第27話 2回目の中型強盗、開始

 61番地の海岸沿い。広大な草原の中に、一本のアスファルトで舗装された車道が引かれ、その両脇に建物がぽつぽつと並んでいる。


 しかし、一つだけ異彩を放っている建造物があった。


「これがターミナルか……」 


 白を基調とした近代建築。東側と北側が全面ガラス張りとなっており、独特な美しさを醸し出していた。


「カッコいいな!」

「ウラはいつもそう言うよね。……実際、カッコよくはあるけどさ」


 だが、観光しに来たわけじゃない。襲撃しに来たのだ。


「あたしとウラちゃんは建物の間にでも隠れて、警察を撃ちまくりましょうか」

「分かったぜ!」

「じゃあナイ君、行こうか」

「そうですね」


 ここで二人一組で分かれることに。アイラとウラは車に乗ったまま移動を始めた。

 対して、俺とアセラさんはターミナルの入り口近くに駐車させて、キャラを車から降りさせる。


 さて、内装はどうなっているのやら。


「……これまたすごい」


 白い大理石の床や壁。エントランスは吹き抜けになっていて開放感を感じさせる。遠くの方には、ラウンジやカフェのような店が見えていた。

 高級感に溢れていて、思わず見惚れてしまいそうになるレベルだ。


 じっくり見て回りたいところではあるけれど、それはまた機会があったらにしよう。今は強盗だ。


 正面にあった階段を駆け上がり、そのまままっすぐ進む。長い廊下を走り続けると、やがて外に出た。


 視界に広がるのは綺麗な青い海。太陽の光を反射して、きらきらと輝いている。俺たちのキャラの前には長い桟橋があり、その先端のあたりに、普通の客船の2倍ほどの大きさである豪華客船が停泊していた。


「やっぱり遠い……」


 ノース銀行の場合、地下の金庫部屋から地上までで1分もかからなかった。しかし、今回は豪華客船にたどり着くまでで2分ほどかかっている。


 たった2分。されど2分。パトカーのスピードを考えれば、警察が現着するのには十分な時間だ。


『アイラ、そういえば警察に通報が入るタイミングっていつなんだ?』


 トランシーバーを利用して気になったことを聞いてみる。


『豪華客船に一歩でも足を踏み入れたら、そこで通報が出ちゃうわ』

『オッケー、ありがと』


 そこからは気を緩めることができなさそうだ。今のうちに深呼吸をしておこう。そう思って、船の入り口の前でいったんキャラを立ち止まらせる。


 すると、アセラさんが戸惑ったように声を出した。


「……ん? ナイ君、早く行こうや」

「え、今アイラが言ってたこと聞いてなかったんですか?」

「アイラ君が? あの子は近くにおらへんよ? 幻聴と違う?」

「……すいません、トランシーバーアプリって知ってますか」

「なんやの、それ」

「……」


 何か忘れていることがある気がするとアイラが言っていたけど、恐らくこのことだろう。俺はアセラさんにトランシーバーアプリの使い方を教えた。


「こんな便利なもんがあるんやねえ」

「はい。……それで、通報が入るタイミングなんですけど――」


 続けて、アイラが先ほど言っていたことも伝えておいた。


「……そうなんやね。じゃあここで気持ちを切り替えたほうが良さそうかなあ」

「ですね。俺はいつも深呼吸してます」

「私もそうするかな」


 マイクをミュートにして、ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。喉の渇きを感じたため、机に置いてあるペットボトルを開けて水を口の中に流し込んだ。


 ……2回目の中型強盗ではあるけれど、種類は全く違う。そのためか、飽きは感じずに、先ほどと同程度の緊張感が体を襲ってきた。


「ナイ君、行けるか?」

「はい、大丈夫です」


 アセラさんも準備は整ったらしい。


『アイラ、ウラ。もう始めちゃうよ』

『分かったわ』

『了解したぜ!』


 二人も問題なさそうだ。


「よし、じゃあ行きますか」


 俺とアセラさんのキャラが同時に船に乗り込む。……豪華客船強盗、開始だ。

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