7日目 あたらよ【現代ドラマ/カラオケのフリータイムの話/595字】
このカラオケ店は持ち込み自由だ。なんなら店側が目の前にコンビニがあることを売りにしているくらいだ。深夜に食事メニューを注文されることによって発生する人件費より、客が抜け出してコンビニで弁当を買って帰ってくることによる売り上げ減少のほうがマシなのだろうか。いずれにしても金のない学生たちが溜まり場にするにはうってつけのシステムで、わたしたちも毎週金曜日はフリータイムで朝まで飲み食いしながら歌っていた。
長時間の歌唱で心地よく疲労していたわたしは、ずっとカシスオレンジを飲んでいたからかしょっぱいものが欲しくなって、コンビニにホットスナックかスナック菓子を買いに行こうとした。するとコンビニの前の灰皿のそばで先輩が煙草を吸っていた。このサークルで煙草を吸うのは彼だけだ。カラオケ店では禁煙ルームを取っていたので、彼だけが一、二時間おきに店を抜け出してここに通っていたものと見える。
「買い物?」
「はい」
「いい時に出てきたな」
そう言うと彼は左手で煙草を持ったまま右手で頭上を指した。
先輩の指の先をたどると、天頂はまだ青いながらも、東の空が黄金色に染まっていた。夜と朝のはざま。星は輝き、月はもうなく、太陽が顔を見せている。ビルが照らされ、配送業者が動き出し、始発電車で帰る人々が駅に向かい始める。
「フリータイム、そろそろ終わりだな」
それがむしょうにさみしくて、わたしからは言葉が出なくなるのだった。
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