EP3 閑話休題
あれから三日が経過して千紗都は無事に退院することができた。受付のスタッフに礼を告げた千紗都は出入口の方へ視線を向けるとそこには迎えに来ていたちはやが待っていた。
「退院おめでとう千紗都。もう体の方は平気?」
そっと千紗都の左手に持っていたバッグに手を差し伸べて「私も持つよ」と続けて言う。
「ありがとう、もう平気だよ。ちはやちゃんの顔を見たらもっと元気になれた!」
以前のように明るい表情を見せる千紗都にちはやはほっとするが、その心の奥ではきっと家族を失ったショックがまだ残ってるのだろうと深読みしてきっと無理に明るく振舞っているのだろうと思うと胸がズキズキした。
「今日は自宅に帰るの?それともウチにくる?」
ちはやからの問いかけに千紗都は少し考えたあとに「今日は家に帰るね」と告げる。
「おっけー」といつものように接してくれるちはやの優しさに千紗都の心は少し、救われていた。
ちはやは、両親は仕事で来られなかったと千紗都に説明し、少し先のタクシーを指差した。
「歩いて帰るには遠いからタクシー呼んでおいたよ。私ってデキる女だからね!」
えっへん。とちはやはドヤ顔をしていた。
「ありがとう」と千紗都はクスクスと笑っていつものやり取りが数日ぶりにできたことを嬉しく感じていた。
──────
自宅に着いた二人は玄関まで荷物を運ぶと、ちはやは「じゃあ、またあとでね」と言い玄関の扉が締まりきるまで手を振っていた。
ガチャリ。と扉が締め切ると、千紗都は静寂に包まれた自分の家を見渡して考え始めた。
「綺麗になってる…」
事件現場となったリビングはまるで何事もなかったかのように元通りになっていた。
きっとちはやの両親が警察の事情聴取を終えて現場の撮影も済んだことからクリーニングの業者に依頼してくれたのだろうと千紗都は感じた。
リビングの中央で立ち止まった千紗都はあの日のことを思い出す。
真っ暗な部屋。月の光で照らされた家族の遺体。今でも忘れることのできない生暖かい血が足元まで流れてきたあの感覚。
そして奥にいた魔法少女げぇむ内に登場する『悪魔』。
「汐織ちゃんの言う通り、私か私の家族を狙っていたとした場合、何が目的だったのだろう」
汐織と出会ったあの日からずっと考えていた悪魔の『目的』について千紗都は考えながらリビングの周辺を見渡す。
「リビングに何か隠してあるとは考えられない…よね」
ごく一般的な家庭で育った橘 千紗都。金銭目的だとは考えられない。無論、資産的価値のあるものがあるとは考えられない上に盗まれた物はないと千紗都は考えた。
「やっぱり、狙いは私…?でもなんで…」
自室に戻った千紗都は魔法少女げぇむのホーム画面を眺めながら考えていた。
三十分ほど時は過ぎ、千紗都がまだ考えていると下の階にあるインターホンが鳴った。
「誰だろう」と一旦、考えることを辞めた千紗都は一階へ向かいインターホンを鳴らした人物をモニターから確認した。そこにいたのは
「千紗都〜!ご飯まだでしょ?ママが作ってくれたカレー、一緒に食べよ!」
トレーに乗せた二人分のカレーを見せるちはやが映っていた。
ちはやの姿を確認した千紗都はすぐに玄関の扉を開けた。
「千紗都、ウチのカレー好きでしょ?小学校の時よくウチで食べてたもんね」
何も食べていなかった千紗都は思い出したかのように空腹を感じて腹の音が鳴った。恥ずかしくなって赤く染まった頬を隠した。
「あと、これ!」
ちはやはカレーを乗せたトレーを玄関にあるシューズボックスの上に置くと、背負っていたリュックの中からパジャマを一つ取り出した。
「つい最近買ったパジャマで、千紗都の分もあるから一緒に着よ?」
一見一枚に見えたパジャマの後ろから、もう一枚、色違いのものが現れた。
「私は水色で、千紗都はピンク。絶対似合うよ!」
そうかな〜と思いつつも用意してくれたちはやを想って、千紗都は「ありがとう」と返す。
「とにかく、カレー食べちゃお!そのあとはパジャマパーティーだ!」
平静を装っても幼馴染のちはやにはバレバレだったと気づいた千紗都は、その優しさに思わず涙を流しそうになったがグッと堪えた。
汐織に魔法少女のことについて話さない方が良いと提案されているため、ここで感情的になってしまったら話してしまいそうだと直感したからである。
親友のちはやを巻き込みたくない。その一心で。
──────
夕飯を食べ終えた二人は、仲良くお風呂に入っていた。湯船に入ってくつろぐちはやとシャワーで体を洗っている千紗都。
「あれ〜千紗都、少し大きくなった?」
ちはやは千紗都の体を舐めまわすようにジロジロと見ていた。
「もぅ〜身長は全然変わってないよ〜」
千紗都は恥ずかしそうにタオルで体を隠す。
「身長じゃなくて、ほら胸とか」
ちはやは両手でジェスチャーをした。
「ちはやちゃんのえっち!」
どこを見ていたか分かった千紗都はすぐに胸元を重点的に隠した。
「いいなぁ〜私も大きくなりたいよ〜」
浴槽の中で大の字になったちはやは自分の胸の小ささに嘆いていた。高校生になる頃にはきっと…などの希望を乗せていた。
お風呂から上がった二人はちはやが用意していたパジャマに着替えて千紗都の自室へ向かった。
「やっぱり、私の見立て通りめちゃくちゃ可愛いじゃん。流石、私の彼女だね!」
冗談交じりにちはやはグッドサインを千紗都に向けた。
「ふふ、彼女になった覚えはないよ〜ちはやちゃんの方がモデルさんみたいで可愛いよ!」
「あ、やっぱり?」と千紗都とちはやは女子中学生らしい会話を夜遅くまで話していた。
気絶から目を覚ました時の千紗都の表情を忘れられないちはやは少し明るくなった千紗都を見て、安心したように微笑んでいた。
やがて話疲れた二人は同じ布団に入る。
「今日はありがとうね、ちはやちゃん」
二人は向かい合い、千紗都は退院からお泊まりまでのことに礼を言う。
「ううん、これくらい当然のことだよ。私は千紗都の『親友』だからね」
ちはやの『親友』に何か、含みを感じた。
「おやすみ、ちはやちゃん」と千紗都が言うと
「おやすみ、千紗都」とちはや返事をした。
手を握ったまま。とても温かい。
数分ほど経ち、一足先にちはやが眠った。普段はとても明るい女の子が静かに眠るその姿はとても乙女のように愛らしく、この顔を知っているのは自分だけだと千紗都の内心はとても嬉しく感じていた。
千紗都はこの先、ちはやに魔法少女になったことを黙っていることがきっと苦しいのだと思い不安になっていた。
ゲームオーバーになって行方不明になったらきっと、ちはやは誰よりも悲しむことだろう。
病室で泣いていた千紗都のように、言葉にできないほどの苦しみをずっと、ずっと。
「それでも、ちはやちゃんを巻き込むくらいなら私は言えないよ」
と小さな声で呟いた。
ちはやが千紗都を想うように、千紗都もちはやを想っている。千紗都は両親を失ってもまだ家族は残っている。という安心が唯一の支えだった。
ベッドの横に置いてある時計が一時になった頃、スマホの通知が鳴った。
千紗都は自分のスマホの画面が照らされたことに気づくと、ちはやが起きないように静かに起き上がり通知の内容を確認した。
「どういうこと…?」
それは魔法少女げぇむからの通知であり、内容は 『南方五00m先でモンスターが出現』と書かれていた。
続けて『付近の魔法少女はただちに迎撃せよ』とスマホとチップを連動する画面が表示された。
「モンスターの出現…こんな時間に…」
千紗都は困惑して体が固まっていた。行くべきか、それとも行かずに他の魔法少女に託すかを。
悩みながらも千紗都は部屋を出て、玄関の扉を開けて周囲を見渡す。
あの日と同じようにいつもと同じ景色。ゲーム世界とは思えないが南方の方へ視線を向けると煙があがっていた。
「あの辺は確か…」と言いながらスマホのマップアプリからその場所に何があるのかを調べた。
「ガソリンスタンド…!?」
状況がかなり危険なことを察した千紗都は魔法少女の姿に変身をして、とりあえず現場へ向かった。
後衛で攻撃手段がほとんどない千紗都に、戦闘ができるかは未知数だったが他の魔法少女がいれば助けになる。と信じて。
ガソリンスタンドの手前まで着くと、千紗都の背後から声が聞こえた。
「千紗都さんも来ていたのですね」
汐織も通知を受け、急いで駆けつけてきた。
一人じゃないことへの安心で千紗都は安堵した。
「良かった…私、来たはいいけど攻撃できる魔法がなくて…」
千紗都の不安そうな声と表情で汐織は「すぐに来ることができて良かった」と励ました。
二人はすぐにガソリンスタンドへ向かうと、そこにいたのは魔法少女げぇむ内において中級モンスターの『オーガ』がいた。
「本当にいる…」と千紗都は小声で漏らす。
「千紗都さんは少し離れたところから私に回復や攻撃力上昇の支援をお願いします」
汐織は何もないところから突然、刀を抜いた。
「私たちでやりましょう、被害が大きくならないうちに」
千紗都にとって、初めての戦闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます