第九章:王都の風と新たな導き ~勇者ユウト~

 白い朝靄がまだ地を這う頃、一行は王国の最大都市――「ミルザグレア王国」へと辿り着いた。


 そびえ立つ白亜の城と、それを取り巻く城下町。石造りの家々は整然と並び、石畳の大通りには多種多様な人々が行き交っている。露店では香ばしい焼き菓子の匂いが立ち昇り、異国の香辛料や金属の打撃音が耳に響いた。


 「すご……これが、王都……」


 ラナがぽつりと呟き、隣でフィリアも圧倒されたように目を丸くする。


 「人が……多すぎる。でも、活気があって悪くないかも」


 この地におけるエルフや獣人の姿は珍しく、すれ違う人々の視線がラナとフィリアに注がれる。それでも、誰もあからさまな侮蔑や嘲笑は向けてこない。王都という場所の懐の深さが、そこにはあった。


 「目立つけど……差別されてる感じじゃないな。ちょっと安心した」


 ユウトは胸をなでおろしながら、まずは宿を探すことにした。




 街の中心からやや外れた通りに、手頃な木造の宿を見つけた。簡素ながら清潔で、冒険者を受け入れているらしく対応も丁寧だった。三人はそこに荷物を置き、腹を空かせたまま食堂へと足を運んだ。


 夕方近く、石畳の広場近くの食堂は旅人や労働者で賑わい、スープの香りと焼き肉の匂いが鼻をくすぐった。


 「肉……うまっ」


 ラナは頬をいっぱいにしてむしゃむしゃと肉をかじり、フィリアは慣れない庶民の食事に少し困惑しつつも、美味しそうに口へ運んでいた。


 そのときだった。


 「おいおい……田舎の連中が三人で宴会か?」


 絡むような声と共に、酔っ払った中年男が近づいてきた。ラナを見てニヤリと笑い、フィリアを見て口笛を鳴らす。


 「ずいぶん珍しい連れだな。エルフに獣人……見世物か?」


 ラナの耳がピクリと動いた。だが、言い返そうとしたその瞬間——


 「そこの席、空いてるか?」


 重厚な声と共に、一人の男が現れた。


 背は高く、鍛え上げられた大柄な体躯。背中には巨大な楯。グレーの髪は短く刈り込まれ、鋭い眼差しはまっすぐに酔っ払いを見据えていた。


 「……くだらねぇこと言ってんなよ。席、邪魔だ」


 男の気迫に圧されたのか、酔っ払いは舌打ちして逃げるように立ち去った。


 「助かった。ありがとう」


 ユウトが礼を言うと、男は軽く顎をしゃくって返した。


 「いや、ただ気に入らなかっただけだ。気にすんな」


 その後ろから、もう一人の姿が現れる。長く輝く金髪を一つに束ねた女性。鋭さとしなやかさを併せ持つその姿に、ラナとフィリアは無意識に背筋を伸ばす。


 「お兄ちゃん、また絡まれた人助けたの? そういうとこ、昔から変わらないよね」


 「余計なことは言うな、リリィ」


 「はーい」


 ユウトは二人に視線を移した。


 「えっと……助けてくれて、本当にありがとう。僕はユウト。こっちはラナ、フィリア」


 「グレイだ。こいつは俺の妹で、リリィ。俺たちは王都ギルド所属の冒険者だ」


 「ギルド……!」


 ラナの目が輝いた。


 「冒険者ランクで言えば、俺がA、リリィがB。田舎から来たのか?」


 「はい……王都のギルドに登録しようと思ってます」


 「なるほどな。だったら、宿取ってるなら明日にでも登録するといい」


 リリィがにこやかに頷いた。


 「この国のギルドは、SからGまでのランク制になってるの。最初はもちろんGからだけど、実績を積めばすぐに上がるよ。あ、でも、油断すると簡単に死ぬから気をつけてね」


 「……死ぬって」


 「本当の話。私たちも、何度か死にかけたから」


 リリィの笑顔には、冗談だけでない重みがあった。




 翌朝。


 三人はギルド本部を訪れた。


 石造りの三階建て。装飾は少ないが、堂々とした造りに威圧感がある。中に入ると、広々としたロビーに冒険者たちのざわめきが満ちていた。


 「名前をお願いします」


 受付の女性に促され、ユウトはそれぞれの名前を申請用紙に記入した。


 「ユウト・レヴィン。ラナ・ルーファ。フィリア・エラリア。……人間に、獣人、エルフ?」


 一瞬だけ目を見開いた受付嬢だったが、すぐに笑顔を戻した。


 「問題ありません。王都では種族差別は禁止されておりますので。冒険者ランクは、皆さん“G”ランクからとなります」


 「……ありがとうございます」


 手続きが終わり、三人はギルドを出た。


 「これで、ようやく冒険者としての一歩か」


 ユウトがつぶやき、ラナが胸を張って笑う。


 「うん! 絶対ランク上げて、グレイたちみたいになるんだ!」


 フィリアも「悪くないわね」と微笑む。


 そして三人はまた歩き出す。己の強さと、存在を証明するために。


 この広い世界で、“なぜ生きるのか”を問いながら。

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