筋肉バカの知識無双


 それから一週間後。

 無慈悲な実力試験を終えた新入生たちは、その後、学力テストも受けることとなり――。

 結論として、俺とレイナンはBクラスに落ち着いた。


 本来であれば、レイナンはAに入れるくらいの成績はあったらしいんだけどな。


 だがそこにはシュナイレとフェミリアもいるようで、それは俺のほうから断っておいた。あいつらと同じ空間にいるのは面倒すぎるからな。


 Bクラスといえば、まあ平均よりは上の成績。

 ゆえに最高評価とまでは言えないまでも、優秀な生徒たちが集められていると考えていいだろう。


 たしかにSクラスに入れれば、より飛躍的に自分を高められただろうけどな。

 レイナンと一緒にいるほうがよっぽど大事なので、これについてはまったく後悔していない。自分の信条に反することはしたくない。


 ということで。


「さあさあ、始めますよ皆さん。基礎魔法学のお時間です」


 朝のチャイムと同時に、やや頭の寂しい男性教師が教室に入ってきた。

 丸縁の眼鏡をかけて、でっぷりと腹が突き出していて……って、あれ?

 あいつ、乙女ゲーで何かの役で出てきていたような……。


「……まずはBクラスの皆さん、入学おめでとうございます。Aになれなかった半端者の集まりということにはなりますが、まあせいぜい頑張ってくださいねぇ」


 そう言うなり、丸縁眼鏡を光らせて嫌らしく笑う。


「ああ、そうでした自己紹介が遅れておりましたねぇ。私はマルコロ・ジェ・フェーンと申します。爵位は男爵なのですが、一通りの魔法基礎学を収め、まあ業界でもそれなりに名が通っている身でしてねぇ。この前などは急に街に現れたキメラたちを――」


 滔々と武勇伝を語りだしたクソハゲ教師を見て、俺の記憶がピンと蘇った。


 そう。

 こいつはとにかく承認欲求がクッソ強いハゲ頭だ。

 基礎魔法学を収めたとは言っているが、それは学力面においてだけ。実際に魔法を扱うことには一流魔術師には及ばず、こうして人に教えるくらいが関の山。

 学力においては間違いなく第一線級ゆえに、こうしてマレスティナ王立学園の教師を務めているが――。


 しかし生徒たちへの授業も、それはひどいもんだった記憶がある。たしかストーリー上でも、早いうちに解雇されることになるんだったか。


「そうですねぇ。まずはそこの……え~っと、名前はなんと言いますか?」


「は、はい……! ウェスタ・エスフォードと申します」


 指を刺された男子生徒が、緊張の面持ちで立ち上がる。

 眼鏡をかけた、いかにも優等生風の男子生徒だ。


「ふふ……、お答えください。ここカーネリア王国において、最初に魔法の基礎を編み出したのはユージーン・ヴェルトとされていますね? しかし彼の文献を読んでみると、なんと自分一人で魔法の真髄を学んだわけではないと言うではありませんか。そこにはある友人の名前が書いてあるのですが――さあ、その者の名前がわかりますか?」


「え、えっと……?」


 予期せぬ問いかけに、男子生徒が目を白黒させる。


 う~ん、こりゃひどいもんだなぁ。

 最初に魔法の基礎を編み出した者――の友人の名前なんて、いったい誰が答えられるんだよ。


 そんなものはよっぽどの魔法オタクか、業界にいる人間しか知らない。

 つまりは新入生に対する設問としてはあまりに不適切というわけだ。


 本来の魔法基礎学ってのは、魔法の使い方を基礎から学ぶって意味だしな。


「あ、あの、すみません。わかりません……」


「ああっ! そうですかそうですか! わっからないんですねぇ‼」

 バァン! とマルコロが教壇を叩く。

「ああ~~~‼ さすがはBクラスの生徒だ! Aクラスになれなかった半端者! いや~、哀れですねぇ!」


 こりゃひどいな。

 完全に自分が優越感に浸りたいだけじゃんか。


 男爵といえば、爵位的には下のほうだしな。自分より爵位の高い貴族たちにマウントを取りたいという、そういう側面もあるのだろう。


 し~~ん、と。

 Bクラスの生徒たちも衝撃を受けているのか、誰も何も言わない。


 学園に入って初めての授業がこれなので、きっと皆、それぞれ思うことがあるだろう。


「――あの、失礼。今の設問は度が過ぎているのではありません?」


 と。

 この重苦しい沈黙を打ち破ったのは、なんと隣に座るレイナンだった。


「入学する前、ここの教本に一通り目を通しましたけれど……。ユージーンの友の名など、どこにも載っておりませんでした。魔法基礎学の内容としては明らかに一線を超えていると思うのですが?」


「む……」

 あまりにもストレートな物言いに、マルコロが眉間に皺を寄せる。

「ふん。いったい誰かと思えば、あなたはレイナン・フィ・リスティアーナですか。お噂はかねがね聞いておりますよ」


「…………」


「よろしい。あなたもまだ公爵家としてのプライドが残っているようだ。ここは私がじっくりと個別指導で……」


 マルコロがレイナンに手を伸ばそうとした、次の瞬間。




「――ブラディオ・カルバーン。ユージーンとともに魔法を編み出した者の名だ」




 いても経ってもいられなくなった俺は、マルコロに向けてゲーム知識を披露する。


 本当はこんなこと、やりたくなかったんだがな。


 ぴくり、と。

 予期せぬ展開だったのか、マルコロの動きがぴたりと止まった。


「ネ、ネスト……?」

 レイナンもさすがに予想外だったのか、俺の発言に目を丸くする。


「ふん……なるほど。たいして難しくもない内容だ、Bクラスの者が答えられても不自然じゃあるまい」


「…………」


「ではこれはどうでしょう。現代において、魔法の属性は炎・水・氷・風・雷・闇・光に分類されています。しかしユージーンが当初発見した属性は――」


「無属性。そもそも当時は属性という概念すらなかった」


「……ぐ」

 悔しかったのか、ぎりぎりと歯噛みするマルコロ。

「そ、それでは、当時のユージーンを支えたという妻の名は――」


「カエラ・ミュイアム」


 やっててよかった乙女ゲーム。

 もちろん人間なのですべての知識を覚えているわけではないが、元ゲームオタクにとってはてんでたいしたことない質問だ。


「それで、どうなんだマルコロさんよ。ユージーンの妻の名なんて、本当に魔法基礎学に関係あんのか?」


「ひっ……!」

 

 さすがに反論できなくなったか、俺の威圧にマルコロが後ずさると――。


「お、おいマルコロ! なぜおまえ、Bクラスの授業をやっておるんじゃ!!」


 慌てた様子で、学園長エイドスが走り寄ってきた。

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