第9話 工房街の腹を満たせ!
「すまねぇな、兄さん。ごちそうになっちまった」
金槌を手に持った職人女性が、腹をさすっている。
目に力があるんで、食事ができて意識がはっきりしたんだろう。
「あんた、力ありそうだな。他の奴にも食べさせたい、手伝ってくれるか?」
「ああ、もちろんだ。……だが、こんなに食糧を出して、あんたの懐は痛まねぇのか?」
もっともな質問だ。
他人に与えればそれだけ自分が餓える。
それが世の中ってもんだからな。
こんな太っ腹な炊き出しをやってる奴、信じがたいって気持ちはよくわかる。
だから、俺は魔力を買い取って品物を出していること。
その分、その辺にある『魔力を含んだもの』をガンガン持ってきてくれ、と頼んだ。
「魔力を食糧に変えてるのか。このご時世じゃありがたい魔法だ。それなら、ガレキだろうと鋼材だろうと、好きに使ってくんな! この状況じゃ、食えない鋼はクソの役にも立たねぇ!」
そりゃそうだ。
今は日用品より食料品、だな。鋼材だって代わりを出せる。
職人女性の運んでくるガレキや、鍛冶の原料である鉱石を『買取り』に放り込んで、資金をチャージする。
放り込んだガレキが宙に消えていくのを見て、職人女性も納得したようだ。
今度は、周りの家を回って、動けないほど弱ってる人を担いできてくれた。
「ここまで弱ってると、かゆでも難しいな。ゼリー飲料を出すから、まずそれを飲んでくれ」
というわけで、onゼリーを箱買い。
手軽な栄養補給に役立つ一品だ。
これとスポドリで、手っ取り早く栄養と水分を補充させる。
何とか飲み下せるだけの体力があって良かったよ、本当に。
「寝かせる場所が必要だな」
まだ立ち上がれる体力のない人も多い。
家具売り場でマットレスを探して、喰い終わった人たちに近くにどんどん並べてもらった。
雨が降ってないのが救いだ。
寝かせた女性たちに、弱々しくも復活した女性たちが、ゼリー飲料を飲ませてやっている。
何だかんだで、ここも限界じゃねぇか。間に合って良かった。
間に合わなかった人たちも大勢いると思うけど、そこは本当に勘弁してくれ。俺は神様じゃないんだ。
人はどんどん増えてくる。
こっちの区域だけで、食べられなかった人がこんなにいるのか。
しかも女性ばかりだから、家にいるはずの男性も含めると、かなりの数だ。
もっとまとめ買いした方が良いな。
「パンがゆは持ち帰れないな。ゼリー飲料でも大丈夫だと思うか?」
「ああ、これなら弱った胃でも受け付けやすい! 何とかなるだろうよ!」
職人女性がそう言ってくれたので、onゼリーを大量に出す。
キャップはネジ式だと伝えてくれ、と言うと、開けて渡した方が手っ取り早いそうだ。
確かにそうだ。
意識がもうろうとしてると、開ける力もなかったりするもんな。
体力が戻った女性たちに、onゼリーの箱が詰まった段ボール箱を手渡していく。
女性たちが、開けて飲ませてくれるそうだ。
俺みたいな見知らぬ人間が飲ませるよりは、顔見知りが飲ませた方が良いだろう。
「お袋さん。これから来る奴も、ゼリーを飲ませた方が早いかもしれない。ゼリーとスポドリをまとめて渡すから、開けて飲ませてやってくれ。パンもつける」
「わかったわ、任せて。そのくらいはできるから」
アイシャのお母さんに押しつけるように、箱を注文して積み重ねていく。
パンを用意したのは、食べ慣れたものがあった方が、抵抗なく口にできるだろう。
ドリンクサーバーも増設して、スポドリの中身を次々にぶちこんだ。
そのそばにもスポドリの二リットルボトルを並べて、アイシャのお母さんに補充を任せておく。
「親方、目を覚ましたかい!?」
「う、うん……? エトナ? あたしは……?」
エトナの世話になってる工房の親方が、意識を取り戻した。
スポドリを二本飲ませて、糖分が染み渡ったらしい。
まだ立てないようなので、水分とゼリー、そしてパンを渡しておく。
親方さんは木工職人のようだ。
工房に木くずやおがくずが大量にあるので、もらってもいいか、と尋ねると眉根を寄せられた。
「ダメか、親方さん?」
「いや、良いけどさ。何に使うんだい? 暖を取るのかい?」
理由を説明してるヒマもない。
良い、という了承を得たことで、エトナにホウキを購入して渡して、取りに行ってもらう。
袋はいるか、と聞いたけど、段ボール箱で充分らしい。
段ボールのフタが、良い感じにチリトリ代わりになってくれるだろう。
なんなら、土ごと掘り返したって良いんだからな。
「待たせたな、兄さん! 一通り配り終わってきたぞ!」
「ありがとう、職人のお姉さん。あんたも疲れたろう、食べて休んでくれ」
近くの建物を回り終えた職人女性に、食べ物を渡す。
胃が落ち着いてるだろうから、肉でも大丈夫だろう。餃子を少しと、惣菜パンを渡した。
職人女性は見たこともない料理と見たこともないパンに驚いていたが、食べて嬉しそうな声を上げてくれた。
「こんなの、食べたことない!」
それに興味を持ちだした周りの女性たちにも、料理を出していく。
病み上がりだから、少しずつだ。吐かれても困るしな。
濃厚な肉汁と塩気に、『食べる』という実感を思い出したらしい女性たちは、涙を流していた。
辛いとき、食えないときに、うまいもん食うと涙が出るよな。
わかるよ。
「あんまり重たいもん食べると、胃が受け付けずに吐くからな! 明日も明後日も用意するから、無理せず食べられる分だけ食べてくれ!」
「明日も!? 明後日も!?」
驚く声が聞こえる。
東区域も回らにゃならんから、時間はかかるが。
資金はほぼ無尽蔵だ。
いくらでも用意できる。
さっき『買取り』を見た職人女性が、そのことを請け負うように後押ししてくれた。
「本当だ、『魔力』を食い物に変えてくれる魔法の使い手が現われた! もう、食べ物に困ることはないぞ!」
同じ街の、見知った人間のその一言に、爆発的な歓声が上がった。
居並ぶ住民たちみんなが、安心してへたり込んでいる。
気が抜けて、経っていられないほど身体から力が抜けたのかもしれない。
「他の区域も回らなきゃいけない。今はゆっくり休んで、回復した人から、配るのを手伝ってくれ!」
俺の声に、マットで寝ていた人たちも涙した。
今を生きるために、明日を迎えるために。弱っている人たちも、少しでも回復しようと食べ物や飲み物を口にする。
人手さえあれば、食糧はいくらでも出せるんだ。
万能配給能力みたいな『買取り』チートと『ネットモール』に感謝だ。
明日からもちゃんと食える、とわかって、工房街は活気に包まれた。
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