第24話 お金をもらおう!



「カネをくれ」


 シャロン騎士団長に、俺は直接頼んだ。

 団長は不思議そうな顔をする。


「金か? カイトの能力があるのに、必要か? いくらでも稼げるだろう。もしかして買い取るのか?」


「ちげぇよ。いつまでも無料で配ってたら、庶民街で金が回んねえだろ。金を回すために、やり取りできるだけの量を庶民街に持ち込んでくれ、って言ってるんだよ」


 なるほど、と騎士団長は納得したようだった。

 しかし、ただ金を配るというのも難しい。


「となると、見舞金か?」


「それもあるけど、庶民街の建物の復旧を、住民たちに任せっきりじゃねぇか。公共事業として金を支払ってやれよ。雇え」


 俺の言うことに、騎士団長は目を見開いた。

 住民が復興作業してること、まだ気が回ってなかったんだな。


 公共事業って、災害時に金を配って市場に回すためにやるんだよ。

 お前ら貴族や為政者の仕事だろ。


「まさしくその通りだな。さっそく手配しよう」


 俺が物資を回せば、売却金で金なんて後でいくらでも回収できるからな。

 辺境伯ならそれくらい気づくだろう。


 俺のチートに戦闘力はないが、物資は経済資源だ。

 物資チートは、市場を掌握できる経済チートでもある。


 なんなら硬貨が購入できるのだ、この『ネットモール』。

 銀行による『両替』機能だ。


 異世界の金はさすがに無理だけど、日本の十円玉は購入できる。

 残高をそのまま『日本の銅貨』に交換できるのだ。手数料取られるけど。


 だから、銅貨なんかが足りないなら、十円玉を鋳つぶせば銅が手に入る。

 貨幣の故意の破損は日本じゃ犯罪だけど、ここは異世界だ。

 問題ない。


「銅が手に入るのか。なら、銅貨は市場に流すか。金貨は不要として、銀貨は……どうするかな」


「銀も手に入るぞ。少しだけ銅が混ざってるが、九割の銀が使われてる」


 そう言ってシルバーアクセサリーを購入して見せてやる。

 その細工の鮮やかさに見とれていたようだが、硬貨に鋳つぶす用の奴だ。


「これを潰すのはもったいないが……銀も手に入るのか。鋳型さえあれば鋳造し放題じゃないか。すごいな、御使い様の力というものは」


「私鋳はしねぇよ。たぶん鋳造権は国か辺境伯様しか持ってないだろ」


 確認してみると、その通りだった。

 基本的には国家が持つもので、貨幣の少ない辺境領は特別に地方鋳造権が与えられているらしい。

 それ以外の鋳造はだいたい禁止されている。


 偽金作りはどこの世でも犯罪だからな。

 国の許しがなけりゃ、金は作るもんじゃない。


「というか、たぶんその銅貨、そのまま使えると思うぞ。重さが違うから価値が違うが。銅には変わりあるまい? それを流通させた方が良くはないか?」


「それで良いなら良いけどよ。独自貨幣なんて、領主の許可も取らずにやることじゃねぇだろ。素材価値だけの値段分の値付けで良いんならやるけどよ」


 本位貨幣……物々交換で、現物価値がそのまま貨幣価値になるならそれも良いけどよ。

 貨幣ってのは、だいたい発行者の信用で付加価値が付くんだよ。


 この貨幣には、素材以上のいくらの値段を保証します、って国や発行元がやるのが信用貨幣だ。

 日本の紙幣が紙なのに一万円なんかの値段が付いてるのは、国がその一万円分の価値を保証してるからだ。


 昔は金本位制で、金券、つまり現物の金との引換券だったって話を聞くけど。

 現代日本は金塊をそんなに持ってない。

 国が一万円の価値として取り扱う、と決めてるから一万円札として成立してるだけだ。


「その銀の装飾品も、そのままの価値でやり取りできるぞ。気になるなら、貴族街で売ってこの領の貨幣に換金してもらうこともできるが」


「そっちの方が良いな。貴金属の流通量は管理しとかねぇと、金はあるのに現物や食料がない、なんて飢饉になる元だ。インフレってんだけどな」


 なるほど、とシャロン団長は納得していた。

 金は食えねぇもんな。


 お金は生活物資や税金充当に変換できるから価値があるんだ。


「確かに貨幣が余るのは避けたいな。金銀銅はこちらの指示以外では出さないでくれ」


「だろ。制限しとかないと問題しか起きない。……そもそも、この街が復興したら、俺も食糧を無料で配るのは辞めるよ。今は緊急事態だからそうしてるだけだ」


 当たり前の話だな。

 俺が永遠に食糧を出し続けると、飲食店や農家が潰れる。


 俺のせいで餓えて死ぬ人間を増やしてどうする、って話だ。


「やめてしまうのか!? じゃあ、テンプラはもう食べられなくなるのか!?」


「いや、普通に売るだけだ。金出して食ってもらうようになる。そりゃ餓えてる奴がいたら施しくらいはするかもしれないけど。住民が働かず食うだけになっても困るだろ?」


 それこそ領が領として成り立たないよ。

 働かなくても食えるなら、自分の趣味でしか働かないだろ。

 辺境領の生産力が落ちる元にしかならない。


「俺なら養えるだろうが、この街の不利益になることをやったら、さすがに辺境伯様を敵に回すだろ。そこら辺は考えてるよ」


「まぁ、それもそうか。確かに我ら騎士団がカイトを討つことになるのは避けたい」


 討つってか、たぶん監禁されて生産マシンにされるけどな。

 元々このチートは、辺境伯たち権力者の敵なんだ。


 もちろん『買取り』の方じゃない『ネットモール』の方だ。


 権力者ってのは、他の人間を生かす、食わせることで権力と支持を持つんだから。

 そいつの言うことを聞かなくても食事ができて、食事ができる奴らで団結して安全まで確保できちまったら、それは兵権の完成だ。


 つまり権力だな。

 食を牛耳るってのは、他人に対する権力を持てるんだ。

 人は食わなきゃ生きていけないからな。


 だから、辺境伯も俺に対して、能力に見合った『天の御使い』っていう権威的立場を認めたんだ。

 そうしないと、無限に食糧を生産できる奴を放っておいたら面倒なことになるからだ。


 そしてこれは、辺境伯自身にも言える。

 辺境伯が俺を監禁して無限に物資を生産し続けると。


 同様の理由で、今度は大元の国家に目をつけられる。

 つまり、俺を監禁して無限生産すると、今度は辺境伯が国家を敵に回すことになるんだ。


 だから、過度な利用はされない。

 しないで保護するから、他の地方に逃げて面倒ごとを起こさないでくれ、というのが辺境伯からもらった保証の意味だ。


 俺がもらった家紋入りの首飾りの裏の意味はそれだろう、と俺は踏んでいる。

 そのくらい気づかない女じゃなさそうだったからな。


「ま、辺境伯様やシャロン団長とは、仲良くやっていきたいと思ってるよ」


「そ、そうか? わたしともか? ……ならば、夜にでも……」



 大丈夫か、このポンコツ騎士団長。


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