第32話 射撃練習

 ワープしたのは広大なグラウンドだった。が、ただのグラウンドではなく、遮蔽物となる小さな壁が至る所に設置されていた。そこに隠れてやられないようにしながら、頃合いを見て敵を撃つ。そして勝者の一人が決まったらロビー前に全員ワープされて、そこで一戦終了。


 死んでもロビー前にワープされれば自動で蘇生され、消費した銃弾も全部戻ってくる。これが無料でできるのだから、練習にはうってつけの環境だ。


 以上のような状況で、かれこれ5,6戦ほど参加させてもらった。


「……ふー」


 一度休憩しようということになり各々が雑談に花を咲かせている中、集団から少し離れた場所に俺のキャラはいた。


 そこに、アセラさんのキャラが駆けつけてくる。


「ナイ君、お疲れ」

「あっ、お疲れ様です」

「こんなところに一人でいるなんてなあ」

「うっ、うるせえ。俺は一人でいるのが好きなんだっ」

「そんな反抗期の子どもみたいなこと、おじさんに言われてもなあ」

「あ? おじさんって言いましたか? 訂正していただけます?」

「これも地雷なんか!? ……心が狭いんと違う?」

「それは遠回しに伝えて欲しかったです……」


 ストレートは心に響く。ちょっと涙が出そうになった。


「で、さっきの射撃練習やけど。かなり上手くなったと思うよ」

「マジですか?」

「マジやね。私も一回やられてもうてるし」


 正直に言えば、かなり成長の実感がある。遮蔽からの体の出し方や反動の制御など、かなりマシになったんじゃないだろうか。


「まあ、まだまだ私の方が上手いんやけどね」


 これに関してはウザいとは思わない。

 ただ、別の点で思うことはある。


「敵を倒した時のアレ、何とかならないんですか?」

「アレって、別に喜んでるだけなんやけど」

「いや、煽りにしか聞こえないと思いますよ……」


 戦闘中、俺の耳に入ってきたのは、


「背中がらあきやなあ! うひゃひゃひゃひゃ!」


 とか、


「あちゃー、私が隠れてんの気付けへんかったかー! うひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 など。どう考えても煽りだと思うんだけどなあ。


 そんな感じで射撃訓練中の出来事を話していると。


「お疲れ様です。お二人ともお上手でしたね」


 男性と思われるキャラが一人、優しく穏やかな声でこちらに近づいてきた。

 キャラの服装は白い長袖のシャツに白いスーツパンツで、髪型は綺麗なオールバック。右腕には金色の腕時計が付けられていた。

 ……かなり気持ち悪い外見だ。


「アセラ様は相変わらずキモイことをしてきますね」

「ミナミ君のキャラの見た目よりはマシやと思うよ?」


 あ、それディスっていいんだ。


「それで……すいません。そちらの方とは初対面ですね。わたくしはアンドロメダというギャングのボスを務めています、霧波ミナミ(きりなみみなみ)です。どうぞよろしく」

「えっと、ハジメ・ナイです。俺もボスです。アルゴっていうギャングの。よ、よろしく」


 ちょっとだけキョドってしまったけど、そこまで違和感はなかったはず。

 すごいぞ、俺。


「ごめんな、ミナミ君。ナイ君は陰キャで」

「おいおいてめえ言っちゃだめですって」


 怒りを抑えきれず変な口調になってしまった。


「あはは、仲が良さそうで何よりです」

「……仲が、良さそう?」

「はい。そう見えましたけど」

「アレかな? ナイ君は私のことが嫌いなんかな? やったらめっちゃ悲しいわあ」

「……」

「なんか言えや!」

「ああ、す、すいません」


 緊張感だけを求める。馴れ合いはいらない。そういう思いでこのゲームを始めたのだけれど。


 ……誰かと仲良くなる、か。そういえばアイラには友人だと言われたっけ。

 案外、そういうのも悪くないのかもしれない。


「にしても、偶然にもギャング名の由来がどっちも星座やね。何か縁があるかもしれへんなあ」

「縁、ですか?」


 俺がそう問い返す。


「そう。例えば――」


 アセラさんが答えようとしたところで、ミナミさんの仲間と思われる人がこちら側に声をかけてきた。


「ミナミー、ちょっとこっち来てー」

「すいません、仲間に呼ばれてしまったので失礼します」


 そう言い残して、ミナミさんのキャラは俺たちから離れていった。


「何かあったんですかね?」

「さあ。まあ事情は人それぞれやからなあ。私たちが首を突っ込むことやない」

「……ですね」


 人が違えば出来事も違う。俺がアルゴのボスとして過ごしてきた時間と、ミナミさんがアンドロメダのボスとして過ごした時間は、濃さが一緒だったとしても中身は全くの別物だろう。


 ならば、安易に口出しをするのも変な話だ。


「にしても……仲良し、って言われるとはなあ。まだ何にもナイ君のこと知らへんのに」

「じゃあ合コンでもします?」

「するわけないやろ!」


 冗談はさておき。


「仲が良いといえば、やけど。ナイ君はこのゲームを始める前から友達の配信者はおらへんの?」

「えっと……その……いないですね……」

「ああ、せやったんか。ごめんな」

「そこは陰キャって言っていじってくださいよ」

「欲しがるなや。恥ずかしくないんか?」


 恥ずかしい。が、気まずくなるよりましだと思った。


「え……ホンマにおらへんの? ナイ君のことはよく知らんけど、配信歴がかなり長いことは聞いたことがあるよ?」

「10年近くやってます……」

「じゃ、じゃあ一人くらい仲のええやつがいても」

「ずっとソロ配信し続けてきました……」

「うーん……この陰キャが」

「あ?」

「キレんなや! いじれ言うたんはナイ君やろ!」


 それは全くその通りなんだけど、脊髄反射でキレてしまうから仕方ない。

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