第35話 リアムのしあわせ

 本日二つ目の投稿です


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 リアム様のしあわせを考えたあのデートの日から。わたしはなんとなくリアム様を目で追ってしまっている。

 そのリアム様といえば、Sクラスのみんなや先生たちに「ニーナが嫌いな相手との婚約を阻止するための恋人役になるので、その日までは、この変身した姿で過ごします。名前もアンディではなく、リアムと呼んでください」と言って、リアム様の姿で過ごしている。

 その様子を見て、思う。

 リアム様が、アンディ兄様の代わりに、アンディ兄様の姿で、みんなと一緒に過ごすのが楽しいと言ったのは嘘じゃない。

 だけど、自分の本来の姿で、みんなと魔法について議論を交わしたりすることのほうが、本当はもっとずっと……いいんじゃないかって、わたしは思う。

 アンディ兄様の姿をしているのは、もちろん嫌なわけじゃないと思う。

 アンディ兄様の果たせなかった願いを叶えるためもあるだろうし、リアム様のご自分の正体が知られないように、アンディ兄様の姿を隠れ身のようにすることだって、きっとリアム様には必要だったのだろう。

 だけど。

 それ以上に。

 自分の姿で、仲の良いみんなと、当たり前のように過ごせるこの時間が……とても大事なんじゃないのかなって。

 このまま……ずっと、こうやって、過ごすことが出来たらいいんじゃないかなって。

 だったら……って、わたしは思うの。

 リアム様もアンディ兄様も、わたしのしあわせを願ってくれて。

 だったら、わたしだって。

 アンディ兄様はもうなくなってしまったから、わたしは何もできない。

 思い出して、偲んで。

 それしかできないけど。

 リアム様のしあわせは……、わたしだって、願いたい。

 どうか、しあわせが続きますように。

 リアム様は不老長寿で、わたしはごく普通に寿命を終えるだろうけど。

 どうか……と、願ってしまう。

 神様。アンディ兄様。

 どうか、お願いです。

 リアム様が、ずっとしあわせでありますように。

 ううん、願うだけじゃダメだ。

 大事なのは、行動すること。

 だったら、わたしには何ができるのかな。

 考える。

 考えて、考えて、考えて……。

 結論なんて出ないうちに、マーガレット先輩たち、テレンス様が、魔法学校を卒業する日がやってきた……。


     ***


 卒業式の日。春がそこまでやって来ているのを感じさせられるような、素晴らしくよく晴れた空を、わたしは見上げていた。

 風も穏やかで、気持ちがいい。

 Sクラスもみんなで揃って、入学試験の合格発表が行われた校舎へと向かう。

「マーガレット先輩いいいいい、卒業しちゃヤダー」

『あははは。卒業しても、またすぐ会えるよ。遊びにも来るし」

「でも、さみしいいいいいい」

 ああ……、本当に、マーガレット先輩が卒業してしまうのね……。

 たくさん、いろんなことを教わった。

 最強の武器も持たせてもらったし、その武器……『ハゲろ』や『モゲろ』の魔法をわたしも使えるようにしてもらったし。ほかにも色々応用魔法とかも。

 魔法だけじゃない。

 先輩たちと過ごす時間そのものが、わたしの宝物だ。

 ずっと一緒にいたいけど、今日で、マーガレット先輩も、レイ・ジーン先輩も卒業。

 淋しいな……。

 みんなで涙目になっていたら。

 マーガレット先輩が爆弾発言をした。

「泣かないでよー、笑って笑って。で、最高にキレイな笑顔で送り出して。それで、わたしとレイの結婚式でもその笑顔で参列して」

 え、えええええ!

 結婚式って!

 マーガレット先輩と……レイ・ジーン先輩⁉

 そ、そんな素振り、一度も見たことなんてないのに……。

 わたしとミュリエル、下級生だけが知らないのかと思ったのに……、スーザン先輩とカリナ先輩も驚いた顔。

 せ、先輩たちも知らなかったの……?

「あはははは。内緒にしてたからねー」

「な、なんで」

 みんなでマーガレット先輩とレイ・ジーン先輩を交互に見て。

 するとレイ・ジーン先輩が、むすっとした顔で、ボソッと言った。

「……マーガレットに、勝ったら、公表するつもりだったんだ。なのに……」

 えーと。

「三年間、私、成績トップ且つ『賞金稼ぎ』ったからね。黙ったまんまになっちゃたの。だから、こっちから、言っちゃおうって思ってさ」

 へへへーと、マーガレット先輩が笑って。

 レイ・ジーン先輩は、「一度も勝てなかった……」と苦虫を食い潰したような顔になって。

「レイ・ジーン。あなたがそばにいてくれるから、私は魔法にまい進できるし、どんどんあれもやりたいこれもできるって発想が湧きだしてくるの。だから、私と結婚して、それで一生私の側にいてね」

 きっぱりぱっきりと、マーガレット先輩がレイ・ジーン先輩に言った。

 お、おおおおお! マーガレット先輩からのプロポーズ!

 マーガレット先輩、かっこいいなあ。

 レイ・ジーン先輩はと言えば。

「そういうことくらい、私のほうから言わせろよ! あああああ、もうっ! 天才マーガレットに付き合える男なんて私以外にないんだから、一生支えてやるに決まってるだろ! 死ぬまで、私が、マーガレットの唯一の男だ! それでもって、死ぬ前までは、絶対に私がマーガレットを抜かす! その時は惚れ直せ!」

 わあ! レイ・ジーン先輩も、かっこいい!

 女性のほうが才能があって、だけど、負けずに頑張る男性って、きっと少ないけど。

 それが出来ちゃうレイ・ジーン先輩はすごいし、マーガレット先輩とお似合いだ。

 わたしたち下級生は、マーガレット先輩とレイ・ジーン先輩に、盛大なおめでとうを言って。魔法で花を空から降らしたり、花火を打ち上げたり。

 盛り上げに盛り上げて、笑いながら、ちょっとだけ涙目になりながら、卒業生を送り出した。

 リアム様も、ちょっと寂しそうにしていたけど。

「さ、ニーナ。淋しい気持ちはボクもあるけど。明日はフィッツロイ伯爵家に向かって出発だからね」

「はい、リアム様」

 そう、わたしとリアム様とテレンス様。

 三人一緒に、まずはアンディ兄様のお墓参りに行く。

 そして……お父様とお母様と……対決だ。




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このお話、10万文字くらいで終わらせられるかなーと思っていたのですが、もう少し伸びそうですねぇ……。

終わりまで、もう少々お付き合いくださいませ。


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