キウイの狩りのやり方
さわみずのあん
キウイ振る打つ
怒りの沸点。なんていうけれど。
怒りは融点。だと私は思う。
電気炉の中で沸々と沸く、溶岩のような金属。
私はそれを、あの子の鍵の鋳型に、憎しみと一緒に、流し込む。
キウイ。
キウイは飛べない鳥だ。
キウイは走れない鳥だ。
キウイは泳げない鳥だ。
キウイは私のあだ名だ。
名付けられてから、二度。クラス替えをしたから。
私とあの子のことを知らないクラスメイトは。
ずんぐりむっくりで、小さくて、足が太くて。
だから私のあだ名だと、思っている。
本当は。
ちょっと、顔に、産毛が生えていたからだ。
言われるまでは、全然。気にもしていなかった。
鏡をよくよく見ると、確かに顔が、ふうわりしている。
鼻の、下も。少し浅黒い。
たった。
それだけのこと。
それだけのことで。
今まで、小さな島だったけれど。
楽しく過ごしていた私の。
周りは、天敵だらけに。なってしまった。
晴天の霹靂。
人口降雨のキャッツアンドドックス。
マタタビ科のキウイにはしゃいだ猫に。
瞬く間に急に扱いが犬に。
お手。
お座り。
待て。
伏せ。
ちんちん。
給食のキウイの皮を、口に詰め込まれたり。
毛虫を飲み込むような、吐き出したくなる芸から。
逃げ出す翼を、私は持たなかった。
心の中を。
冷たくして。
固く凍らせて。
耐えて耐えて。
でも。
ちょっとずつ。
溶けていって。
お腹の中に、水銀のようなものが溜まって。
ぐづぐづぐづぐづ。ぐつらぐづら。
もう、噴火する。といったとき。
あの子の家の、鍵を拾った。
鍵の鋳型をとって、そこに心を流し込んでから。
私の体は軽くなって、空も飛べるかも。
と思った。
拾った鍵は、学校の落とし物入れに入れて。
私は、ただ。時を待った。
待った。
待った。
待った。
「今日さ、うち、親いないからさ、泊まりに来ない?」
キウイの名付け親が、その子分たちに。
そう言ったのを、私は聞き逃さなかった。
きた。
きた。
きた。
きた。
深夜零時。
私はあの子の家の前に来た。
まだ、窓から灯りが漏れていたから。
また、待った。
窓。から灯りが消える。
また、待った。
待った。
待ては、私の得意の芸なのだ。
クサキモ眠る。丑三つ時。
私は、護身用の懐中電灯を点す。
タクティカルライトと呼ばれる、重くものものしいそれは。
あまりに眩しすぎた為、私の薄い上着を透して使う。
文字通り。懐中電灯は、懐の中。
私の心も。もう。少し。明るくなっている。
あの子の家の扉の前。
私の心を固めた鍵が。
心の扉を開く感じがした。
がちゃ。と、なるべく小さな音で。
家の中には、誰の声もしない。
真っ赤な生地の隙間から、溢れる光を頼りに、獲物を探す。
見つけた。
皆。
眠っている。
私は、そっと、明かりを消す。
キウイ。
飛べない鳥。
走れない鳥。
泳げない鳥。
キウイ。
産毛の生えた果物。
キウイ。
私は、懐中電灯を振り下ろす。
キウイは夜行性の鳥だ。
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