パージ──美月

 七月二十四日 都内のアパート


 ──VPN接続……浄焔会本部付近のオンライン端末を洗い出して……。


 明人様先代が遺したものは、得物と殺しの技だけではない。


 浄焔会のサーバーに侵入する為の"裏口"のパス──"donTTrusT"。


 思えば、これは保険だったのだろう。


 ──光照様さえ、信用ならないのですか?


 いざ入ってみると、既知の情報しかない。


 虱潰しに当たっていくと、"Politiko"というフォルダに行き着く。Politiko──エスペラント語で"政治"。


 テキストファイルと、住所録、それと……"POLA.exe"。 


 フォルダごとコピーを取る。


 POLAをスキャンするが、ウィルスの類いはない。


 中身は、テキストエディタだった。


 文章を打ち込む。


 "あなたはパンを食べる。"


 条件を指定し、変換する。


 ──人種、年齢、性別……恐らくこれは。


 "「毎日の食卓に並ぶパンを安心して食べられる、それは当たり前のようでいて、とても大切なことですね。


 国が安定し、誰もが安心して暮らせる社会があってこそ、こうした小さな幸せが守られます。


 一人ひとりの選択や努力が、暮らしの豊かさを支える社会の土台になっていると思います。」"


 予感は当たった。これは"浄焔会の教義を政治的メッセージに変換するプログラム"だ。 


 ──完成していたのか。


 外は、灼熱の陽気で満ちている。 


 あの東名高速のテロ、あれ以来政治集会も増えたような気がする。


 あのテロが小夜の手でないなら、光照様が? 私すら、蚊帳の外にして動こうと? 


 ──また、捨てられるの?


 親も、自分も、全てを捨てて復讐のために彼に忠誠を誓ったのに、それにすら捨てられるのか。


 ──全てを捨てたから、全てに捨てられる。


自分の体温が、急速に冷えていくのを感じていた。


 いっそ、今この部屋で自害しようか。 


 あの日、私を娘と呼んでくれた光照様の顔が、何か別のものに変わっていく。


 ──嘘つき。

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