出会いは暑い夏の日…

まだ慣れない土地…街並み…

頭はハッキリとしない…この日差しの良さと暑さのせいだろうか?わけもわからずフラフラととにかく歩くことしかできない…


しばらく歩くとついに限界が来たのか、目の前が一瞬暗くなる。


ドサッ


気がつくと誰かの腕が自分を抱えていた。


『大丈夫か⁉︎お前⁇』


どうやら倒れるところだったみたいだ。誰かが助けに来たみたい。


あ…え…


俺は口も聞けないほどになってる。


『…熱中症だろこれ…大丈夫だうちで冷やしてやるから…』


彼は自分よりデカい俺を抱えて、駄菓子屋と思われる店の中に運んでくれた。

お店に隣接してる居住スペースの居間の畳の上に寝かされると、とにかく冷やすものをと男は部屋の冷凍庫などを慌てながら漁る。


「チューペット…これでも良いだろ…冷食でもいいか…すぐ食べりゃいいし…」


彼はどんどん俺の脇や首筋、脚などにどんどん物を乗せて冷やしていく。氷を入れた袋なども頭に乗せてくれた。

どうやら熱中症の人間の対応に慣れてるようだ。教科書とかで見た気もするな…


そのまま寝てると…


「これ飲めるか⁇缶のしかなくて…ほらストロー刺してあるから…」


缶のスポーツドリンクにストローを刺した物を口元まで持ってきてくれた。どうにか飲めた…あぁ美味いな生き返る…


その頃合いだろうか?意識がハッキリしてきたのは…

助けてくれたその“彼”は、無精髭をたくわえ無造作でうねった前髪で片目が隠れるほどの長さと言う怪しい見てくれだったが、その見える方の瞳はとても優しく心配している事が伺える。俺は目が離せなくなった。と言うか心が彼を離したくないと訴えてるような不思議な感覚を覚えている。


ガバッ


俺はあれから、しばらく寝てたみたいで、勢いよく起き上がり周りを見渡すとまだあの駄菓子屋に居た。


『うっわ、びっくりしたぁ⁉︎』


そこの店主と思われる男がとても驚いた顔でこっちを見ている。あまりの勢いにビックリした様子。


「ここはどこ⁇…俺は…」


『もしかして記憶喪失⁉︎俺は誰って⁇』

男は言葉の途中に割って入ってきた。


「なわけないです…ちゃんと記憶あります。」


俺は呆れた顔で突っ込んだ。


『な〜んだ…お決まりの展開期待したのに…』


その男は訳がわからないことを言う。

俺は冷静沈着、こう言うタイプはどう接していいかまだわからない年頃だった。


男は立ち上がると俺の周りの溶けていった物たちをかき集めて、居間の奥の台所へと去っていく。


そして戻ってくると、まさに家庭的な王道の手作りの麦茶を持って戻ってきた。


『ほら、もう動ける元気出たならとりあえずお茶でもどーぞ。』


差し出された麦茶を飲む。こんな家庭的な奴いつぶりかな⁇むしろ初めてなんじゃないかな⁇雰囲気に飲まれてるのか、やたら美味しかったな。


「美味しいです…助かりました。ありがとうございます。」


『いえいえいえ…ただの普通の麦茶だよそれ。』


男はニコニコとそう答えた。さっきまで記憶上ではあんなに慌てて心配そうに俺を覗き込んでた顔との差が、なんだか癒される。


『そういや、見かけない顔だね⁇…と言うか何歳⁇学生だよね⁇それ制服だよね⁉︎身長大きいね、髪も染めちゃって…もしやヤンキー⁇』


男は俺に顔を近づけてきて急に質問攻め。俺は冷めた目で彼を見てしまった。


『あっ、いや、ごめんごめん。ここ駄菓子屋だから、よく来る子供達は覚えてるけど、君は見た事ないタイプというか?珍しいと言うか…だから都心から来たのかなって思って…』


俺の表情が怖かったのか彼は少し怯えつつ引き下がっていく。

確かに、身長はでかいし、髪は染めてる。

そしてあんま表情に上手く感情を乗せれないので怖い顔に見えると思うから、怖がられても仕方ない。


「あなたもどちらかと言うと駄菓子屋の人ってより、怪しい物とか売ってそうですね。インドとか行くの好きそう…」


俺もその時は珍しく人にこんなふうに言い返せた。今でも不思議に思う。基本、人に心開かずって感じと言われてきたので…


『確かにインドは屋台とか美味しそうだし気になるけど〜行った事はないわなぁ…ってなんだそれ⁉︎褒められてるの⁇悪く思われてるの⁉︎』


「あなたもヤンキーとか言いましたよね。勝手なイメージで…多分悪い意味ですね怪しいってのは…」


『だからかな…俺の代になった初期は客足減ったの…』


男は腕を組んで昔を思い出す。


なんだろうこの感じ…俺なんで初対面の人とこんな会話弾んでんだ⁇今まで経験がなかった。


『これでも頑張ってみんなに「怖くないよ〜あのおばあちゃんの孫だぞ〜面白いお兄さんだぞ〜」って子供達の前ではニコニコして優しくしてさ…てか、君…お名前は⁇本当に見た事ない子だから引っ越してきたばっかかぃ?』


「雫です。ここの近くの高校に転校したばっかで道に迷ってました所助けていただきありがとうございます。ところでおじさんは逆にお名前は⁇」


『いい名前だね〜俺は“タロウ”。困ってる子供を救うのも仕事の一部ですからね…っておじさん言うな‼︎まだ30代だわ…そりゃ10代から見たらおっさんかぁ…そうか…』


“太郎”さんは顔を手で覆って俯いて落ち込む。

その姿もまた可愛い…

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