特別任務 その1 ラッティの強さ

 ラッティがスパイの情報を聞き出した日から数日後。

 時刻は深夜一時。


 国の外れに建っている学園。

 その付近の高い建物の屋根の上。

 そこに、ビヨンド、フェルノア、ラッティの三人が伏せながら様子を伺っていた。


 三人は、ラッティが聞きだした情報を元に、スパイが訪れるという学園の近くに訪れていた。

 フェルノアが双眼鏡で遠くを観察し、二人は周辺を見張っていた。


 フェルノアとラッティも、任務に参加するにあたり、怪盗としての衣装を着ていた。

 フェルノアは、黒いコートを羽織り、黒い手袋をはめている。

 対してラッティは、学園の制服を白色にしたような服を着ており、白い手袋をはめている。


「楽しみだねー、ビヨンドちゃん」


 任務中なのにも関わらず、笑顔なラッティがビヨンドに話しかける。


「そ、そうですね……」


「ちょっとビヨンドちゃーん笑顔笑顔ー」


 ビヨンドの口を無理やり動かして口角を上げるラッティ。

 ビヨンドはラッティの手を掴み、引き離す。


「お前ら、静かにしろ……! って、なんだあれは……!?」


 フェルノアの視線の先には、とんでもない光景が映っていた。

 大きな鉄製の鎧が、学園の壁を突き破っていたのだ。


 壁を壊れた時に舞い上がった煙のせいで鎧は見えなくなる。

 煙が消える頃には、鎧は消えていた。

 そして、壁には大きな穴が開いていた。


「ラヴァの仲間か? クソ、厄介なことになりそうだな……。おい、行くぞ」


 フェルノアは立ち上がり、学園へと向かう。


「りょーかーい」


 適当な返事をし、ラッティは後に続いた。

 その後ろをついて行くビヨンド。

 三人はすぐに穴の場所へと移動した。


「しかし、派手にやったもんだなぁ……」


 穴の中を除くフェルノア。

 建物の中には大量の瓦礫が入り込んでおり、その周辺には、雇われの傭兵だと思われるいかつい男たちが倒れていた。


「あの鎧がやったのかなー? 怖いねービヨンドちゃん」


「そ、そうですね……」


 任務中なのにも関わらず陽気なラッティに少し困惑する。


「よし、そろそろ行くぞ」


「はーい。行こ、ビヨンドちゃん」


 フェルノアは一人で先に進み、ラッティとビヨンドは二人で並んで後を追いかける。


「この人、大丈夫かな……?」


 小声でそうつぶやくビヨンド。

 あまりのラッティの陽気さに不安になる。


「能天気なやつだが、戦いに関しては俺たちの中でズバ抜けてるから安心しろ」


「私強いから安心してね」


 疑問に思いつつも先を急ぐ。

 しかし、途中で傭兵とばったり会ってしまう。


「クソ! あいつらの仲間か!?」


 敵は六人。

 勝てると思ってはいるが、油断しないようしっかり構えるビヨンド。


 だが、構えた頃には傭兵たちは体を押さえて苦しんでいた。


 次の瞬間、ビヨンドの横をラッティが通り過ぎる。

 そして、ラッティは兵士を殴り、蹴り飛ばしていく。

 ラッティの圧倒的な力により、傭兵は次々と薙ぎ倒されていった。


 そして、全員倒すとビヨンドたちの元に笑いながら戻ってくる。


「ねー言ったでしょー? 私強いって」


 何が起きたかわからず唖然とするビヨンドは、何の反応もない。


「な、何が起きたんですか......? 兵士たちが突然苦しみ始めて......」


「今のはねー、これ!」


 ラッティは、ポケットから鉄でできたトランプの束を取り出す。

 角は研がれており、鋭利な刃物のようになっていた。

 倒れた傭兵の腹をよく見ると、トランプが刺さっていた。

 腹を抑えていたのは、これが刺さったからだろう。


「オシャレだし強いでしょーこれ。ビヨンドちゃんにもあげるー」


 ラッティはポケットからトランプの束を取り出し、ビヨンドに持たせる。


「……言っただろ? 安心しろって」


「ま、まさかこんなに強いとは……」


 少し恐怖を覚え、震えた声になる。


「怖がんないでよー。私は味方なんだから、ね?」


 ニコニコしながらビヨンドを抱きしめるラッティ。

 この人とは何があっても絶対敵対しないようにしよう。

 そう心に誓うビヨンド。


「じゃ、先に進もー!」


 先に進むラッティ。


「多分連れて来られた子もこんな目にあったんだろうな……」


 連れて来られた子とは、ラッティが連れて帰ってきた怪盗のことだろう。

 おそらく、今みたいに痛めつけられ、あまりの恐怖に情報を吐いたのだろう。


「あいつが仲間でよかったよ。敵だったと思うと、ゾッとするな……」


「ですね……」


 四天王とも呼ばれる優秀な怪盗ですら怯えさせるラッティに、恐怖するビヨンドだった。



 建物を探索していると、爆発のような音が聞こえてきた。

 三人はその方向へ走って向かう。

 学園の巨大な玄関ホールにたどり着くと、先ほどの鎧が戦っている場面に遭遇した。


「あの鎧……!」


 ビヨンドの視線の先には、壁を壊していた鎧が傭兵たちを殴り倒している光景が広がっていた。

 圧倒的な力と守りにより、傭兵たちは次々に倒れていく。


 そして、その鎧の肩には、ビヨンドより年上と思われる薄水色の短髪の女性が座っていた。

 あの女性こそ今回のターゲット、怪盗ラヴァだ。


 ラッティは、トランプをラヴァめがけて投げる。

 しかし、鎧が気が付き、手で止めてしまう。


「おや、なんで学園の怪盗がいるんだい......? 誰かが情報を漏らしたか? ......まぁいいか」


 鎧はラヴァを下ろし、こちらに突撃してきた。

 鎧が拳を振り上げ、三人を殴ろうとしたが、間一髪で避ける。

 殴った床は粉々になり、穴が開いた。


「ビヨンド! こいつは俺たちでどうにかする! お前はラヴァを確保しろ!」


 フェルノアに指示されたビヨンドは頷き、ラヴァの元へ向かう。

 ビヨンドは走ったまま跳び上がり、得意の蹴りをお見舞いしようとする。


「甘い」


 ラヴァは、ビヨンドの脚を掴む。

 そして、そのまま放り投げてしまう。


「がはっ……!」


 床に叩きつけられてしまうビヨンド。

 強い衝撃と痛みがビヨンドを襲う。

 しかし、痛みを我慢して素早く立ち上がる。


「へぇ、すごいじゃん。ビヨンドだっけ? 学園で優秀な怪盗だよね」


「あんたの目的は何? 何でスパイ行為なんてしたの?」


 ラヴァは、ニヤリと笑う。


「学園をぶっ潰して、最強の怪盗の証を手に入れるのが目的だよ......!」

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