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 あれから数日がたって、陽介は誰もいない放課後の教室で諒を待っていた。

 がらりと教室の扉をあけた諒は、一番前の席でぼおっと座っている陽介に持っていた缶コーヒーを投げる。


「陽介、ほら」

「うおっと。……あちっ」

 タイミングを外した陽介は、その缶を落としてしまう。

「どんくさい」

「ぼーっとしてただけだよ」

 落ちた缶をひろって軽く拭くと、陽介はそれを開けながら聞いた。


「先生、いたか?」

「ああ。これで明日からの修学旅行、心から楽しめる!」

「こんなぎりぎりまで課題の提出忘れてるやつなんて、修学旅行中止でいいのよ」

 諒と一緒に課題提出に行っていた皐月が言った。皐月はとっくに課題は提出済みだったが、一人で怒られに行くのが嫌だと諒がだだをこねたので、先週陽介に謝るのにつきそってもらった皐月がついていってくれたのだ。

「そんなあああ。皐月ちゃんのいけずううう」

 わざとらしくすがりついてくる諒を無視して、皐月は陽介をのぞきこむ。


「それより、最近の陽介、ずっとぼんやりしてる。ちゃんと寝てる?」

「ん……まあ、そこそこ」

 言っているはじから陽介はあくびをかみ殺す。陽介の机に腰掛けて、諒も缶コーヒーを開けた。

「夜遊びのしすぎだろ」

「言い方」

 からかう諒に、陽介は苦笑を浮かべた。

 陽介の夜遊びが星を見に行くことだと、諒も皐月も理解している。


「この寒いのに? ……もしかして風邪でもひいたんじゃないの?」

 一番気になる、一人で行ったの、という質問を、皐月は飲み込んだ。

「いや? 元気だよ」

「明日はもう修学旅行なんだから、今日は早く寝るのよ。前日になった体調崩していけなくなったなんて、泣くに泣けないわよ」

 心配そうに言った皐月に、後ろ暗い理由を持っている陽介はあわてる。


「本当、体は大丈夫。調子悪いのは……なんというか俺の気持ちだけの問題で……」

「気持ち?」

「や、あの、その」

 陽介が言いあぐねていると、諒が口をはさんだ。


「皐月、バスケ部いいのか?」

「あ、いけない、もうこんな時間! 今日は後輩ちゃんたちとお土産の話する約束してたんだ。ごめん、陽介。話の途中だけど、私行かなきゃ。また明日! 寝坊しないでね!」

 カバンを持ってあわてて教室を出ようとした皐月は、途中で振り返った。


「何かあったら言ってね? 友達でしょ?」

「ああ。ありがと」

「あと……暖かくなったら、私にも星を見せてね」

「あー……わかったよ」

 藍と一緒に星を見ていることがばれてしまったので、さすがにそこでだめとは言いにくい。


 陽介の答えに皐月は淡く笑むと、手を振って足早に体育館に向かっていった。

「お前さあ」

 皐月を見送った諒が、陽介に向き直った。

「もしかして……藍ちゃんと、何かあった?」

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