星の瞳と銃声

セレナ

第1話

第1章:星の銃声


2035年春、東京の大学。


部室は、エナドリ缶とスナックの袋で埋もれている。

壁にはボカロのポスター。角が剥がれ、テープも黄ばんでいた。


女子大生のアキはソファに沈み、スマホでSNSをスクロール。

イヤホンから、ボカロのメロディが漏れる。


その指が、トレンド欄で止まる。


「#星娘サラ」



---


隣の机で、ミホが萌えキャラのラフ画を描いている。

スケッチブックのページに、ピンクの髪の少女が笑う。


「おい、見たかよ、ヤベーな!」


タケルが部室のドアを蹴って入る。

ミリタリー柄のTシャツが汗で張りつく。


「え? なになに?」


ミホがペンを置き、顔を上げる。


「トレンド1位、これ! ザフィール公国ってとこの生配信、大統領暗殺したらしいぜ!」


タケルがスマホを振り回す。


「マジで? やばくね?」


ユウがソファから身を乗り出し、コントローラーを放る。


「おい、みんなで見てみよーぜ!」


リョウが埃まみれのノートPCを開く。


「ザフィールってどこ?」


机の隅で、サラリがぼそり。


「知らんけど、トレンドやばいから見なきゃ!」


アキの心がざわつく。

スマホを握り、リンクをタップ。


部室の空気が熱を帯びる。



---


PCの画面が、ザフィール公国の廃墟を映す。

地下シェルターの鉄扉が軋み、埃が舞う。


中年の大統領が、コンクリの陰に縮こまる。

怯えた目が、特殊部隊の懐中電灯に揺れる。


13歳の少女――サラ。

彼女は戦争で両親を殺されていた...

復讐を果たす為に少女兵に入ったのだ。


ベールに包まれ、銃を握る。

汗でベールが頬に張りつく。

銃口が震える。


「撃て、サラ。世界が見てる。」


隊長の声。

カメラの赤い光が、彼女の瞳を捉える。



---


部室の6人が息を止める。


タケルの手が、スマホを握り潰しそうになる。


「やめろ、子供だろ!」


大統領の叫びが、シェルターに反響する。


サラの胸に、両親の笑顔と、アルディアの空襲の炎。


爆音、燃える家、母の悲鳴。


瞳が、隙間から覗く星の光を映す。


「You started it all!」(あなたが全てを始めたんだ!)


サラの声が、闇を裂く。


ベールが砂に落ち、黒髪が星光に揺れる。


引き金を引く。


銃声。


血が、床に広がる。

視界が滲む。


生配信。世界が晒す。



---


「…少女が、撃った。」


ミホが息を呑む。


「戦闘少女すぎる…アニメみたい。」


ユウが目を逸らす。


「あの瞳、心に刺さるよ...」


アキの指が、スマホを握りしめる。


サラの瞳が胸を突く。

ボカロの音も消えた。



---


SNSが即座に爆発する。


「#星娘サラ、トレンド1位!」

「#サラにゃん、星の美少女やばい!」


萌え好きは、猫耳サラ、VTuber風サラを量産。


「#サラにゃん猫耳神😺」

「サラちゃん推ししか勝たん!」


SFファンは、戦闘機サラ、軍服サラ、80年代SFヒロイン風。


「#星娘サラ、戦闘機で無双!」

「気高いサラ、80年代SFのヒロイン!」



---


「俺、戦闘機サラ描くわ!」


タケルが叫び、ミホの目が輝く。


「猫耳サラ描こうかな!絶対バズるよ!」


アキも、ファンアート感覚で#サラにゃんと投稿。


「バズるかな...」


投稿ボタンを押す指が、重い。

サラの瞳が離れない。



---


SNSで寄付の声が上がる。


「#サラにゃんに普通の生活を!」

「サラちゃんに学校行ってほしい😺」


1,500人がNGOを通じ、150万円を寄付。


部室のPCに通知が響く。



---


2035年、資源戦争。

アルディア連邦はザフィールを焼き尽くした。


同盟国からも支援を受けられず、アルディアは崩壊。

軍事政権は、サラを**「復讐の象徴」**に仕立てた。プロバガンダとして利用したのだ。


サラはシェルターの片隅で膝を抱える。


銃声が夢に反響する。

空襲の炎、父の言葉。


「星は命を見守る。」


なのに、自分の手は血に濡れた。


「私が撃った。私の罪だ。」


壊れた窓から、星空。


瞳に、涙が星を滲ませる。

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