清流の影

セレナ

第1話

1999年7月の暑い日、7歳の私は公園にいた。夏の陽射しが強く、アスファルトが熱を帯びて、かすかに焦げたような匂いが漂っていた。セミの声が響き合い、頭の中にまで鳴り響くようで、少しぼうっとした。


川の右側には広大な広場が広がり、子供たちがボール遊びをしていた。広場の木々の向こうの空には、入道雲が白く膨らみ、青空に夏の深さを刻んでいた。木陰には色とりどりの自転車が並び、まるで公園の活気を映し出す絵画のようだった。川のそばには水飲み場があり、子供が水を飲んでいた。水が喉を滑る音と、「つめたっ!」と笑う声が響き、夏のひとときを感じさせた。近くにはゴミ箱が置かれ、ペットボトルやお菓子の袋が少し溢れ、風に揺れるゴミ袋がカサカサと音を立てていた。左側には上流から下流に続く川が流れ、さらさらと水が流れる音が涼やかだった。川のさらに左にはアスレチックがあり、ネットや滑り台で遊ぶ子たちの声が遠くから届く。


川の近くでは、オジサンがラジオを聞きながら口笛を吹いていた。「もうすぐ2000年になるなんて信じられませんよね〜!来年はもう2000年代なんですよ〜 1000年代最後の夏休みみんな何やってますか〜どんどんお便りください〜」とラジオのDJが明るく話す声が流れ、オジサンの口笛が軽やかに混じった。近くの自販機から、お金を入れてジュースの缶が落ちる音がカタンと響き、空を見上げると、飛行機が通った音がゴーッと遠くで聞こえて、夏の空に白い線が伸びた。クラスメイトたちも一緒に笑って、川辺は楽しさに溢れていた。私はサキと川で水をかけて遊びながら笑い合った。公園内の人工川は冷たくて、足をくすぐった。


サキは私の大親友だ。いつも明るくムードメーカー担っている。サキはにっこり笑い、「ミナ、もっと水かけてよ!」と叫んだ。サキの目はキラキラして、優しい光があった。首に下がる鈴のお守りがチリンと鳴り、ショートカットの髪が水しぶきで光った。「サキ、ずるい! 私もかける!」私は笑いながら水をかけた。サキは「きゃー!」と跳ねて、笑顔が太陽みたいにまぶしかった。川遊びの水が跳ねる音が、楽しそうに響いた。先生が川辺に立って、「上流は危ないよ。行っちゃダメ」と言う。声が遠く、影が揺れているみたいだったけど、私は気にせずサキと遊び続けた。


昔、上流の岩場で頭を打って死んだ子供がいるという都市伝説があった。夜になると、その子の霊が川辺を彷徨い、「一緒に遊ぼう」と囁くらしい。私はその話を思い出して、少しゾクッとした。頭がモヤモヤして、記憶が曖昧だけど、私はサキの笑顔を見て忘れた。「ねえ、この前、私のおじいちゃんと遊園地に行ったんだ! ジェットコースター、楽しかった!」私はサキに話しかけた。サキは「へえ」と笑ったけど、目が一瞬、黒く光った。「でも、ミナのおじいちゃん、最近物忘れがひどいよね?最近は歩くのも大変で家からなかなか出られないんじゃなかった?」私は首をかしげた。頭がモヤモヤして、変な感じがした。「うーん、そうだっけ…?」私は呟いたけど、サキの笑顔に引き戻された。サキは答えず、鈴を握り、チリンと鋭い音が響いた。川の水面がピタリと止まり、私の顔が歪んで映った。「変なの見ちゃった!」私は目をこすったけど、サキは水面を見つめたまま、唇が動いた。「ミナ、約束だよ。忘れないでね」と頭に響く声が聞こえた。なんだか背中がゾクッとして、ちょっと怖くなった。川の向こうで、黒い影が揺れて、私の名前を呼んでる気がした。「川から出よう!」岩場に足を掛けようとした。

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