雄弁に咲く(5)
「お前は味方か?それとも敵か?」
"どうして生きているのか"と言う質問よりも敵かどうかを聞いたのはシグレにとってかつての仲間が敵であって欲しくないと言う気持ちが強かったからである。
風がなびく。しばしの沈黙。
そしてテンコがゆっくりと語り始める。
「この慰霊碑の子らも"ミラー"に使われた子らも自分で体感した想いとか伝えたい事がそれぞれいっぱいあったはずや。最早喋ることも叶わん今の状態になってもそれは変わらん。むしろ、口があった時よりも強くなってる。そしてその想いを紡げるんが未だ口を持ってるウチだけやとしたら?ウチはな...あんたが今でも好きや。どうしようもないくらい。そんなウチの想い、この子らの想いを紡ぐためにもウチは生きてみんなのところにおらなあかん。生きて生きて生きて...みんなのところに...なぁ?シグレ。」
そう言ってテンコが見せて来たのは生前同様頸に刻まれている刻印だった。
瞬間、シグレは右手に電気を帯びさせテンコへ振りかざそうとするが、その手が届くよりも前に腹部に衝撃を感じはるか後方へと吹き飛ばされる。
「カハッ...!」
(どういうカラクリで未だに刻印が残っているのかは分からない。だがあり得ないんだ!どんな理由があるにせよその刻印がある状態で、アタシ達に生きて近づこうなんて生前のテンコなら...。わざわざ頸まで見せて来たのは分かりやすく敵だと認識させるためだ!)
思考を巡らせつつシグレはテンコの方を見上げる。
「次会うた時にはウチの全ての感情ぶつけたる!楽しみにしといてな!!」
そしてより一層強い風が吹くとシグレが瞬き一つする間にテンコは姿を消していた。
静かになった空間の中で吹き飛ばされた痛みがじんわりと残る。
たった今起こった濃密な出来事から渦巻く様々な感情、それらに思いを馳せようとしていた。
プルルルルルッ
と丁度その時、シグレの所持していた携帯が鳴る。画面を見ると、ホマチからであった。今朝揉めた事もあり、気まずさから少し出るのを躊躇うがそうも言ってられないと電話に出る。
しかし電話口から告げられる内容は予想だにしていないものだった。
「もしもs...。」
「ナガメが攫われた!!」
「ッ!何だって...!?」
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およそ20分程前、
「ったくよぉ、マジでウザってぇ...なあ!!」
「ハハ!近距離なら私の方に分があるからなぁ!」
ハクウとツクヨミによる攻防の嵐は止まず、互いの武器が触れ合う時の衝撃音は周囲にその存在感を強調している様にすら感じられるほどだった。が、生憎周りは火の海でホマチ一人が居るのみ。
ツクヨミはハクウの相手をしながら同時にホマチに対しても小さな羽根を飛ばす事で、後方からの支援を妨害していた。
「チッ!邪魔で仕方ないわね。」
しかしツクヨミの意識の大部分がハクウに集中しているおかげで、ホマチに対する攻撃は少なく、傷の疼く体でも一人でギリギリ受け切れるまでに出力が落ちていた。
(自分を守る為のバリアを展開しながら、同時に他の魔法は発動できない...そう言う時のために
ホマチがもどかしさを感じていると突如としてツクヨミが攻撃の手を止めた。そして後方へ一気に飛び上がる。
「ヒヒッ!どうやら本命の方は終わったらしい!出来るなら野望を抱いてる先輩をここでついでにぶっ殺してやりたかったところだが陽動の必要がなくなった一旦退かせてもらうぜ。」
「何だ!逃げる気かよ?もしかしてまたあの人の指示か!」
「それ以外に何があんだよ?ヤーさんの指示じゃなきゃテメェらぶっ殺すまで続けてるに決まってんだろ。」
「ちょっと待ちなさい!ヤーさんって言うのは...もしかしてヤオビクニの事?アンタ達政府の人間って言ってたものね。だとしたら本命って何?そんな奴が関わるような重要なこと?」
「質問多いのゲロウゼぇ...。私がテメェに教えてやる義理がどこにあんだ?」
冷静に考えて敵であるツクヨミがホマチに情報を教えるなど何のメリットもない。しかし、そうだと分かっていながらもナガメがもし本当に攫われた最悪の場合を想定し、不安感から来る打開策を講じる為の情報収集に一切の躊躇などできないほど動揺していた。
「ま、どうせ知るだろうし、世界一やっっさしぃ〜私が仕方なく教えてやる。今アジトに一人残ってたナガメを捕まえたそうだ。」
「な...嘘よそんな!」
「ヒヒッ!信じねぇのは結構だが、どのみちテメェら安息の時間は訪れねえぞ。」
そうして退く体制に入っていたツクヨミだったがホマチ達の方へくるりと向き直し、再び口を開く。
「あ、あと最後に一つだけ言っとくとだな...。」
まだ何か伝えられるのかとうんざりしつつもなるべく多くの情報を知っていた方が良いと判断したホマチは耳を傾ける。
「テメェらもっと笑う練習しとけや、なぁ!卑屈な表情ばかりじゃあこっちまで悲しくなるなんて事はなくてむしろワクワクするけどよぉ。笑わなきゃ人生損だぜ。ニコォ!」
重要な情報かと少し期待していた分、無駄な内容だとわかるとホマチはより一層怒りが湧き立つのを感じた。
「馬鹿野郎...!」
そうして再び翼をはためかせると大空へ駆け上がり消えていった。
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「それで今アジトに戻って来てるんだけどしてやられたわね...。もぬけの殻。誰か一人でも残っておくべきだった...いやそれは結果論ね。とりあえず今すぐ帰って来て!」
「分かった!」
電話を切るとシグレは拳を固く握りしめ、苛つきから歯軋りをする。
「テンコが言ってたナガメに関する話がどうなのか、確認しようと思ってたところでこんな...。クソッ!」
勿論、純粋にナガメが心配な気持ちや、テンコとの軋轢など様々な思いが入り混じり、ストレスは溜まる一方だった。思わず煙草を吸いたくなる自分自身を一蹴し、今自分が成すべきは取り敢えずアジトに戻る事だと何とか頭を働かせ、シグレは帰る為の足に力を入れるのだった
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