ランディの捜索 その2
「ねぇ、クレナイ。ビヨンドのことなんだけど......」
ビヨンドが去った後の訓練場で、休息していたレパールが、隣に座っていたクレナイに話しかける。
「あら、奇遇ですね。私もビヨンドさんのことについてお話しようと思っていました」
「あいつ、どうする? このままじゃどんどん落ちぶれていくわよ?」
「一応訓練には出ていますが、今までと比べてあまりにも弱々しいですものね......。心ここにあらず、という感じで......」
お互い、ライバルなりにもビヨンドのことを心配していた。
闘いや競い合いが好きな二人にとって、好敵手が落ちぶれていく様子は見るに堪えないのだ。
「......仕方がありませんね。ここは最年長ということで、私がどうにかします」
「えっ......。あんたって荒っぽいことしかできないでしょ? どうするつもりよ」
「貴方のおっしゃる通り、私は荒っぽいことしかできません。しかし、今のビヨンドさんには、その荒々しさが必要なのではないでしょうか?」
クレナイはそう言うと立ち上がる。
「明日はお休みです。ビヨンドさんは朝早くからランディさんを探しに行くでしょう。明日の朝にビヨンドさんとお会いするために、本日はお早めにお休みさせていただきます」
そう言い残し、クレナイは訓練場を去ろうと歩き始める。
「あいつに任せちゃって大丈夫かしら......?」
そう思いつつも、レパールはクレナイを見送った。
次の日の朝四時。
ビヨンドは朝早く起き、着替える。
今日もランディを探しに街へ出ようとしていた。
「あら、お休みなのに随分とお早いですわね」
自室の扉を開けて通路に出ると、横にクレナイが立っていた。
「何? あんたもランディを探すために早起きしたの?」
「......いえ。私は別の用事でして......」
「じゃあ私に話しかけないで頂戴。少しでも多く探すのに時間を使いたいんだから......」
ビヨンドはクレナイを無視し、学園の入口に向かおうとした。
だが、何かを感じ取ったのか、歩みを止める。
「はぁ......」
ビヨンドは大きなため息をつきながら振り返る。
クレナイは木刀をビヨンドに突きつけ、睨みつけていた。
「私、あんたの相手をしてる暇なんてないんだけど......」
「ふふ。私の本日の用事は、貴方に喝を入れることです」
「喝?」
「ランディさんのことを思い、探し続けるのはいいことです。ですが、日々の訓練を怠ってまで探すことを、ランディさんは望むでしょうか?」
クレナイの言葉に、ビヨンドは特に返事をしなかった。
「友達思いのランディさんのことです。もし戻ってきたとしても、自分のせいでビヨンドさんの足を引っ張ってしまったと自分を追い詰め、今度はランディさんが落ち込んでしまうはずです」
淡々と話しを続けるクレナイ。
正論を言われ続けているビヨンドは、唇を噛んで聞いているしかなかった。
「だから、探すのはおやめなさい......。とまでは言いませんが、もう少し捜索と訓練の釣り合いを取るようにした方が良いと思います。......でも、そう言ったところで、貴方が考えを変えてくれるとも思いません。だからこそ、私が喝を入れるのです。一度敗北した私が貴方を倒し、危機感を持たせて訓練に集中せざるを得ない状況にする。これこそが、本日の私の用事です」
クレナイは刀を両手で持ち、真剣な表情で構える。
そして、刀を振り上げ、ビヨンドに叩きつけようとした。
「......っ!」
だが、ビヨンドにぶつかる直前で、クレナイは振り下ろす腕を止めた。
ビヨンドの表情を見て、止めざるを得なかった。
「ビヨンドさん......」
ビヨンドの表情は、泣き出しそうな幼い子どものようだった。
「そんなこと分かってる......! 分かってるわよ! でも......!」
涙を流し、手で拭いながら嗚咽混じりの返事をするビヨンド。
泣く姿を見られたくないのか、顔を手で隠す。
「大切な友達がいなくなって......! 私、心配で......! 不安で......!」
まさか泣き出してしまうとは思っておらず、クレナイは困惑してしまう。
「今は訓練をしないといけないのは分かってる......! だけど......!」
手の隙間から涙が垂れ、頬を伝い、床へと落ちていく。
どうしたらいいか分からなくなってしまい、戸惑うクレナイ。
その時、クレナイは過去のことを思い出した。
自分が幼かった頃に泣き喚いた自分をあやした母親の行動を。
クレナイは一旦木刀を鞘に納め、ビヨンドのことを抱きしめた。
「ビヨンドさん......。どうか落ち着いてください......」
まるで子どもをあやすかのように、頭を撫でるクレナイ。
「人生というのは、出会いがあれば別れもあるものです。そして、それが何度も何度も何度も......。それが人生です。ですが、何度もあるからこそ、また出会える機会だって訪れるのです。だから、今はその時を待ちましょう......」
頭をポンポンと軽く叩き、更に抱き寄せる。
普段なら嫌がるだろうが、そんなことをされても抵抗せずに、ただただ受け入れるビヨンド。
それほど、ビヨンドの精神は疲弊してしまっていたのだ。
「だから、今は探し続けながら、訓練を頑張っていきましょう?」
「クレナイ......」
落ち着いたのか、言葉に嗚咽は混ざっていなかった。
クレナイはビヨンドを離し、笑顔を見せる。
「では、一緒に訓練場に行きましょう。万が一ランディさんが戻ってきた時に、恥ずかしい姿を晒さないためにも」
クレナイの誘いに、無言で頷くビヨンド。
そして、二人は訓練場に向かって歩き始めた。
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