四天王
次の日の授業開始前、ビヨンドは、クレナイにしぶしぶ話しかけた。
クレナイは少し驚いた顔をした。
「あら、ビヨンドさんからお声がけしてくれるなんて珍しいですね。いえ、初めてかしら……?」
「そんなのはどうでもいいの。それより、この前の情報を教えてくれた友人のことについて教えてくれない?」
「いいですけど、何か御用でも?」
「ちょっとね」
「いいですわよ。では、こちらへ」
そう言うと、クレナイは歩き始めた。
歩き始めたクレナイを追いかけるように歩き始める。
「あ、そうだ。私がこの情報を知ってるってことは言わないでもらえませんか?」
「どうして? もしかして、言うなって言われてたとか?」
「いえ、今の情報は直接聞いたのではなく、その……。一人でブツブツ言っているところを偶然聞いたので……」
「……そう言ってるけど実は意図的に盗み聞きしたとか?」
「あら、私はご友人にそんなことしませんよ」
「どうだか……」
疑うビヨンド。
「ここですわ」
クレナイは、とある教室の前で歩みを止める。
教室の扉には、一のAと書かれている。
どうやら、一年生の教室のようだ。
「あんた一年に友人なんていたのね。いや、私のことも一方的に友人って言ってるから、もしかしたら,,,,,,」
「強そうな雰囲気を感じたので、私からお声をかけさせていただきましたわ。お名前はシヴですわ。では、私はこれで」
「ありがと。お礼にこれあげるわ」
ビヨンドは、学園長室に行った時にもらってきたお菓子をクレナイに投げる。
「あら、ずいぶんと高そうなお菓子、ありがとうございます」
「急に礼を求めて殴りかかってきたりでもしたら嫌だし」
「あら、ビヨンドさんの中では私は野蛮なイメージなのですね……」
「そうよ、じゃ」
悲しそうにしているクレナイを放っておき、教室へと入った。
そして、教室を見渡す。
授業前なので、生徒の数はとても多い。
「すみませーん」
ビヨンドの声に反応し、生徒全員がビヨンドに注目する。
「シヴって人に用があるんだけど」
生徒たちはキョロキョロと教室を見渡す。
そして、近くにいた男子生徒が声をかけてきた。
「今日はまだ来てないみたいです。もしかしたらまだお部屋かもしれません」
「そう。もし来たら、二年のビヨンドか呼んでるって言っといてくれない?」
「わ、わかりました」
要件を伝えると、ビヨンドは授業に出席するため、一旦自分の教室へと戻った。
昼休みになってしばらく経過した後、先ほど要件を伝えた男子生徒がビヨンドの教室に訪れた。
「今日は休みみたいで……。もしかしたら、部屋で寝込んでいるのかもしれません……」
「そう。じゃ、部屋に案内しなさい。私が看病しに行ってあげるわ」
「……本当に看病するんですか?」
「いいやつだったらね。じゃ、案内よろしく」
歩き始めた男子生徒にビヨンドはついて行った。
数分ほど歩くと、一年生の寮がある区画に入り、シヴ・クレイと書かれた看板がかけられた部屋に着いた。
男子生徒がノックをするが、返事はない。
「……ちょっといい?」
怪しいと思ったビヨンドは、ドアノブを掴み、回した。
鍵はかかっておらず、扉は開いた。
「……一年生の部屋ってもんはこんなに殺風景なものなの?」
「えっ……!」
部屋の中はベッドと机、本棚、そしてクローゼットがある。
しかし、机と本棚には本どころか紙切れ一冊もない。
怪しんだビヨンドは、クローゼットの扉を開ける。
クローゼットの中は、一着の衣服もなかった。
まるで人が入居する前だった。
そんな奇妙な部屋に驚く男子生徒。
「……遅かったか」
突然の男の声に驚き、振り向く二人。
そこには、短髪の白髪の男が立っていた。
「すまない君、ちょっと席を外してくれないか?」
男子生徒は驚きながらも頷き、その場から去る。
「ここじゃあれだ。他所で話そう」
「……知らない人について行くのは幼い子どもだけよ?」
「……あぁ、そうだな……」
男は、顔全体が見えるように身につけているマフラーをズラす。
「……怪盗フェルノア。四天王の一人だ」
フェルノアと名乗る男を怪しみながらもついて行くと、学園長室にたどり着いた。
フェルノアは学園長室の扉を叩く。
「……入りなさい」
「失礼します」
入室前に返事をするビヨンド。
無言で扉を開け、スタスタと進んでいくフェルノア。
その後ろをビヨンドはついていく。
「フェルノアと……ビヨンドね。それでフェルノア、あの生徒は……」
「姿形もありませんでした。まさかここまで早く逃げられるとは……。もしかしたら、昨日の会話も全て聴かれていて、昨日のうちに逃げられたのかもしれません……」
「そう……。となると……」
うつむき、しばらく考え込む学園長。
「スパイの可能性がありそうね。……ビヨンド。貴方に特別任務を与えるわ」
学園長は立ち上がり、ビヨンドのことを指差す。
「このフェルノアと一緒にスパイの可能性がある生徒を探しに行ってはくれないかしら!」
「えっ、私がこの人と......?」
「このフェルノア、怪盗フェルノアは四天王。生きる伝説……には程遠いけど優秀よ。いい経験になるんじゃないかしら?」
「......わかりました。一緒に探します!」
「わかったわ。というわけでフェルノア、お願いできる?」
フェルノアは頭を軽く掻く。
「お嬢ちゃん、俺は子守りはできないぞ?」
「こっちこそ、介護はできないわよ?」
「ふっ、学生の分際で言ってくれるじゃねぇか……!」
「それじゃあ、二人に任務を与えるわ。この学園に忍び込んだ不届き者をとっ捕まえなさい!」
学園長のこの言葉と共に、ビヨンドとフェルノアによる特別任務が始まった。
特別任務を開始した日の夕方、時刻は十八時。
一般人の服装をしたビヨンドとフェルノアは、街を歩いていた。
お互いの名前を呼ぶ時に偽名を言うとすぐに国の警備兵が駆けつけてくるため、ビヨンドのことはラフィ、フェルノアのことはロミネと呼ぶことになった。
「ロミネさん。目星はあるんですか?」
ビヨンドの質問に対し、返事をしないフェルノア。
おそらく目星はないのだろう。
「……この国は怪盗で溢れてるんですよ?その中から見つけるなんてできるんですかね?」
「ほとんど情報がないんだから仕方ないだろ……」
クレナイの友人だった怪盗シヴは、薄水色のショートヘアの女の子、年は十八歳、身長は約百六〇センチ。
これくらいしか情報がない。
街中を警備している兵士の話を聞いたりしているが、シヴという名前は聞かない。
時間だけが過ぎていき、あたりは暗くなり、人も少なくなってきた。
「……見つからないですね」
「そうだな」
ビヨンドとフェルノアは、暗い道を話しながら歩く。
疲れが溜まっているビヨンドは、口数が少なかった。
「わあ!」
そんなビヨンドの肩を誰かがつかみ、大声で驚かす。
「ひゃあああ!」
あまりに唐突だったので、情けない声を出してしまうビヨンド。
振り向くと、学園の制服に似たような服を着た長い銀髪の女性が立っていた。
「ヤッホー」
女性は、ビヨンドとフェルノアに挨拶をする。
名前も知らない女性に突然話しかけられ、ビヨンドは混乱している。
「シェラ!」
突然女性に向かってシェラと呼び、胸ぐらを掴むフェルノア。
「お前……! 俺に仕事押し付けやがって......!」
そのまま揺り、シェラという女性の体はユラユラと揺れる。
しかし、そんなの全く気にしてる様子はなく、ヘラヘラしている。
「あははー、ごめんって。こっちも忙しいんだよー。私用だけど」
「フェルノアさん! まさかこの人って……」
「ここじゃあれだ。一旦帰ろう。シェラ、お前も着いてこい」
「はぁーい」
陽気な声で返事をするシェラ。
こんな仕事を平気でサボる女性が四天王の一人と信じたくないビヨンドであった。
学園に戻り、ロビーにある椅子に座る三人。
フェルノアは怒りと呆れを感じ取れる表情をしているが、それに対してラッティはニコニコしており、人生に何の悩みもなさそうだな、と想像させるような顔をしている。
「ビヨンド、信じたくないと思うが……。こいつ、シェラは四天王の一人、希望の怪盗ラッティだ」
「どーもー。よろしくね、ビヨンドちゃん」
ビヨンドの手を掴み、無理やり握手するラッティ。
突然手を掴まれたため、驚くビヨンド。
「いつでも笑顔でみんなを和ませたり励ましたりしてたから、周りから希望の怪盗と呼ばれるようになったが……。俺にとっては絶望の怪盗だ」
「えー? そんなこと言わないでよー」
ラッティはフェルノアの肩を掴んで揺らすが、肩を抑える手を無言で振り払う。
「むー。手伝おうかと思ってるんだからそんなに冷たくしないでよー」
「えっ! ラッティさん手伝ってくれるんですか!?」
「私の目標と今回の君たちの目標が一致してる可能性があってね」
「目標?」
「レイティ・クロアっていう名前の妹を探してるの。怪盗をしてるっていう情報はあるんだけど、それ以外はさっぱりでさー」
足を組み、椅子をゆらゆらと揺らしながら話す。
「今回の怪盗が組織に所属してるなら、一気に怪盗の情報が手に入るでしょ? だから、妹探しが進展するかなって思ったので協力します!」
「正直一人増えたところであんまり変わらんと思うがな……」
「私は人探し始めてもう十年! 人探しに関しては達人クラスだよ!」
「……妹を見つけられてないくせに」
自信満々に言うが、全く信頼していないフェルノア。
「まぁまぁ、ということでビヨンドちゃん!」
再びビヨンドの手を掴む。
「よろしくね?」
「よ、よろしくお願いします……」
あまりの明るさに若干引き気味のビヨンド。
「それじゃ、早速行こう!」
ラッティは立ち上がり、学園から出ようとする。
「じゃ、後は頼んだ」
「えっ?」
ラッティの外に向かう足はピタリと止まる。
「俺はお前に仕事を押し付けられ過ぎて疲れてる。ビヨンドはまだ学生だし無理をさせるわけにはいかない」
「わ、私は大丈夫です!」
「ビヨンド。もしかしたら戦うことになるかもしれないんだぞ。自室で休んで体調は万全にしとけ」
「わ、わかりました……」
ビヨンドは、自分の部屋へと戻る。
「じゃ、頼んだぞラッティ」
「……仕方ないなぁ。わかった、任せといて」
ラッティは、学園の外に出た。
深夜、とある博物館にて。
「よし、お宝ゲット……!」
女の子の怪盗が、お宝を手に持つ。
「そこの君、ちょっといいかな」
女の子は振り返る。
そこには、怪盗ラッティが立っていた。
「ちょっとお話聞きたいんだー」
無防備なまま女の子に歩み寄るラッティ。
怖くなった女の子は、武器である銃槍を構える。
そして、無言で射撃。
しかし、ラッティは飛んできた弾を最小限の動きで容易く避け、すぐさまもの凄い速度で女の子へと接近する。
女の子の髪を掴み、そのまま引っ張り持ち上げ、床に叩きつける。
「痛っ……!」
「ちゃんと教えてくれればすぐ解放してあげるからねー」
ラッティは女の子にまたがり、頭を押さえながら紙を見せる。
フェルノアからもらったスパイの絵が書かれた紙だ。
「変なことしたら顔面がぐちゃぐちゃになるからねー。じゃ、聞きたいんだけど。この子に見覚えってないかなぁ」
ラッティは、女の子の髪の毛を摘み、無理やり顔を上げさせる。
「ラヴァ……? あっ!」
女の子はうっかり名前を言ってしまった。
しかも、聞いていたシヴという名前ではなく、別の名前をだ。
「へぇ、知ってるんだ。教えてくれない?」
ラッティは女の子の頭を地面に叩きつける。
女の子はラッティに恐怖し、大人しく話し始めた。
数日後に国立の学園に忍び込むという情報を得ることに成功すると、ラッティは女の子から降りた。
「ご協力ありがとねー。いやーまさかこんなに早く手がかりが見つかるとは思わなかったなぁ」
女の子は、恐怖で震え、顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
そんな女の子を殴打して気絶させ、抱きかかえながら博物館を後にした。
朝七時。
「も、もう情報を手に入れたんですか!?」
「まさか、本当に人探しの達人だったとは……」
あまりの早さに驚く二人。
「偶然だけどねー。でも褒めて褒めてー」
ラッティは、嬉しそうにニコニコしている。
しかし、そんなラッティを無視し、フェルノアは話を進める。
ラッティによると、数日後に国の外れの学園に現れるらしい。
「ビヨンド、俺たちも学園に乗り込むぞ。ラッティ、お前もだ」
「はーい。初めての共闘だね、ビヨンドちゃん。楽しみにしてるよー。それじゃ、じゃあねー」
そう言うと、ラッティはどこかへ行ってしまった。
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