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「藍は……死んで、る、のか?」

「不吉なことを言うな。藍は生きている。だが……その藍に関して言えば、死んでいる、という言い方もできる」

「どういうことだ?」

 木暮はカップを机の上に置くと、陽介に近づいて来る。


「もともと、もうその体は限界が近かった。普段なら夜間はモードを切り替えて消費電力を落とすんだが、修学旅行中は宿泊もあってできなかった。それが決定打になってしまったんだな。あと一年間はもつ予定だったんだが……ゲームオーバーだ」

「あんたは、一体……」

 木暮は、混乱する陽介に視線を向ける。


「医者であり、開発技術者であり、藍の兄、だな」

 藍の眠る台の横に立った木暮は、白いその頬を愛おしそうになでる。

「がらくたってどういうことだ」

「言葉通りだよ。この体はもう壊れてしまった。言ったろ。この子は、アンドロイドだ」

「……冗談、だろ?」

 木暮は、陽介を真っ直ぐに見た。


「これを見てもまだ信じられないのか?」

 木暮は、機械に繋がれた藍の頭部を目で指す。確かにそれは、生きている人間のものではない。

 陽介は、ためらいながら藍に近づいて、自分もそっとその頬に触れてみる。白い肌はふんわりと柔らかかった。そして、信じられないくらいに冷たかった。

 とても、生きている人間の体温ではない。


「その体は、もう稼働を停止している」

「動かないってことか」

「そうだ」

 ぷにぷにとその頬をつまんでみても、藍は動かない。

「藍」

 そっと呼びかけてみるが、藍はなんの反応もしない。

「藍」

 それでも陽介は、ひどく優しい声をかける。


「死んだわけではない。藍は、今も生き続けている」

 藍の顔を見下ろしながら、陽介は絞り出すように言った。

「一体、どういうことなんだ……説明して欲しい」

「木ノ芽藍。本当の名前は、木暮藍だ。彼女は、今この瞬間も病院で眠り続けている」

 淡々とした声に、陽介は木暮を振り返る。


「小学5年生の時だ。交通事故だった。幸い……と言っていいのかわからないが、目だった外傷はなかった、だが、頭を強く打って意識不明になり、6年たつ今でも目が覚めない」

 木暮はそこにあった椅子に座り、陽介にも同じように椅子をすすめた。藍から手を離すと、陽介もそこに素直に座る。


「俺たちの父親は、ある会社に勤めている国内でも優秀なAIの開発者の一人だ。現在ラボで行われている最新研究の一つに、アンドロイドとしてのAIの活用がある」

「アンドロイド……こんなに人に似せて作れるものなのか」

木暮は、自嘲するように笑う。


「これくらいのことは各国ですでに行われているさ。人と差がないアンドロイド。我々もそれを研究課題としている。特にこの肢体は、現在の最高技術を持って作られている。手触りや動きは通常の人体とほとんど差がないし、内蔵するAIに関しても、我々のやってる開発は世界でもトップクラスの部類に入る。……が、今回のことを鑑みれば、まだまだ改良の余地はありすぎるほどあるな」

「そんなん、一企業がやっていいんですか?」

「一企業とは言え、もちろん国からの援助も受けて……ありていに言えば、監視されて、いずれはこの国のために使われる技術だ」

「この藍は、その研究のための?」

 顔をしかめたままの陽介に、木暮が頷く。

「藍……人間の方の藍は、幼いころからデータサンプルとしてその身にチップを埋め込み、いろんな感情を記録されて来た」

「それは、本人に負担になることではないのか?」

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