第28話 客室エリアでの銃撃戦

 やはり名前の通り、豪華客船の中は若干引いてしまうほど豪華だった。赤いカーペットが床に敷かれていて、壁や天井には金の装飾がふんだんに施されている。


「で、どこに行くんやったっけ?」

「最上階です」


 船の中の階段をダッシュで上り、4階に到達。


「……デッキに出るのか」


 豪華客船らしい、広いプールがあった。が、そんなところで泳いで遊ぶ余裕などない。無視して進み続ける。


 そうして、またもや金の装飾で溢れている、廊下が異常なほどに広い客室エリアに入ったところで。


「ナイ君! 敵っぽいのがおるよ!」


 アセラさんの注意を聞いてすぐに足を止めた。401号室と思われる客室の前に見えるのは5体のNPC。まだ誰もこちらの存在に気付いていないみたいだ。


「じゃ、撃っちゃいますか」


 早速キャラに銃を構えさせた……のだけれど。


「待って、ナイ君。ここで撃つのはどう考えても得策じゃない」

「え……そうなんですか?」

「当たり前やね。隠れながら撃たへんと、蜂の巣にされて一瞬でやられてまうよ。FPSとかやったことないの?」

「あ、はい。ないです」

「ほなシューティングゲームを始めないとなあ……ハジメ・ナイだけに! ガッハッハ!」

「え、いや、その」

「笑えや!」

「す、すいません……いや、俺悪くないでしょ……」


 アセラさんの酷過ぎる冗談はさておき。撃ち合いに関しても知っておくべきことがあるみたいだ。


「一瞬で5体倒せたらええけど、実際はそんな上手くはできへん。相手に撃ち返されることを考えなあかんのよ」

「うーん……何かに隠れながら撃てばいい、ってことですか?」

「そういうこと。例えば、そこの柱を遮蔽物代わりにする、とかやね」


 廊下の右端に視線を向けると、キャラ一人分ほどの横幅を持った柱があった。確かにそこの裏側にいれば銃弾をもらうことはなさそうだ。


 その柱の陰にキャラを移動させる。銃撃戦に巻き込まれないようにするためか、アセラさんのキャラはもう少し遠くにあった壁の窪みに身を潜めていた。


「ええか、撃つ前に落ち着いて照準を敵に合わせるんや」

「は、はい」


 このゲームは三人称視点であるため、体を隠しながらでも照準の位置を調整することが可能だ。5体いるうち、最もこちらの近くにいるNPCを狙う。


「そしたら遮蔽の外に出て撃つ。一人倒したらすぐに隠れるんよ?」

「わ、分かりましたっ」


 正直まだよく理解できていないこともあるけれど、とりあえずやってみるしかない。


 言われたとおりキャラを柱から飛び出させ、敵を撃つ。銃声が響き薬莢がカーペットの上を転がった。


 10発ほど撃ってヒットしたのは2,3発程度。そのうち1発頭に当たったのか、そこから血を吹き出しながらNPCは倒れた。


「よし。……で、戻らないと」


 すぐにキャラを柱の裏に移動させる。ちょうど体が隠れ切ったところで、残りの4体のNPCがこちらを撃ってきた。


「アワワワワワ」

「感情のない声で慌てられるとめっちゃ不気味やね……まあ安心してええよ。その遮蔽を銃弾が貫通することはなさそうやし」


 実際、敵が撃つ銃弾は全て柱が防いでくれていた。軽く胸をなでおろす。


 ……下手なことをしたらやられてしまう。これはこれで悪くない緊張感だ。


「隠れている間にRキーでリロードして、相手が撃つのをやめた瞬間に撃ち返す。そして一人倒したらまた柱の陰に戻る。これの繰り返しやね」

「……ずる賢いだけじゃなかったんですね」

「私は普通に賢いからなあ。少なくともナイ君よりは」

「一言余計です……マジでうざい」


 イライラを抑えながら1体ずつ冷静にNPCを処理していく。2分ほどかかってしまったが、全員倒すことができた。


 しかし。


「すいません、撃たれちゃいました」


 最後の一体に全く銃弾を当てることができず焦った俺は、遮蔽に隠れるのが遅れてしまい2発ほど弾をもらってしまった。


「大丈夫や。すぐ治療する」


 アセラさんのキャラがこちらに駆け寄り、包帯などを虚空から取り出して俺のキャラの傷を癒し始めた。


「ナイ君はこう……丁寧に撃つんやね」

「え、そうですか?」


 急に褒められた……のか?


「アホ、時間がかかりすぎっちゅうことや」

「最初からそう言えばいいじゃないですか……」

「一回は遠回しに言わんとおもろないやろ? ……ほら、さっさとお金を回収せな」


 ちょうど治療が完了したため、俺とアセラさんのキャラは走り始める。大金がある401号室へ。

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