共同任務 その3

 四人は、すぐに美術品である石像の裏に隠れた。

 この美術品だって大切なものだ。

 傷つけてしまうのを恐れ、撃つのをためらうだろう。

 しかし、フェグラは回り込み、ためらいなく弓を撃ってきた。


「なっ!」


 後ろ方向に飛ぶビヨンド。

 そのまま回り、上手く立ち上がる。


「まさか、全部偽物......!?」


 そう予想したビヨンド。


「正解。そこにある美術品は全て贋作よ。予告状で野蛮な奴らが来るって知ったから、全部入れ替えてもらったのよ」


「そんなことするくらいだったら、全部無くして隠れる場所を無くしたほうがよかったんじゃない?」


「本当は隠れれば大丈夫だと思って油断してるところを殺そうかと思ってたんだけど......」


 怪盗たちは予告状を出し、正々堂々塗すむことを美学としているが、王国からしたらそんなことは知ったものではない。

 今回のように、徹底的に準備し、怪盗を騙すこともあるのだ。


「まあいいわ。さあ、どんどん行くわよ!」


 今度は正確に狙わず、乱れ撃ちをしてくるフェグラ。

 正確に狙っていない分挙動が読みにくく、避けにくい。

 石像に当たろうが構わず撃ち込んでくる。

 どうやら、全て贋作というのは本当のようだ。


 しかも、贋作が脆いのか、はたまたフェグラが強いのか、石造はどんどん砕けていく。


「あの二人はどうでもいいけど、ランディが心配ね......」


「ランディ! 大丈......!」


 心配し、ランディに声をかける。

 ビヨンドは、目の前の光景を疑った。


「ビヨン......ド......ちゃん......」


 ランディの太ももには矢が突き刺さっていた。

 服は赤く染まり、足は震えている。


「い、痛いよぉ......」


 涙を流し、地面に膝をつく。

 それを狙うかのように、ランディに弓矢が降り注ぐ。


「はあっ!」


 クレナイがランディの正面に立ち、すべて撃ち落とす。


「......クレナイ、ランディを別室へ避難させて治療してあげて......」


 怒りの感情を露にしつつ、クレナイにお願いする。

 クレナイは頷くと、ランディを抱きかかえ部屋を出ようとする。


「逃がすと思ってんの?」


 無防備なクレナイが狙われる。


「危ない!」


 レパールは、倒れている兵士の盾を二枚拾い、クレナイの元へ投げた。

 投げられた盾により、クレナイに向かっていた矢は地面に落ちた。

 そして、無事部屋の外へと避難した。


「レパール......。何をしてもいい。こいつを殺すわよ......!」


「え......」


 レパールも怯えてしまうほどの怒りと恐怖をビヨンドから感じ取る。


「死ぬのはあんたらよ。かかってきなさい、新米怪盗ども」


 攻撃を再開するフェグラ。

 一旦石像に隠れる二人。


「どうするビヨンド!? このままじゃいつか私たちも撃たれるわよ!」


「......レパール、。あんたがナイフで攻撃すれば、やつは隠れるはず。あんたはあいつを柱まで追いつめて」


「わかったわ......」


 ビヨンドの指示に従い、フェグラに向かってナイフを投げ始めるレパール。

 相手は一発ずつしか撃てないが、レパールは一度に数本投げることができる。

 撃ち落とすことができないフェグラは、柱へと身を隠す。


「あいつが顔出さないようしっかり投げ続けてなさい」


 頷き、ナイフを投げ続けるレパール。

 その隙に、疾風の靴で上に上がるビヨンド。


 しばらくナイフを投げ続けると、レパールのナイフはなくなってしまった。


「あれあれ、もしかして無くなっちゃった?」


 柱から顔を出し、笑って煽るフェグラ。


「あれ? もう一人は?」


 次の瞬間、殺気に気が付き、フェグラは回避する。

 ビヨンドが無言で近づき、ナイフで切り裂こうとしてきたからだ。


「おおっと、こりゃまずいな」


 急接近するビヨンド。

 それを狙うフェグラ。

 しかし、あまりにも距離が近く、しかもビヨンドが疾風の靴で加速するため、撃つ前に腕を切られてしまう。


「きゃっ! ......この!」


 フェグラは、矢を弓で撃つことなく直接ビヨンドに刺そうとした。

 しかし、ビヨンドはその矢を掴んだ後にへし折り、蹴り飛ばす。


「きゃああああ!」


 壁に叩きつけられるフェドラ。

 彼女の手から力が抜け、弓を手放す。

 そして、弓をへし折り、フェドラの腹目掛けてナイフを投げた。


「いっ......! や、やめて......殺さないで......!」


 泣きながら命乞いをするフェドラ。


「許さない......!」


 ビヨンドは刺さったナイフを蹴り、奥深くへ突き刺す。


「痛いっ! やめてぇ!」 


 そして、刺さったナイフを掴み、そのまま腹を切り裂こうとした。


「ビヨンド! やめなさい!」


 ロープで登ってきたレパールに、腕を抑えられ止められる。


「怪盗はむやみに殺さず、お宝を盗む存在。あんた、師匠を超える怪盗を目指してるんでしょ!? ここで殺したら師匠超えなんてできないわよ! 怪盗失格よ!」


 レパールが説得した後、少しの間沈黙が続いた。


「......私にナイフ投げたバカが何言ってんだか......」


 ナイフから手を放し、立ち上がるビヨンド。


「......命拾いしたわね」


 つま先でフェドラの頭を動かし、無理やり顔を上げさせる。

 そして、睨みつけた後、頭を蹴り飛ばした。

 フェドラからは完全に力が向け、気を失った。


「そういえば、ランディは大丈夫かしら」


 心配するレパール。


「ふふ、心配ご無用ですよ」


 下から声がする。

 手すりに手をついてのぞき込むと、クレナイと抱きかかえられたランディがいた。

 ランディに刺さっていた矢は抜かれ、包帯が巻かれていた。

 どうやら無事のようだ。


「一応手当はしましたが、念のため早めに帰ったほうが良いでしょう」


「そうね。さ、盗んでさっさと帰りましょ、ビヨンド」


 登ってきたロープで降り始めるレパール。

 ビヨンドは手すりから身を乗り出し、飛び降りた。


 目的である彫刻品は贋作である可能性があるが、念のため学園に持って帰った。

 学園に着いたビヨンドたちは、即座にランディを医務室へ運んだ。


「みんなごめんね......。私役に立てなくて......」


 泣きそうになりながら言うランディ。


「そんなに心配しないでください。上手くいったんですから」


「うーん、足を怪我したとなるとしばらく任務は無理そうね......」


 足の怪我を見ながらレパールは言う。

 そう言われ、落ち込むランディ。


 彼女は、なかなか成果が出なくて焦っていた。

 だから、今回の任務で今までの努力を見せつけ活躍するつもりだったのだ。

 それ故、余計ショックが大きいのだろう。


「ランディ......」


 ビヨンドはランディを抱きしめた。


「ビヨンドちゃん......?」


「ランディはちゃんと戦ってたし、よく頑張ってたわ。だから、落ち込まないで......」


「ビ、ビヨンドちゃん......!」


 ランディは感情が高ぶりすぎて泣き始めてしまった。

 そんなランディを、強く抱きしめた。


「……ビヨンドさん。こんなタイミングで言うのもあれなんですが......」


「もしかして、キラーナのこと......?」


「そうなんですが、後の方がよろしいでしょうか......?」


 ビヨンドは少し考えた。


「いや、今でいいわ。教えて頂戴」


「......わかりました」


 ビヨンドは、ランディの隣に座り、話しを聞くことにした。


「これは私のご友人から聞いた話なので、本当かどうかはわからないのですが......。まず、この学園がこんな頻繁に任務を私たちに提供できるなんておかしいと思いませんか?」


「確かに、この学園って百人以上は生徒がいるわよね。この国にお宝が多いとはいえお宝はそこそこ隠されてるはず......。それなのにこんな大勢に任務を提供し続けられるなんて......。これって、情報が漏れてるとしか......」


 そう考えるレパール。


「実際に漏れているんですよ」


「「えっ!!」」


 驚くランディとレパール。


「この学園の現学園長は表向きは貴族で、晩餐会などでよく自慢話を聞かされるそうなんですよ」


「それを学園に横流ししてるのね......」


「ええ」


 ビヨンドの返事にそう返した。


「で、でもそれでもこの量はおかしいんじゃ......」


「正解です、ランディさん。だから、学園長は四天王と呼ばれる優秀な卒業生四人から情報提供をしてもらっているらしいんです。その方々の名前は、炎の怪盗フェルノア、嵐の怪盗テペア、希望の怪盗ラッティ、そして、煌めきの……」


「怪盗キラーナ……!」


 クレナイが先に言い終わる前に言うビヨンド。


「……その通りです。もしこの情報が本当ならば、学園長を尋ねれば情報を得られるかと……」


「……ありがとうクレナイ」


 そう言い立ち上がるビヨンド。

 早速学園長の元へ行くため、医務室から出ようとした。


「そうだ。レパール」


 顔をドアに向けたままレパールに声をかける。


「何よ」


「……あの時はありがと。止めてくれて」


「……ふふっ、借りはしっかり返しなさいよ!」


 それに対し特に返事もせず、医務室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る