そう考えた私は、「最近、ラブレター絡みの噂を何か聞いていないか?」という少し、遠回しな質問をして回って見ることにした。


 そう決めると、早速、“私服“に着替えることにする。


 最近、気づいたのだが、私の探偵としてのユニフォーム ——スラックスにシャツ(冬場はそれにジャケットを羽織る)は、聞き込みの際の格好としては、すこぶる効率が悪い。

 大体が、「女の子が、どうしてそんな格好を?」という話から入ってしまうのだ。


 従い、いささか以上に不本意ではあるが、ここのところ私は、聞き込みの際は“普通の格好“をするようにしていた。


 捜査のためには、時にプライドを捨てることも探偵には必要なのだ。


 そう、自分に言い聞かせている。



 ——聞き込みを通じて、私は思っていた以上に、今回の事件に奥行きがあることを知ることになった。




▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「うーん」


 ひと通りの聞き込みが終わった後、私は部室で、ホワイトボードを前に唸っていた。


 この学園では、成果ポイントで比較的廉価に、部活用のタブレットが支給されるのだが、私はあくまでホワイトボードに、ペタペタと捜査情報を貼っていくスタイルを堅持していた。


 なぜか? その方が何となく、“探偵っぽい“からだ。


「早速、煮詰まっているのか? 無理せずに、情報が足りないなら聞けよ」

 なぜか当たり前のように部室にいる東堂が、口を挟んでくる。


 情報提供は断ったものの、彼としても、私の捜査状況を気にはしているのだろう。


 面白半分に“観測“されているようで、気持ちは良くないが、話し相手がいることは少しだけ助かっているので、あえてツッコまない。


 「いや、むしろ逆だ。ここ1、2ヶ月で、大量のラブレターがこの学園に出回っているらしい」


 私は、“捜査手帳“をみながら、ホワイトボードに件数を書き込んでいく。


 私が聞き込んだ30人程度の生徒のほとんど、25名近くから、ラブレターに関する「噂」の話が聞けていた。

 しかも、うち5名は実際にもらったという当事者だった。


 あくまで、噂ベースなので、重複や誤解などはあるにせよ、チャットアプリが主流の昨今において、異常な件数と言って良かった。


 酷いところだと、間違って教員に送られたものもあるそうだ。


 しかも、その化学の教員(木村先生、独身)は、微妙に本気になってしまい、ラブレターにあった「放課後、実験をしているあなたの姿に惹かれた」という言葉を信じ、夜な夜な必要のない実験を繰り返して、手紙の送り主(無記名)にアピールし続けている……という、ちょっと気持ち悪い噂であった。


 もしかしたら、こうやって、学園七不思議的なものが出来上がるのかもしれない(「夜に光る化学室の怪!!」とか)


 それはさておき、私は、コーヒーに口をつけながら、続ける。

 賞味期限がそこまで早いものではないが、大量に買ってしまったので、どんどん消化しないといけない。もちろん、ミルクと砂糖は、たっぷり入っている。


 「しかも、その“噂“には、今回の依頼と同様に、差出人や宛先がないとか、間違っているとか、そういった話が大体セットになっている」


 「つまり、今回の事件は、白石君だけの話ではない、と?」

 東堂が、合いの手を入れる。


 こいつはおそらく、何らかの情報を入手しているはずなのに、すっとぼけた感じでコメントを入れてくるのが、鼻につく。

 だが、情報料を払えない自分が悪いので、飲み込む。


 「その可能性が高い。だが、検証が必要だ」


 私は、二つの紙をマグネットでホワイトボードに貼り付けながら答える。


 実は、聞き込みの中で、宛先不明系のラブレターについて2通ほど、コピーを取らせてもらっていた。

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