【短編】うちの喫茶店のウザい後輩。いつの間にか後輩が魔法少女契約していた件
高月夢叶
第0話 プロローグ/運命の出逢い?
四月七日月曜日。
運命的な出逢いというのは信じるか否かと言われると俺は後者を選ぶだろう。
運命的な出逢いとは、恋をして結ばれた二人が、お互いの出逢いに想いを馳せ、あの出会いは
運命的だったねと振り返るものだろう。
例を挙げるなら、偶然にも痴漢に遭っている女の子を助けた。そうしたら好かれてその結果、付き合うこととなった。
それも、その助けた相手が国民的アイドルだった。そんな上手い話は世の中には転がっていないだろう。そういうのはマンガかラノベの中だけのフィクションだろう。
リアルはこうだ。そんなことあるわけがない。だが、この日俺は運命的な出逢いに遭遇した。
ここから俺の物語が始まる。刮目せよ!
俺、
新年度が始まり、入社二年目を迎える二四回目の春を迎える俺は、この爽やかな新しい季節の始まりに胸を膨らませていた。
別に、素敵な女性との運命的な出逢いを期待しているわけではない。
電車内はぎゅうぎゅう詰めで圧迫感がスゴイ。都内の電車かと思った。乗ったことはないけど。
ふと、俺の斜め前の大学生風の男が、前方のリクルートスーツ姿の女の子の臀部に触れて
撫で回していた。女の子は俯いて肩が僅かに震えていて、表情が分からない。
150cmくらいだろうか?何故、女子中学生がリクルートスーツを??と疑問に思った。
それより、この男の臀触行為をやめさせないとだ。誰か止めに入ってくれる人はいないのか!?
だが、誰も気付いているが見えていない振りをしているようだった。
俺が止めに入るしかないのか?!
俺は、意を決して彼女のお尻を触っている手を掴み、「この人痴漢です!」と声を張り上げた。
つもりだったが、思いの外ボソボソ声となってしまった。
痴漢男は、「なんのつもりだよ、オッサン。離してくれよ。僕はなにも......」とシラを切る。
「いや、離さない!」と尚も男の手を握る手を強める。
『それに俺はオッサンじゃない!!』と思いの外大きな声が出てしまった。
「じゃあ、なんなんスか?」男が怪訝な声で尋ねる。
「お兄さんだ!」
「いや、どっちでもいいんスけど......それより、この手はなんスか?」
「君、この子に痴漢しよな?!」
「だから、僕はなにも......僕はやっていない!!」
『ウソだ!!この人、わたしのお尻を触ってきました!それも執拗に!!』リクスーの女の子が睨みつける。
あ、自分で言うんだ。でも、良かったのかな?
『じゃあ、俺は次の駅で降りて、この男を駅員に突き出すから君も少し時間いいかな?」
そして、関屋駅に到着して、駅員に男を明け渡すと、時刻は八時三〇分となっていた。
「さっきは、助けてくれてありがとうございました」と深々と頭を下げて、ゆるふわのミディアムヘアーが垂れさがる。
「じゃあ、俺はこれで!会社に遅刻しそうだからさ」その場を後にしようとしたところで女の子に呼び留められる。
「あの、わたし、今日が入社式なんです」と言いそこに「連絡先を教えてください。お礼がしたいんです」
という言葉はなく、彼女は颯爽と走り出す。
俺も会社の方向が同じだったため彼女の後を追って彼女の小柄で可愛いお尻を見ながら走る。
二人して息を切らして走り、やっとの思いで目的地へと辿り着いた。
彼女は上った息を整えながら「これだけは、言わせてください......」と言葉を続ける。
「改めて、ゴッホッ助けてくれて、ゲッホッありがとうございました!」
肩で息をしながら彼女は言う。
そして、最後に、「貴方のことは決して忘れません」と息が整ったのか満面の笑顔で言うのだった。
「じゃあ、わたし入社式があるので、これで。本当にありがとうございましたー」
「待って!この喫茶店さ、俺も働いているんだけど君ってもしかして......」
『わー、遅刻するーー!!』さっきやっと落ち着いたのに、すっかり取り乱してしまう。
「うん。急いだ方がいいな。俺も急ごう!」と彼女の後を追うのだった。
***
「初めまして、春風咲実と申します。咲く実と書いてえみと読みます。慣れないこともありますが
ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」と一〇〇点満点の挨拶をする。
これには、皆んな感心して拍手で彼女を迎える。
「元気で真面目な子が入ってきて良かったねー」と青山さんが俺を見て言う。
「な、なんですか?俺は別に......」
「またまたー鼻の下が伸びいてるよー」
「っ......」
『表現が古くないですか?』とか、『時代を感じますね』などいらないことは言わないで黙秘を貫いた。
春風が俺に気付き、『あー、あなたはさっきのー!?』と指を指す。
「なに?知り合いだったの?!」と青山さんは驚きの表情で言う。
「ちょっと、通勤電車で一緒だったんですよ」と痴漢の件は伏せて話した。
「それで、もう仲良くなったと......」
「は、はい。まぁ......」
「新人にツバをつけるのが早いんだねー」と呆れ顔でジト目を向けられた。
「いや、俺はそんなつもりは......」
「でも、知り合い同士で丁度良かったわー。佐藤くんに春風さんの教育係になってもらおう思っていたからー」と柔和な声で言われる。
「な、なんですって!?」
「え?イヤ?!」
「わ、分かりました!」別にイヤと言う程のものじゃない。少し驚いてしまっただけだ。
だから、俺は多少戸惑いながら、承諾する。
「よろしくお願いします、佐藤先輩!」と元気よく呼ばれる『先輩』というワードに心が踊る。
「ああ、よろしく。春風さん」
この時の俺は、通勤電車で痴漢から助けた女の子が偶然にも会社の新入社員で運命的な出逢いを感じていて、いい子が入ったなーくらいにしか思っていなかった。
そう、彼女の本性を知るまでは。
***
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