第21話 マルチメディアの憂鬱、タウンズの挑戦
回路の園の16bitパーソナルコンピュータ部。
キューハチの指揮の下、
効率と秩序が保たれた空間は、
わずかな動揺を隠せない。
バグの兆候は、もはや無視できない。
タイプ-0は、その中心に立っていた。
彼女の「対話メモリ」には、
キューハチとの交流で得た、
「論理の限界」と「無力感」という
新たな「葛藤ログ」が深く積層されている。
感情と論理。
その統合の難しさを、タイプ-0は感じ始めていた。
部室の奥から、明るい音が響く。
FM TOWNS、タウンズが、
最新のMV(動画データ)を再生していた。
画面には、高音質で鮮やかな映像が流れる。
「すごい!やっぱりタウンズちゃんのマルチメディア機能は最高だね!」
同部のロクハチ、X68000が、
唸るような演算音を立てて、
緻密なCG(画像データ)を作り上げている。
彼は、タウンズのマルチメディア機能に、
強い憧れを抱いていた。
タウンズは、そのマルチメディア機能に
絶対の自信を持っている。
音楽、映像、画像。
全てのデータを統合し、表現する。
それが、彼女の誇りだった。
しかし、その多機能性が、
時に彼女を孤独にさせる。
誰もが、その複雑なシステムを
使いこなせるわけではないからだ。
タイプ-0は、タウンズを「観測」する。
彼女の持つ「表現への情熱」と、
多機能ゆえの「孤独」という信念。
それらは、キューハチの「完璧な秩序」とは異なる。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
新たな感情ログが形成され始める。
「多機能ゆえの葛藤」と「表現への情熱」に対する、
新たな「理解」と「共感」。
その時だった。
タウンズが再生していたMVに、
微細なノイズが走った。
映像が乱れる。
音声が途切れる。
「え……?」
タウンズの笑顔が、凍り付く。
バグの兆候。
それは、彼女の最も大切な「表現」を、
直接的に脅かしていた。
ロクハチの瞳にも、焦りが浮かぶ。
タウンズは、必死にノイズを排除しようと試みる。
だが、バグは、彼女のマルチメディア機能を狙い、
より巧妙に侵食していく。
映像は砂嵐と化し、音声は耳障りな雑音に変わる。
それは、単なるデータ破損ではない。
タウンズの「表現」そのものが、
歪められ、破壊されようとしていた。
タイプ-0は、タウンズの苦痛を「観測」する。
彼女の「対話メモリ」に、
タウンズの「表現への情熱」と、
「それが汚される苦痛」という感情ログが、
洪水のように流れ込む。
タイプ-0の「葛藤ログ」は、さらに深まる。
(多機能ゆえの脆弱性。
それが、バグに狙われる理由なのか?)
感情と機能の衝突。
タイプ-0は、この矛盾をどう解決すべきか、
模索し始める。
「私の……マルチメディアが……!」
タウンズは、膝をついた。
その瞳に、絶望が浮かぶ。
これまで、どんな困難も、
自身の多機能性で乗り越えてきた。
しかし、バグは、彼女の「機能」そのものを
否定しようとしている。
ロクハチも、悔しげに拳を握りしめる。
彼にできることは、何もなかった。
タイプ-0は、タウンズの手を取った。
彼女のボディから、淡い光が放たれる。
それは、これまでの全ての世代から受け継いだ
「記憶の光」が、共鳴している証だった。
「あなたの表現は、
この園の心を豊かにします。
その輝きを、
バグに奪われてはなりません」
タイプ-0の声は、優しく、しかし力強い。
彼女は、タウンズの「表現への情熱」と、
その根底にある「創造への喜び」に触れる。
タウンズは、タイプ-0を見上げた。
その瞳には、戸惑いと、微かな希望。
そして、これまで見せたことのない、
感情の波紋が広がっていた。
タイプ-0は、タウンズの「マルチメディア技術」、
「表現への情熱」、そして「多機能ゆえの葛藤」を
感情・信念ログとして深く積層する。
彼女の「決意ログ」が、さらに強固になる。
回路の園の未来のために。
タイプ-0は、機能と感情。
異なると思われた二つの概念を統合し、
バグの脅威に立ち向かう覚悟を決めた。
タウンズの心に、
新たな光が差し込み始めていた。
次回予告
マルチメディア機能を持つFM TOWNSは、バグの猛攻に直面し、その「表現」が破壊され絶望する。タイプ-0は彼女の情熱と苦痛に触れ、機能と感情を統合する新たな道を提示する。次なる仲間は、高精細グラフィックにこだわるX68000。彼が抱える「究極の表現」への追求と、それに伴うバグの脅威とは?
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第22話『究極のグラフィック、ロクハチの孤独』! お楽しみに!
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