Wワークは白いエルフの君と

橘はじめ

第1章 白いエルフの君

第1話 プロローグ

 漆黒の闇がすべてを呑み込んでいく―――。

 紅蓮の炎が揺らめき、妖霊を孕んだ風が命あるものの声をかき消しす。


 その中心に銀光を纏って立つ一人の少女がいた。

 少女はまるで光を宿した結晶石のように暗闇の世界を照らしていた。


 あの日――― 青く輝く石を手にした瞬間。君の涙を見た瞬間。ボクの心は魔法にかかってしまった。退屈だった日々が色を持ち始め、世界がゆっくりと音を立てて動き出した。


 

 ◆◆◆ プロローグ


  金曜日の朝。

 都心へ向かう電車は、いつものように通勤ラッシュで人々が溢れていた。

 けれど、どこか空気が柔らかい。

 『霊風通り駅』の広場には、平日とは違う華やかな風韻気が漂い、改札前に飾られた色鮮やかな精霊灯が朝の陽ざしに透けて輝いていた。

 

 女子高生たちの笑い声が聞こえる。

 スーツ姿の会社員たちが足早に通り過ぎていく。


 駅前の商店街では、「月末迷宮ラビリンスセール」の昇り旗が揺れ、朝早くから開かれた店には精霊をモチーフにした雑貨や香草入りのファストフードが並ぶ。

 貼られたポスターには、幾何学模様と「夏祭り 人間と精霊の共祝い」の文字。

 その視線の遥か先で、白い精霊風車が静かに回っていた。


 ◇


 そんな人々が行き交う雑踏の中、会社へと向かう慶太郎は、いつものように駅の改札を通りすぎる。

 階段を昇り、二階にあるモノレール乗り場のベンチに腰を下ろした慶太郎は、内ポケットから小さな石を取り出した。


 手の中で光るその青い石の輝きを覗けば、幾千の星々を散りばめたような金銀の世界がそこに息づいている。 まるで、小宇宙がその中に存在するかのような神秘的な青い石。


 あの時―――森で出会った少女「白いエルフの君」から託された石。

「これは、あなたを護る光」―――憂いを含んだ少女の言葉が、言霊のように今も心を満たすようにのに甦ってくる。

 

 街を包む青空を見上げる。


 ふうーと溜息をつくと、朝食代わりの香草クッキーを一口かじった。

 今日は比較的、会議が多い日だが、きっちりと時間通りに終わらせるつもりだ。

 明日はいい迷宮日和だといいな―――。

 と心の中では、もう週末が始まってる。

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