ラッティの試練 その3 変貌

 振り向いた女性は、氷の壁を召喚する。

 そして、ビヨンドの後頭部を狙った傘の攻撃を防いだ。


「......っ!」


 ビヨンドは驚きつつ、確信した。

 氷の壁、聞き覚えのある声、そして、顔。


 この女性は、怪盗ルーフ本人であると。


 ビヨンドは反撃を警戒し、距離を取る。


「まさか......」


 ルーフも同様だった。

 自分を襲ってきた少女が、一年前に出会ったビヨンドという名の少女であると。


 だが、ルーフは驚くだけではなかった。

 少し悲しそうな、そんな表情を浮かべていた。


「......あんた、なんでそんな恰好をしてるのよ」


 何故か女装をしているルーフに問いかけるビヨンド。


「......守るべきものができたのですよ」


「答えになってないわ」


「......あなたに答えを教える必要はありません」


 ルーフはレイピアの切っ先をビヨンドへと向ける。


「あなたはここで死んで......。いや、怪盗を辞め、普通の少女として過ごしてもらうことになるので......!」


「はぁ?」


 ルーフの言葉に釈然としないビヨンド。


「事情はわからないけど、私は怪盗を辞めやしないし、死にもしないわよ。私は、あんたに勝って虹の弓を奪い取る。それだけよ」


 ビヨンドは傘を構える。


「......このままでは、あなたを傷つけかねない。もしかしたら、本当に殺すことになる可能性だって......! それでも、一歩も引かずに闘うというのですね?」


「死ぬのが怖かったら、一年も怪盗なんて続けていないわよ」


 毅然とした態度でビヨンドが言う。


「そう、ですか......」


 その言葉に諦めが付いたのか、ルーフの目つきが変わる。


「では、容赦はしません......! 怪盗ルーフ、闘わせていただきます......!」


 ルーフの目つきが変わったことをきっかけに、ビヨンドはより一層警戒をする。


「覚悟......!」


 ルーフがそう言うと、氷塊を召喚し、ビヨンドに向けて発射した。


 ビヨンドは構えていた傘を開き、氷塊を防ぐ。

 氷塊の攻撃はとどまることはなかった。


 傘で防いだまま、疾風の靴の能力を発動する。

 そして、床を踏み込み、傘を開いたままの突進。


 氷塊を防ぎながら、ルーフへ急接近する。

 途中、過去にビヨンドの敗因となった凍らせる罠を踏んだが、疾風の靴で接近するビヨンドの速度に追いつくことはなかった。

 そのまま突き飛ばせれば良かったが、ルーフは氷の壁を召喚し、傘の突撃を防ぐ。


 正直、防がれることをビヨンドは予想していた。

 だが、それで良かった。


 氷の壁に直撃した瞬間、ビヨンドは疾風の靴で跳躍し、氷の壁を乗り越える。

 傘を閉じ、ルーフの頭頂部めがけて傘を振るう。


「甘い!」


 ルーフは即座にビヨンドを視認し、レイピアを突き上げる。

 ビヨンドの傘にレイピアを当て、攻撃を受け流す。


 攻撃が逸れ、傘が地面に突き刺さる。

 地面に着地したビヨンドは、バックステップで即座にルーフから距離を取る。


 次の瞬間、ビヨンドが着地した場所から氷の壁が召喚される。

 このまま避けていなければ、空中に突き上げられたところを狙われていただろう。


「......本当に容赦ないわね」


「......だから言ったでしょう。容赦はしないと......!」


 ルーフが距離を詰め、レイピアで突き刺そうとする。


 だが、ビヨンドは冷静に傘を構える。

 そして、振るう直前に傘を展開し、ルーフの攻撃を弾いた。


「なっ......!」


 素早く繰り出された弾きに、ルーフは驚いた。

 攻撃を弾かれたことにより、ルーフの胴体ががら空きになる。

 

 ビヨンドは即座に傘を閉じ、腕を引く。

 疾風の靴の能力を発動し、床を強く踏み込んだ。

 ルーフに向かって突き進みつつ、傘を槍の様に突き出し、ルーフのみぞおちを突き刺した。

 

 「ぐぁ......!」


 突き刺されたルーフは、床を跳ねながら吹き飛んだ。

 部屋の大きな窓を突き破り、月明かりで輝いたガラスの破片にまみれながら下の階の庭へと落ちていった。

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