第4話 爆心地にて④

杖に巻かれた飾り布はひとりでに発火し、端から燃え尽きていく。


(何だ……?)


アインスとは長い付き合いであるツヴァイも、その飾り布の意味を知らない。

その時、ツヴァイの腕に――隊員たちの腕に巻かれた飾り布が、一斉に燃え始めた。


(熱いっ……!)


痛みと共に虚脱感に襲われ、ツヴァイは気づいた。飾り布にあらかじめ仕込まれていたのは、他者から魔力を吸い取る『魔力吸収』【ドレインアナザー】

ツヴァイはかなり多量の――自らの魔力総量の半分以上の――魔力を吸われたことがわかった。

そしてそれは、魔法使いや僧侶でない普通の人間にとっては確実に致死量だ。


「あ……アインス……貴様ぁ……!」


隊員たちの痛みに呻く声は今や、ひとつも聞こえなかった。

物言わぬ彼らの代わりに、ツヴァイは憤りのあまり喉を潰して叫ぶ。

ツヴァイの『詠唱禁止』が、今更ながら解けた瞬間だった。


――あの外道、仲間を生贄に……!


「言ってろ。肝心な時に役立たずの木偶の坊が!」


アインスはツヴァイを一笑に付す。

一回分の詠唱破棄含め、二発の『火柱』に十分な魔力を手に入れたアインスは、勝利を確信していた。


「ふーん……人間にしてはなかなかイイ趣味してんじゃねえか。なぁシト、詠唱終わった?」

「マオ、ごめぇん……」


詠唱の終わったらしい魔法を手のひらに留めたまま、上目遣いで謝ってくるシト。

――何故だか、すさまじく嫌な予感がする。


「……何だよ?」

「攻撃対象ほとんど死んじゃったから、僕の『生命吸収』暴走しちゃうわ」

「は?」

「えへへへ」

「ふざけっ……それ、俺も死ぬやつじゃん!」


もう笑うしかないシトと、青ざめるマオ。

そんな不慮の事故が起きているとはつゆ知らず、アインスは居丈高に杖を振りかざす。


「天すら灼き焦がせ! 『火柱』【エンタシス】!」


立ち昇る二つの巨大な炎の柱。

先ほどとは桁違いの熱量に、離れていても熱射が感じられる。

炎は龍のように絡み合い、うねりながら、マオとシトに向かって伸びていく。


「あっ、高エネルギー体来た! マオ、僕の魔力防壁破って!」


この際生命力でなくても何らかのエネルギーを吸収できれば、暴走の威力を抑えられるかもしれない。

シトの意図を汲んだマオは、素早く爪を振るってシトの魔力防壁を破壊した。

勢い余って、シトの肩口が少しだけ裂ける。


「っしゃオラァア!」

「いった! もっと優しくしてよぉ……」

「んな余裕ねぇよ! 早く吸収しろ!」

「……そうだった」


シトは持て余している『生命吸収』の魔法を炎に向け、盾のように構える。

炎はもう、すぐそこまで迫っていた。


「あっこれ熱い!」

「うわあっつっ!」


慌ててシトは大きな翼を前に展開し、ふたりでその陰に隠れる。

手を繋いでいれば、シトが羽ばたかずともマオの翅だけで浮遊していられた。


「喰らい尽くせ、『生命吸収』【ドレイン】――」


翼の間から伸ばされたシトの手のひらから、魔法が解き放たれる。

そうして、『生命吸収』は暴走した。

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