密室──彩

 七月十四日 K高校 昼休み

 

「朱里、ケーキ、何が好き?」

 

「ん? モンブラン。何、奢ってくれんの?」

 

 私は笑みを浮かべ、こくこくと頷く。

 

 朱里の視線が痛い。

 

「何の報酬?」


 左目を、じっと見つめて質問する。


 訊問する時の、彼女の癖だ。

 

「蓮城先輩……の、さ」


 笑みが、能面に変わる。

 

「探偵でもやれってか」

 

「………………クラス、だけ……教えて」


 蚊の鳴くような声しか、出なかった。

 

「そんなんならタダでいいわ……」


 友は、肩をがっくりと落とした。


 ──ごめん朱里……ケーキで釣ろうだなんて。

 

 ◆◆◆◆

 

 放課後 二年二組教室


 ──二年棟なんて、校舎案内以来だ。


「……失礼します」

 

「……」


 蓮城小夜は、通常営業だった。


 放課後は六時まで校舎に残り、一人で消える。そう朱里がおまけしてくれた。


 触れそうな距離まで近づく。


「バリ、一緒に組んだ子でしょ」

 

 ──覚えてる……?

 

 蓮城先輩は、振り向かずに続ける。

 

「名前、聞いてなかった」

 

 その声に、やはり耳馴染みがあった……あり過ぎた。

 

「一年五組、雨宮彩です。先輩……今、ここには私しかいません。本当の事、話してください」

 

 ようやく、こちらを向く。

 

 ──LILITH。

 

「他言しません」

 

 視線が絡み合う。

 

 動悸がする。

 

 メデューサに睨まれたように動けない。

 

 先輩は、大きく息を吐いた。

 

「ええ……仕方ないわね。Lotusのボーカル、作詞担当……LILITHです。まさか咎人だったなんてね」


 私は、目を逸らした。

 

「『Eclipsed Reverie』……ごめんなさい、まだ私、持ってるんです」

 

「ありがと。でも……死ぬ気? 『Eclipsed Reverie』を持ってる人が……殺されてるのに」

 

 両の拳を握る。


「『殺されてた』です。マスコミもネットも、もう終わった話にしてるんですよ!?」


 ──自分の作品子供の事なのに。

 

 あまりの冷静さに、腹さえ立ち始めた。

 

 気まずい沈黙。

 

 堪えきれず、LILITHに視線を戻す。

 

 肩を震わせ、声もなく涙を流していた。

 

「っ! その、すみません、でした」

 

「ううん、そうね。もう犠牲者は出ない筈だし、そうなって欲しいわ」


「え、と……」


 ──何を、どこまで知っているんだ? そもそも、こんな話をしてどうするのだろう?


「本当に、誰もいないのよね?」


 首肯する。


「藤原美月にも関係することよ。『Eclipsed Reverie』を持ってるなら、雨宮さんにもね」


 蓮城小夜は、語り始めた。


 

 

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