共同任務 その2

 二十三時。

 四人は目標がある国立美術館へとやってきた。

 全員大き目のリュックサックを背負っている。

 今回の目標は、死後に評価され、かなり価値が上がったと言われる絵画だ。

 狙う宝が高価という理由もあるが、予告状で四人が盗みに来るということが伝わっているため、今までにないほど厳重だ。

 ビヨンドが双眼鏡で警備を確認し、他の三人は物陰に隠れている。


「どうよビヨンド。侵入できそうな場所あった?」


「レパールうるさい。ちょっと黙ってて」


「は......」


 怒ろうとしたレパールの口を、クレナイが塞いだ。

 それにより、落ち着きを取り戻す。


 入口周辺を確認するも、あまりにも警備兵が多く、突破できそうにない。


「となると......。移動するわよ、みんな」


 ビヨンドが手でついてくるように合図すると、みんなはそれに従った。

 四人は、美術館から少し離れた時計塔へとやってきた。


「みんな、準備」


 ビヨンドが指示すると、リュックサックから布のようなものを取り出す。


「ビヨンドちゃん、これって......」


「パラシュートよ。黒色に塗りたくってあるから、月が隠れて暗くなった瞬間にこれで飛び降りるのよ」


「でも、服が明るかったらバレてしまいませんか?」


「それも問題ない。ちゃんと体を隠すための布も用意してあるわよ」


 ビヨンドは、リュックサックの底から体を包めるほどの大きな真っ黒な布を取り出す。

 みんなは、黙々と準備を進める。

 準備を終えると、四人は時計塔の手すり前に立つ。


「ビヨンドちゃん、私怖いよ......」


 震えた声で言うランディ。

 足も震えており、怖がっていることが伝わってくる。


「ランディ、今回の任務が成功すれば、ランディも評価されるわ。ここで頑張らないと、今までの努力が無駄になっちゃうわよ」


 そういいつつ、ランディを抱きしめ、背中を軽く叩く。


「......うん。私頑張る!」


 ランディは、勇気を振り絞り、飛び立つ準備をする。


「......私たちへの対応とは大違いですね......」


「そうね......」


「当り前じゃない。人の心がないあんたらに優しさなんて不要よ」


 そう吐き捨てると、ビヨンドも準備する。

 そして、雲で月が隠れた瞬間、四人の怪盗は時計塔から飛び降りた。



 飛び降りた四人は、夜の暗闇に身を隠し、バレることなく美術館の屋根へと着地した。

 屋根付近の窓を覗いたが、高さがある。

 戦宝で足が守られているビヨンドは飛び降りても無事だが、他の三人は飛び降りたら無事ではすまない。

 しかし、それも想定済だったのか、ビヨンド以外の三人はウエストポーチから何かを取り出し、靴底に装着した。


「これを着ければ足に衝撃が来ないから、安心して飛び降りなさい」


 三人が足に着けたのは、靴底に装着するバネだ。

 これを着けることにより、ある程度の高さなら飛び降りても大丈夫になる。


「レパール、あんたの出番」


「いちいち言われなくてもわかってるわよ」


 レパールはナイフを取り出す。

 戦闘用のナイフとは違い、ガラスに穴をあけることに特化したナイフだ。

 少しずつ切ることにより、傷を大きくしていく。

 作業を繰り返すと、窓に一人通れる程度の穴が開いた。

 ビヨンドはしゃがみ、穴を通り、飛び降りる。

 無事飛び降りたビヨンドは、他の三人に来るように促す。


 レパールが飛び、クレナイが飛び、最後にランディが飛び降りる。


「おっとっと」


 ランディが着地の瞬間体制を崩し、転びそうになる。

 そんなランディをクレナイが抑える。


「あ、ありがとうございます」


「ランディ、そんなやつにお礼なんて言わなくていいわよ」


 ビヨンドはそう言い、スタスタと先に進む。


「ビ、ビヨンドちゃん......!」


「あら、冷たいですわね......」


 他の三人も、後に続いた。



 上から侵入してくることを想定していなかったのか、警備兵の人数は少なかった。

 明かりもついていないくらい廊下を、音を立てずに進む。

 目標に近づいてきたところで、ビヨンドが手を開いた状態で三人に見せ、止まれと合図をした。

 扉に耳を当て、向こうの音を確認する。


「人数が多い。おそらく十人くらい......? いったん戻って警備兵から服を奪って変装したほうが......」


 ビヨンドは、三人の方を向いた。

 しかし、クレナイの姿はなかった。

 咄嗟に正面を見る。

 既にクレナイが突撃していた。


「ふふ、皆さん覚悟は良いですか?」


 木刀を構え、待ち構えるクレナイ。


「はぁー......」


 呆れて大きなため息をつくビヨンド。


「ビヨンドちゃん、どうしよう......!」


「面倒だからあいつらに任せて......」


「おい! ここに怪盗がいるぞ!」


 騒ぎを聞いて駆けつけてきた警備兵たちに見つかってしまった。


「......ったく、ふざけんじゃないわよ! 行くわよ! ランディ、レパール!」


「言われなくてもわかってるわよ!」


 二人の警備兵が正面から、反対側からも数人の警備兵がこちらに向かってくる。


「レパール、そっちは任せたわよ!」


 ビヨンドは、正面の兵士に向かって走る。

 跳躍し、警備兵の頭に蹴りをお見舞いする。

 武器である槍と盾を奪い、ランディの元へ投げる。

 ランディはそれをキャッチする。


「危なくなったら頑張って守りなさい!」


「う、うん!」


 ランディは、槍と盾を構える。

 ビヨンドは、槍は拾わず盾だけを持つ。


 正面からさらに四人の援軍がやってくる。


「お嬢ちゃん、盾だけで大丈夫かい?」


「あんたみたいな雑魚なんてこれだけで充分よ」


「クソガキが......! 死ねっ!」


 槍を持って突撃してくる警備兵。

 しかし、ビヨンドは盾でいともたやすく攻撃を受け流し、腹にアッパーを決める。

 次に来た警備兵の攻撃も容易く受け流し、足払いをする。

 そして、腹にかかと落としを食らわせた。


「こうなったら二人で行くぞ!」


「おうっ!」


 二人同時に攻めてくる警備兵。


「ビヨンドちゃん! 左お願い!」


 隣にランディが立つ。

 ビヨンドは左の敵に集中し、攻撃を防ぐ。

 そして、顔面を殴った。


 ランディは、盾で防いだ後に槍で足を突き刺し、相手を怯ませる。

 そして、ビヨンドが裏拳で敵の後頭部を殴打。


「ナイス、ランディ」


「えへへ、ありがとう」


 ビヨンドとランディはハイタッチしたあと、レパールとクレナイの方を確認する。

 あちらも警備兵を全員倒しており、余裕そうな顔をして立っていた。


「あんたはなんでこんな野蛮な方法でしか盗むことができないのかしら......」


 呆れながら言うビヨンド。


「まあまあ、いいじゃないですか。無事お宝も盗めそうなんですし」


 そう言いながら宝がある部屋の扉を開けようとした。

 しかし、クレナイは突然振り向き、抜刀する。


「きゃあ!」


 ランディが悲鳴を上げる。

 クレナイの足元には、真っ二つになった弓矢が落ちていた。

 クレナイは、弓が飛んできたと思われる方向を向く。

 他の三人も、クレナイが向いている方向に注目する。


「あーあ、バレちゃったかぁ......」


 そこには、弓を持った茶髪の女性が立っていた。


「誰ですか? 不意打ちをする卑怯者は」


「あんたら怪盗だってコソコソ隠れてて卑怯なんじゃない? ......まぁ、今回は派手にやってくれたみたいだけど」


 少女は、話しながら弓を構え、レパールに向かって撃つ。

 しかし、レパールはそれに反応し、ナイフで撃ち落とす。


「へぇ、なかなかやるみたいね。あたしはレパール。あんたも名乗りなさいよ」


「私? 私は、王国警備団弓兵部隊隊長、フェグラよ! あんたたちゴミどもを殺しに来たの!」


 フェグラと名乗る女性は、紹介を終えると再び弓を構えた。

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