Chapter1
祈るということ(1)
————ハァ、ハァ。
息を切らす。呼吸をするのが苦しい。
視界の先に映るギラついたアスファルトがやけに鬱陶しかった。
「で、どうすんだ?」
目の前の人物がひれ伏した少女ら2人に問いかける。
「すまねぇ...全部アタシのせいだ...。」
「ええんや、シグちゃん。」
ひれ伏している内の1人であるシグレはもう1人にただただ謝罪することしかできなかった。そんな事しかできないのが歯痒かった。しばしの沈黙の後、もう1人が口を開いた。
「ウチの”楽園送り”それでどや?加えて今後一切ウチらはアンタには関わらん。だからアンタもウチらから手ェ、引いてくれ。」
「おい何言ってんだ!?テンコ、冗談だろ?」
緊張感に拍車がかかる。
汗ですら滴るのを躊躇うほどに。
「ははッ!ソイツはいい!」
シグレが”テンコ”と呼んだ少女が何処かに連れて行かれる。止めようにも体が思う様に動かない。ただ、どこにも届かない手を伸ばし虚しく叫ぶ事しかできなかった。
「待って!テンコ!!テンコォォォ!!!」
体力の限界で視界がぐらつき意識は闇の中へと消えていった。
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ガンッ
不意に打つような頭の痛さを感じシグレは目が覚める。どうやら寝ていたらしい。しかも床で。目の前にはホマチが立っておりシグレを覗き込んでいた。
「大丈夫?ちょっと六法全書落としちゃって。それがたまたま頭に。」
「何落としてくれてんだ!?」
シグレはあたりを見渡すがそれらしきものはない。
「うーそ。本当はマグカップ落としちゃってその破片が頭に。」
「結局落としてんじゃねぇか!え、てか破片?頭に刺さってんの?マジ?」
シグレは必死に頭を触ったり周辺を見渡す。破片らしきものはどこにもない。
「それも嘘よ。うなされてたのか、寝返りで勝手にソファの柱に頭ぶつけてたわよ。」
痛む頭を抑えつつゆっくりと起き上がり、若干寝ぼけ気味で記憶の整理を始める。連続通り魔殺人犯の"ミラー"に襲われ、挙句歩きで帰り、心身共に疲れてアジトに帰った後ナガメと話し、すぐに眠ってしまったのだ。時計に目をやると午前11時を指していた。
「ちょうどそろそろ起こそうと思ってたからタイミング良かったよ。」
奥のキッチンの方からナガメが朝食を運んで持ってくる。一斤を三角状でちょうど半分に切ったトーストにバターが塗られたものだ。少し少ない気もするが、昨今の景気の悪さ、物価率の上昇を鑑みれば普通に食事を取れることに感謝するべきだとシグレは思った。
「もう昼食になりそうな時間帯だし、お腹は満たしておかなくちゃね。昨日の今日であれだけど、午後から仕事入ってるからさ。ボクたちはもう食べたから。」
「あなたは起きる時間が遅いのよ。今日の仕事が15時からで良かったわね。」
彼女らのアジトは元々倉庫として使われていた場所で味気の無い所だった。そこで色々とナガメが手を加え、賑やかな装飾や部屋分けなどの区画を設置して少し彩りのある空間となった。勿論、他のメンバーもナガメの指示のもと手伝い、みんなで完成させた思い出の場所である。椅子に座り、トーストを頬張りながらシグレは部屋を見渡して昨日感じた違和感を思い返していた。
「あ、そういえばさ、思い出したんだよ。"ミラー"に会った時に。ウチが前から言ってた童話の続き。」
「童話?あ〜、飴玉とお花を売ってる女の子の話だったかな?」
「そうそう。」
一口食べればおもわずほっぺがおちちゃうほど甘くておいしい飴。
一度見ればおもわず見とれちゃうほどキレイでいいかおりのするお花。
どっちもすごくすてきなはずなのに、なぜか売れるのはいつも飴ばかり。
さいごにはいつもあふれんばかりの売れないお花たちがのこっているのでした。
するとある日、ハット帽子をかぶったおじさんが女の子の所へやって来ました。
おじさんはこのお花のすてきな所を教えてほしいとたずねてきました。
女の子はいっしょうけんめいせつめいしようとしましたが、なかなか上手く言葉にすることができません。
伝わらなくって、かなしくって、女の子はシクシク泣いてしまいました。
「何?それで終わり?」
「いや思い出せたのがここまで。」
「はぁ〜、てっきり最後まで思い出したのかと思ったらなにそれ?」
「しょうがねぇだろ。でも、もう1回会ったらまた何かわかる気がする。」
「はいはい、1人で勝手に危なかっかしい殺人鬼と罪と罰でも学んでなさい。」
「犯罪について語り合いたい訳じゃねぇし、キリスト教が好きなわけでもねぇよ!」
2人のいつもの調子にナガメは苦笑いしながら
ふと疑問に思ったことを口にした。
「ひとつ聞きたかったんだけどさ、2人は"ミラー"の姿を間近で見たんでしょう?どんなだったの?今回は。」
"ミラー"は目撃情報によって毎回姿が異なる。
しかし、あの異様な姿を説明するのには一言では足りない。そこで頭部のことを言うのが手っ取り早くわかりやすいと2人とも判断した。
「分かりやすく頭部から行くか?」
「そうね、頭部を一言で言えば...。」
同時に答えが出る。
「サメだな。」
「ワニね。」
だが、2人の答えが一致することはなかった。
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