ラッティの試練 その2 決戦前
夜九時。
ビヨンドは自室でルーフとの対決の準備をしていた。
黙々と準備を進め、手早く準備を終わらせた。
腰のベルトには、学園長から頂いた鉄傘が取り付けられている。
部屋から出ようとすると、部屋の外から、ドタドタと誰かが走っている音が聞こえてきた。
「ん? なんか騒がしいような......」
ビヨンドは自室の扉を開けて確認する。
自室の前を走っていたのは、医務室で患者の世話などをしている女性だった。
「あの、どうしたんですか?」
「実は、患者が医務室から出てから帰ってこなくて......。ランディっていう名前の、赤毛の子なんだけど......」
ランディの名を聞いた瞬間、ビヨンドの鼓動が高まった。
「え......? ランディが......?」
「ランディの知り合いなの......? ねぇ、あの子が何処へ行ったかわからない......?」
「ラ、ランディが行方不明になったんですか!?」
ランディが居なくなったことを聞き、焦燥感から声を荒げてしまう。
そして、ビヨンドの顔から少しずつ、少しずつ冷や汗が吹き出始める。
若干過呼吸のような状態になり、苦しそうな表情を浮かべる。
「お、落ち着いて! 夕方に散歩に行ってまだ帰ってきてないだけかもしれないから!」
「あ、ごめんなさい......」
声を荒げたことを反省し、謝るビヨンド。
「見たところあなた、これから任務でしょ? ランディのことは私たち大人が探しておくから、あなたは任務に集中しなさい」
女性がそう言うと、ランディを探しにまた走り出した。
「ランディ......」
ビヨンドは、数日前にランディと話したときのことを思い出す。
このまま怪盗を続けていいのか。
「大丈夫......。ランディはやめなんかしない......。きっと戻ってくる......!」
確証は無いが、自分を言い聞かせるためにそう呟いた。
そうでもしないと、ランディのことが気がかりになり、任務が集中できないからだ。
それほど、ランディの失踪がビヨンドのことを追い詰めていた。
無理やり言い聞かせても、あまりに不安なのか、ビヨンドの目から涙が零れ始める。
「大丈夫......! きっと......!」
涙を流しつつ、何度も、何度も言い聞かせる。
悲しんでいる余裕はない。
ビヨンドは何とか自分を落ち着かせ、任務に向かうのだった。
二十三時。
エリュー郊外の豪邸にて。
建物の中に侵入するが、警備は誰一人いなかった。
ビヨンドは心の中で、一年前のことを思い浮かべていた。
初任務の日、ランディと一緒に忍び込み、誰もいない屋敷を探索したこと。
あの時と同じである。
ランディが居ないことを除けば。
ビヨンドはまだランディのことが気がかりだが、自分自身の頬を叩き、任務中は忘れることにした。
今は任務に集中しよう。
そう思ったからだ。
屋敷を駆け巡ると、一つだけ扉が開いている騒がしい部屋を見つけた。
警備兵と思われる男性が、何者かと戦い、声を荒げている。
おそらくここが、目的の戦宝、虹の弓が置いてある部屋であろう。
ビヨンドが部屋に入ろうとすると、声が止んだ。
おそらく戦いが終わったのだろう。
ビヨンドは覚悟を決め、部屋へと入った。
「......え?」
怪盗から宝を守るための窓一つ無い部屋。
部屋の床は一部が凍っており、氷の破片が散らばっている。
先ほど戦っていた兵士たちは、床に倒れている。
そんな部屋の中央に立っていたのは、ルーフではなかった。
薄緑色の長い髪の毛で、レイピアを右手に持っている女性が、虹の弓を展示台から取り出そうとしていた。
ビヨンドは落ち着いて部屋を観察するが、ルーフの姿は無かった。
もしかしたら何かしらの理由があり、予告通りに訪れることができなかったのかもしれない。
そして、偶然ルーフに似た力を持った別の怪盗が訪れる日と被っており、今、ビヨンドの目の前にいる。
疑問に思いつつも、ビヨンドは目の前の女性に勝ち、虹の弓を盗むことに集中することにした。
ビヨンドはすぐに決着を付けるために、鉄傘を構え、疾風の靴の力を発動して急接近した。
大きく振りかぶり、後頭部を狙う。
「......何者!」
女性はビヨンドの存在に気が付き、女性にしては低めの声を出しながら振り向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます