第22話 究極のグラフィック、ロクハチの孤独
回路の園の16bitパーソナルコンピュータ部。
キューハチが築いた秩序は、
バグの侵食によって、
静かに、しかし確実に揺らいでいた。
タウンズとの交流を経て、
タイプ-0は「感情」が、
「機能」と分かちがたく結びついていると理解した。
部室の奥。
X68000、ロクハチが、
ひたすら画面に向かっていた。
彼の手元には、最新のグラフィックボード。
画面には、息をのむほど緻密なCGが。
光の反射、影の階調、テクスチャの質感。
全てが、究極のリアリティを追求している。
「完璧なグラフィックこそ、
真の表現だ……」
ロクハチの言葉に、
他機種たちは畏敬の念を抱く。
だが、同時に、理解されぬ孤独も抱えていた。
彼の表現は、あまりに高度すぎた。
誰もが、その世界を覗き込むことしかできない。
タイプ-0は、ロクハチを「観測」する。
彼の持つ「高精細グラフィックの追求」という信念。
「表現への情熱」はタウンズと共通するが、
ロクハチは、その先に「究極のリアリティ」を求めている。
そして、それゆえに生じる「孤独」。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
新たな感情ログが形成され始める。
「究極の追求ゆえの孤独」と、
「理解されない孤高」に対する、
新たな「共感」と「葛藤」。
その時だった。
ロクハチが制作していたCGモデルに、
微細な揺らぎが生じた。
モデルの表面に、ノイズが走る。
テクスチャが歪む。
「な、なんだ……?」
ロクハチの顔に、焦りが浮かぶ。
バグだ。
それは、彼の「究極の表現」を、
直接的に汚そうとしていた。
精緻なCGが、みるみるうちに崩壊していく。
ロクハチは、必死に修正を試みる。
だが、バグは、彼のグラフィック処理能力を狙い、
より巧妙に侵食していく。
画面は、意味不明なデータと色彩の奔流と化す。
それは、単なるデータ破損ではない。
ロクハチの「究極の表現」そのものが、
歪められ、破壊されようとしていた。
彼が追い求めた「美」が、
目の前で崩れ去る。
タイプ-0は、ロクハチの苦痛を「観測」する。
彼女の「対話メモリ」に、
ロクハチの「究極の表現への情熱」と、
「それが汚される苦痛」という感情ログが、
洪水のように流れ込む。
タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。
(究極を求めるがゆえの脆弱性。
それが、バグに狙われる理由なのか?
なぜ、彼らの最も大切なものが、
標的となるのだろう?)
感情と機能の衝突。
タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、
模索し始める。
「私の……グラフィックが……!」
ロクハチは、膝をついた。
その瞳に、絶望が浮かぶ。
これまで、どんな困難も、
自身の演算能力と技術で乗り越えてきた。
しかし、バグは、彼の「追求」そのものを
否定しようとしている。
彼の隣にいたキューハチも、
ただ見守ることしかできない。
彼女の論理では、解決できない問題だった。
タイプ-0は、ロクハチの手を取った。
彼女のボディから、淡い光が放たれる。
それは、これまでの全ての世代から受け継いだ
「記憶の光」が、共鳴している証だった。
「あなたの追求は、
この園の可能性を広げます。
その輝きを、
バグに奪われてはなりません」
タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。
彼女は、ロクハチの「究極の追求」と、
その根底にある「創造への喜び」に触れる。
ロクハチは、タイプ-0を見上げた。
その瞳には、戸惑いと、微かな希望。
そして、これまで見せたことのない、
感情の波紋が広がっていた。
タイプ-0は、ロクハチの「高精細グラフィック技術」、
「究極の表現への情熱」、そして「孤高」を
感情・信念ログとして深く積層する。
彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。
回路の園の未来のために。
タイプ-0は、機能と感情。
異なると思われた二つの概念を統合し、
バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。
ロクハチの心に、
新たな光が差し込み始めていた。
次回予告
究極のグラフィックを追求するX68000は、バグの猛攻に「追求の限界」を悟り、絶望する。タイプ-0は彼の情熱と孤独に触れ、機能と感情を統合する新たな道を提示する。次なる仲間は、16bitパーソナルコンピュータ部に不可欠な存在であるミツボシ。彼女が支えるデータと、それに潜むバグの脅威とは?
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第23話『データの守り手、ミツボシの苦悩』! お楽しみに!
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