EP2 ルール

 ゲームへの参加を決意した千紗都の心境は家族を失った悲しみから密かに復讐心に取り憑かれていた。


「私のことは千紗都って呼んでね、私も汐織ちゃんって呼ぶから」


 先程まで泣いていたとは感じさせないほど千紗都は笑って汐織にそう提案する。

 静かに、冷たく。まるですべてを飲み込んだかのように見えるその表情の裏で、心はまだ痛み続けていた。けれど、それを表に出す理由は、今はもうなかった。


「ありがとうございます千紗都さん」


 その笑顔は汐織を安心させるためのものだと気づいていても言葉にはしなかった。


「ところで…どうして私の名前を?隣のクラスと言っていたけど私は汐織ちゃんを知らなかった…というか話したこともないような…」


 汐織のことを認知していなかったことを申し訳ないと思う反面、汐織は何故、千紗都を知っているのか疑問に感じた。


「千紗都さんが魔法少女げぇむをプレイしていることを知って、話しかけたかったというか…気になっていて…」


 恥ずかしさを隠すように汐織は頬をかいた。


「そうなの?私、学校でゲームの話とかしてたかな?」


 決して友達が多い方ではなかった千紗都は思い返してみても心当たりがなかった。


「その、下校中に千紗都さんが他校の人と話してるところを偶然聞いてしまいまして」


 思い当たる節があった千紗都は「なるほど」と両手を合わせて納得した。


「多分、銀髪の女の子だよね!私の幼馴染で戸塚ちはや ちゃんっていう子なの!」


 親友のことが話題に挙がって少し嬉しそうに千紗都は話を続けた。


「よく一緒にプレイしていてね。私は後衛でちはやちゃんは前衛。バフをかけたり回復したり、攻撃手段ほとんどないからちはやちゃんに任せていて…私、そういう役割が好きだから」


 汐織は千紗都のベッド横にあるパイプ椅子に座り、話を続けて。という優しい表情で聞いていた。


「ほぼ毎日一緒にゲームしているの!クラスの子とはたまにプレイするけど、ほら、サポート系ってアイテムで補えるからあんまり役に立てなくて」


 少し寂しそうな表情に「そんなことないと思いますよ」と汐織は応える。


「ちはやちゃんはそんな私と一緒にずっとゲームしてくれるから大好きなの。家族だと思っている」


 幸せそうな千紗都を見た汐織は静かに頷いた。


「ちはやちゃんにこの事を話してもいいの…かな?」


 やはり気になる事として、千紗都が魔法少女になってしまったことを教えるべきではないかと考えた。

 アドバイスを求めて汐織の表情を伺っていた。


「私は、話すべきではないと思います」


「どうして?」と千紗都は問いかける。


「千紗都さんが魔法少女になったことを信じてもらえる可能性はおそらく高いと思います。けど、それを知ってもその子は何もできない自分を情けないと考えてしまうのではないかと私は思いました。話を聞く限りではその戸塚ちはやさんも千紗都さんのことを大切に想っているはずです」


 家族も同然のように過ごした親友だからこそありえる可能性。


「このゲームは一般人を巻き込んだ場合のリスクが未知数でもあります。魔法少女になった千紗都さんを視認できないとなればその子が戦闘に巻き込まれることは容易に想像ができるかと思います」


 まだ魔法少女という存在の意味について何も知らない千紗都からしたら想像のできない範囲でもある。


「教えるだけで、戦闘の場にいなければ大丈夫ってこと…?」


 千紗都は肯定されると考えていた。が現実は思った以上に深刻なのではないかと気づき始めた。


「最も考慮すべき点として、一般人が魔法少女の存在を知ったら運営はどう対応するのか。という問題ですね」


 今まで本物の魔法少女がSNSで報告されなかった理由として挙げれるのは、運営による完璧な管理。あるいは


「口封じに殺されてしまう可能性が考えられます」


 汐織は考えた。

 SNSに報告する魔法少女は少なからずいる。しかしそれがメディアやネット記事に記載されないとなれば汐織の知らない大きな存在が情報を操作しているか消しているか根源を絶たせたか。


「今まで千紗都さんや他の人が魔法少女を知らなかったのは運営側による管理体制によるものと考えられます。自然災害のほとんどが魔法少女とモンスターによる戦闘、行方不明のニュースのほとんどは脱落した魔法少女だと私は推測しています」


 汐織の説明に千紗都は何か疑問を感じた。


「行方不明ってどういうこと?」


 汐織は気まずそうな表情を浮かべた。


「先程、お話したようにゲーム世界で起きたことは現実だと別の事象として改ざんされます。よく起こるケースとしてモンスターを視認できない一般人は為す術なく巻き込まれ、殺害されてしまった場合は強盗殺人や交通事故、心臓発作とあらゆる現象に変えられます」


 汐織は呼吸を整える。


「では、ゲーム世界で殺害された魔法少女は現実ではどのようになってしまうのか。という事です」


 通常であれば一般人と同じように扱われると考えられるがゲーム世界と現実世界という境界線があったからこそ起きる改ざん。


「ゲーム世界で殺害されたら、現実に戻れないから行方不明ってこと…?」


 千紗都は汐織の話を理解できた。

 ゲーム世界で起きた事を現実に置き換えるにも遺体がゲーム世界にあるなら改ざんする必要がないという盲点に。


「ちょっと待ってね、魔法少女が死んじゃうのってゲームオーバーだから終わりじゃなくて本当に死んじゃうってこと…?」


 汐織は頷く。


「招待状にあった二度と参加できないというのは死亡してしまったら再び参加できるわけがないという意味。文字通り『命懸け』です」


 千紗都は絶句した。軽い気持ちで始めたゲームがここまで殺伐としているとは知らなかったから余計に今、自分が置かれている状況が異常だと理解できたからである。


「私は、千紗都さんと一緒にラスボスの元へ行きこのゲームを終わらせたいと考えています」


 千紗都の右手を優しく両手で包み込み汐織は提案した。


「私は千紗都さんと同じように軽い気持ちでこのゲームに参加しました。でも叶えたい願いがないので一般人に被害が出ないようにだけを目標に今まで戦っていました」


「汐織ちゃんも?」と千紗都は問う。


「私が魔法少女になったのは、ほんの半年前でして、私に魔法少女のいろはを教えてくれた人達は全員行方不明になりました…」


 汐織の記憶が蘇り、おそらく亡くなったであろう魔法少女達の姿がそこにはあった。

 そこからずっと一人で戦っていた。ずっと陰で一般人を護るためにパトロールをしていたという記憶が汐織の心を締め付ける。


「じゃあ、汐織ちゃんも魔法少女になった時何かを失ったの…?」


 千紗都は自分に起きたことが汐織にも起きたのではないかと推測した。


「いえ、私はなにも…」と汐織は首を左右に振る。


「偶然、千紗都さんの家族が狙われたと考えていますが不可解な点はいくつかありました」


「不可解な点?」と千紗都は聞き返す。


「あの夜、私はいつものようにパトロールをしていてあの悪魔を見つけました。すぐに討伐するために近づいたのですが、不思議なことに私を認識しても無視して千紗都さんの家へまっすぐ向かったのです」


 汐織の記憶には千紗都の家付近にいた悪魔が何かを監視していたように映っていた。


「そしてあの悪魔は千紗都さんもご存知の通り、上級悪魔でゲーム内でも攻略を進めた人しか見かけないはずです。私はこの半年間、その悪魔を見かけることがありませんでした」


 魔法少女げぇむに置いて下級のモンスターはスライムやアンデッド、トロールなどが挙げられており中級でもオーガやリッチー。それらが多く出現すると汐織は説明した。


「その中、突如現れたあの悪魔は千紗都さんの家へ直進していました。明らかに知性の感じる行動なので何か目的があったのではないかと考えています」


 考えすぎかもしれませんが。と汐織は言う。


「仮に私の家に目的があったとして、その悪魔はどうして私の家族を殺さないといけないの?魔法少女になってしまう代償に何かを失うのかと思ったけど汐織ちゃんにはなかった。でも私にはあった。私を狙う理由がわからないよ」


 千紗都も汐織も何故、千紗都の両親が殺害されたのか皆目見当もつかない状況だった。偶然狙われたにしてはタイミングが良く、何か目的がないとできない『意思』を思わせる行動。


「きっと何か意図があるのだとしたらまた狙われる可能性は高いと考えられます」


 窓の開いた病室のカーテンがヒラヒラと舞う。この静けさを感じさせないほど二人の会話には緊張が走っていた。


「これは私の我儘です。どうか私に千紗都さんの護衛をやらせてください」


 この言葉と同時に静かに靡いていたカーテンは激しく風に煽られた。


「一緒にその悪魔を、倒しましょう」


 汐織は千紗都の右手を少し強く握り、強い意志を感じる視線を向けた。






「今の子、誰だろう…千紗都の友達かな…」


 病室の扉の前で不安に待っているちはやがそこにはいた。

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