第2話 爆心地にて②
(ツヴァイ、街道沿いの荒野)
この街道沿いには、二人組の魔物が出るらしい。
何組もの冒険者パーティや傭兵団が討伐に出たが、一人として戻ってこなかった。
そうしてその魔物に襲われた遺体は、無残に食い散らかされているという。
「ツヴァイ、どうした」
「アインス様、先遣隊と連絡が取れません。恐らく例の魔物に襲われたのかと……」
「チッ、無能どもが。捨て置け」
この度編成された、本隊二十八人の討伐隊。
リーダーの魔法使いアインス、僧侶のツヴァイ、あとは街で募った傭兵たち。
味方が分かるようにと揃いの飾り布を巻いているだけの、有象無象の集まりである。
ツヴァイは内心ため息をついた。
……おそらく私以外、全員囮である。
アインスは強い魔法使いではあるが、とても人格者とはいえない。
簡単に味方を見捨て、平気で味方を巻き込む攻撃魔法を使う。
しかしアインスの操る強力な魔法がなければ、この魔物達は討伐できないだろう。
そうなれば、ますます多くの犠牲者が出る。
ツヴァイは討伐隊のメンバーをちらと振り返った。
……少しでも多く、私の手で仲間を救おう。
できることをするまでだ。
そう決意を固めた時、前方に倒れている人々の姿が見えた。
「先遣隊だ……!」
近寄ってみると、確かめるまでもなくその全員が死んでいた。
腹を破られ、内臓を貪り食われた様子がまるで目の前で行われたかのようにわかる、凄惨な状態だった。
――次はお前たちがこうなる番だ、と囁く魔物の声が聞こえるようだ。
隊員たちが息を呑み、戦闘への緊張が走る。
アインスが苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「くそ!……忌々しい悪魔どもめ。この辺りにいるに違いない。探せ!」
隊員たちが警戒する中、私は遺体に向かって短い祈りを捧げ、その内のひとりに目を止めた。
他の死体の下敷きになっている青年だ。
微弱な魔力反応。まだ息がある。
私は慌ててその青年を死体の下から引きずり出し、抱きかかえて声をかけた。
「君! しっかりしなさい!」
「うぅん……」
襟足で束ねられた亜麻色の髪を払いのけると、睫毛の長いまぶたがぱちりと開いて、彩度の低い青灰色の瞳と目が合う。
ひどく血で汚れているが、まだあどけないところのある、優しい顔立ちの青年だ。
こんな者が先遣隊にいただろうか?
寄せ集めた隊員たちの顔を全ては覚えていない。
巻き添えになった民間人の可能性もある。
青年は焦点の合わない目で、ツヴァイを見つめて口を開いた。
「……あなたは?」
「アインス隊所属、僧侶のツヴァイだ」
「ツヴァイさん、ほかの人は……?」
青年はふらふらと立ち上がろうとする。
ツヴァイは慌てて青年を支えた。
「おい、無理するな」
「……うっ!……ぅえ……」
青年は口を押さえて、それから地面に膝と手をついてしまう。大方魔物に食われた遺体を見てしまったのだろう。
そのまま嘔吐する青年を哀れに思いながら、背中をさすってやる。
「大丈夫、大丈夫だ。もう討伐隊が来たんだ……か……ら?」
青年の吐いたものが目に入り、ぎくりとする。
血を吐いたかのように赤く、どす黒い。
噛み砕けていない生の、臓物のような組織がたくさん混じっている。
これではまるで、生き物のはらわたでも食ったかのような――。
「……んふふっ」
青年の背に置いたツヴァイの手が、ぴたりと止まる。
「ご親切に。ついでにしばらく
口元を吐瀉物で真っ赤に汚した青年が、ツヴァイの喉元をがしりと掴み、囁いた。
まるで恋人に向けるような、甘い声。
ツヴァイは沈黙の状態異常を受け、地面に膝をつく。声が、出ない。
(こいつ、例の魔物か……!)
青年の背中から、大きな純白の片翼が花開くように生えてくる。
同時に、亜麻色の髪がほどけて植物の蔓のように足元まで伸び、色が毛先から抜けていく。
翼を羽ばたかせ、白金の髪をなびかせてふわりと逆さまに浮かび上がった青年は、口元を指で拭って微笑んだ。
まさに悪夢のような、邪教の宗教画のような、あまりに倒錯した光景を前にして、誰も言葉が出ない。
「ふぅ、吐いたらすっきりした……マオ、もういいよ!」
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