第20話 狩る者
フィフィが「ここ、昔の神殿だったかも」と
姿を消したララ・ノアさんを探して、慶太郎とフィフィは迷宮の深部へと足を踏み入れていた。
彼女が通ったであろう軌跡をフィフィが探る。
妖精がもつ能力の一つ、この大森林にいる精霊たちの力を借りて情報を集め、情報網みたいなもをが張り巡らさるのだという。
そう言えば、ララ・ノアさんも腕にはめたバングルを使って何か会話をしている様であった。
途中、通路路の落盤で道が消失していたが、フィフィが迂回路を指示する。
やがて景色が変わってくる、通路や壁の石壁が滑らかになり、彫刻や装飾が増え、目指す目的地が近い事を示した。
◆◆◆
迷宮の深部。フィフィの言うところの迷宮の神殿、広間の床には大理石が長く敷き詰められ、当時の荘厳さと威厳がうかがえる。広間の中央には、祭壇らしき石で組まれた台が置かれ、その先の奥まったそ場所には、段差を施した空間があり細工が施された大きな石の椅子が据えられいる。
「やはりここは、何かの儀式を行う場所だったんだよ」
「でも、不思議ね。この場所でエルフ剣士の痕跡が消えているよ」
肩に座ったフィフィが言う。
◇◇◇
慶太郎は、壁や扉など手がかりになりそうな所を探した。
フィフィは、飛びながら目の届かない高い場所を探す。
フィフィが慌てた様子で羽を激しく羽ばたかせ戻って来る。
肩の上に降りると、耳を両手で握り寄り添ってくる。
「慶太郎。この場所、ヤバいよ」
「一旦、外に出てこの場を離れよう」
耳を握る手に力が入る。そして珍しく神妙な声で囁いた。
「わ、わかった」と出口に向かおうとした時、「きゃっ!」フィフィが悲鳴をあげる。
入り口の前に四本足の魔獣が立ち、出口をふさいだ。
「お前……」
「おい。人間のお前……」
背後から威圧感のある声が聞えた。
背筋に悪寒が走り背中の筋肉が緊張する。
そして声のする方向にゆっくりと、息を殺しながら振り返った。
頭からフードを深くかぶった男。
顔は隠れて見えないが、明らかに人間ではない。人の背丈を越える身長、広い肩幅、何より服の袖から見える指先に鋭く尖った爪が見える。
その男は、体格に似合わない軽快な足取りで、足音も立てず近づいて来る。
「敵か……?」
「敵だよ。感じるでしょ、あの殺気」
「かなりまずいヤツだよ」
◆◆◆
男は慶太郎に近づくと目の前で止まった。
コートの袖から男の太い腕が伸び、慶太郎の胸元を掴むと、そのまま握り釣り上げた。その太い剛腕は、慶太郎の足裏を床から軽々と浮かせた。
「く、苦しい……」
慶太郎の首元を締め上げていた握り拳にさらに力が入る。
「人間……」
「ちっ。クソ虫がっ」
男が一言、吐き捨てる。
「妖精なんぞを
「お前も探索者とかいう、人間のクソ虫か?」
近くに寄った男の口元から鋭い二本の牙が覗いた。
人間ではない。その顔はむしろ獣に近かった。
「この聖域で、人間ふぜいがっチョロチョロと、目障りなんだよ」
「さっさと処分してやる」
「何よっ。あなただって、
フィフィが声をあげて飛び上がり、男の目の前で両手を広げた。
男の鋭い目が、妖精を睨む。
「俺は、フェルセリアのヴァルガンだ」
「人間と一緒にするな!」
怒りに任せて掴んでいた慶太郎を片手で投げ捨てた。
慶太郎の体は床を転がり、壁の柱で止まった。
「キイーッ」フィフィが歯を噛んで拳をにぎった。
「そこまでよ。いい加減にしなさい」
どこからともなく女性の声が広間に響いた。
天井から現れ出た人影は、白い羽のように宙に舞いフワリッと床へと降り立った。
そこには行方を捜していた、ララ・ノアの姿があった。
彼女は、慶太郎の側に近寄った。
そして、倒れていた慶太郎に手を伸ばした。
「ララ・ノアさん……」
慶太郎は、その手をとり立ちあがった。
「あなた、なぜこんな所に居るの?」
「せっかく『野源の森』まで運んだのに」
「それに、まだ体が回復していないのに、なぜ、おとなしく寝ていないの」
そこに、飛んで来た妖精が慶太郎の肩にとまるの見て、彼女は眉を寄せた。
「妖精を呼び出したか……」
ララ・ノアは溜息を一つ吐くと、半魔獣の男の前に立ち塞がった。
◆◆◆
男は腕を組み、突然現れたエルフの剣士に目を尖らせ、一瞥の睨みを聞かせた。
「
「なぜエルフの一族や妖精たちは、人間と組もうとする?」
「我ら力あるフェルセリアのほうが、貧弱で弱い人間よりはるかに優秀だというのに」
「わたしたちエルフ族は人間だけじゃない、この大森林に住む全ての生き物との共存することを目指しているわ」
「それが、エルフ族にとって昔からの考えであり、掟だからよ」
「あなたたちこそ、自分たちの一族が一番優秀だなんて、思い違いもいいところだわ」
「人間と共存だと? 笑わせるな」
「我らフェルセリアだ。狩る者にして、王を守護する森の雄」
「虫のように湧いた弱き者は、我が一族が排除する」
半魔獣はララ・ノアに向かって人差し指を突き出す。
「御霊が眠るこの神殿で『王の
「遅かれ早かれ、我らと
「どちらが、『王の
半魔獣の男は、コートを脱ぎ捨てると、コートの下から鍛え込まれた体が現れた。
体にいくつも刻まれた深い傷は、どれほどの闘いを積んできたのか、歴戦の凄まじさを物語ていた。
半魔獣の男が拳をにぎると咆哮を放つ―――。
神殿の壁が震え、空気が重く震動すほどの気勢となって広間に吹き荒れた。
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