隣の席のオッドアイギャルは俺の心の声が聞こえるらしい

夕凪けい

第1章 本郷愛理編

第1話 過去に壊された僕は、未来で君に救われる

「……ふふっ、ゆういち、久しぶりだね?」


細く笑んだその唇から、甘く絡みつくような声がこぼれた。


「わたしね、ずっと……ずっと会いたかったんだよ?♡♡」


「まさか進路まで変えちゃうのは、予想外だったよ?」


目を細めてこちらを覗き込むその瞳は、懐かしさと、ほんの少しの狂気を含んでいた。

まるで、ここで再開する事をあらかじめ知っていたような――そんな悪魔の微笑みだった。


その声を聞いた瞬間――

心臓が、ひときわ強く跳ねた。


目の前にいたのは、

かつて“初恋”と呼んだ女の子だった。


もう二度と会うことはない。

そう信じて、いや、そう信じたかった存在。


トラウマの象徴であり、

同時に、俺が一度は心の底から憧れた“親友”の隣にいた、あの人。


笑顔があまりに無邪気で、無垢で、

それが逆に、俺の傷をえぐってくる。


──なんで、今ここにいる?


頭が追いつかない。

でも、身体は勝手に反応していた。


俺は、ゆっくりと口を開く。


「……どうして、お前らがここにいるんだよ……」


喉の奥がかすれる。

言葉に、感情が追いつかない。


目の前に広がるのは、

俺の“現在”に、過去が土足で踏み込んできた瞬間だった。


時は少し遡る。彼らと再会するのはずっと先だ。

あいつらと決別し、俺が新しい人生を踏み出そうとしていた――高校入学の日。


「花の高校生活? ああ、くだらないね」


窓際の席。

散りゆく桜をぼんやり眺めながら、俺は小さく呟いた。


俺の名前は神田裕一。

平凡な顔に、平凡な成績。

自己採点するなら――五十点。

そんな「ザ・凡人」な俺にも、かつて“好きな人”がいた。


もちろん、自分には似つかわしくない存在だってことはわかってた。

頭では、な。


だけど――

心は、どうしても納得してくれなかった。


だから俺は、努力した。

泥を啜るような日々の中、もがき続けた。


──努力は、きっと報われる。


そんな甘い幻想を信じながら。


「卑屈だって?

じゃあ、俺の話を最後まで聞いてからにしてくれよ」


中学時代、隣に座っていた女の子がいた。

名前は、本郷愛理。


優しくて、明るくて。

いつも俺をまっすぐに見てくれていた。


『将来は、ゆういちのお嫁さんになりたいな』

『私だったら、ゆういちを一人にしたりしないよ』


……そんな言葉に、俺は心の底から救われていた。気づけば、あの子の隣に立ちたくて、走り続けていた。


学年トップの成績、部活ではレギュラー、内申点も完璧。

すべては彼女のため――

ただ“並んで歩ける存在”になるために、自分を削って進み続けた。


そして、中学三年の冬。

全てをかけて、告白した。


「愛理、ずっと好きだった。俺と、付き合ってほしい」


握った手は震えていたけど、気持ちは真っ直ぐだった。自信もあった。あれだけ努力したんだ。

報われないはずがないって、心から信じていた。


だが。


『ごめんね、今は……勉強に集中したいの』


たった一言で、俺の世界は静かに崩壊した。


……しかも。

あのとき、彼女は――

ほんの少し、笑っていた気がした。


それでも俺は諦めなかった。

「受験が終わったら、もう一度告白しよう」

そう自分に言い聞かせ、進み続けた。


──だが、その翌日。


アイツはクラスの人気者、真田蓮也と付き合い始めた。俺の、親友だった。


裏切られたのは、言葉か。信頼か。それとも――希望そのものか。


俺は、雨の中で叫んだ。


『勉強に集中したい?』


ふざけんなよ。


「結局、顔なんじゃねえか。どれだけ中身を磨いたって、どれだけ努力しても……最初から“見られもしない”なら、意味なんてないじゃねぇかよ!」


「“ゆういちのお嫁さんになりたい”だ?

“私だったら一人にしない”?──笑わせんなよ」


拳で机を叩くような音が、頭の中で鳴り響く。


「好きでもねぇくせに……!

なんで、なんでそんなことを簡単に言えたんだよ……!」


あの言葉が、どれほどの希望だったか。

あの笑顔が、どれだけの支えだったか。

……その全部が、今じゃただの嘘みたいに思えて、息が詰まりそうだった。


傘も差さず、ひとり、雨に打たれる帰り道。

通り過ぎる笑い声が遠くて、にぶい。


頬を伝う水が雨か涙かなんて、もうどうでもよかった。


「なあ、蓮也……お前、あの時言ってたよな?」


『俺はゆういちと愛理の恋を本気で応援するぜ? それが親友ってもんだろ?』


「じゃあさ、お前。

……その口で、どうして、どうして彼女と平気で付き合えたんだよ……」


胸の奥から、黒い何かがじわじわと広がっていく。


“努力は裏切らない”?

──ああ、笑わせんな。


努力ってのはな、

勝てるスペックを持つ奴がしてこそ意味がある。


凡人が必死に足掻いたところで、結局は届かない。ただの無駄なんだよ。


俺はその日から、努力することをやめた。


どうせ意味がない。

だったら、最初から踏み出さなきゃよかった。


俺の名前は神田裕一。

これは、報われない努力と、歪んだ青春の物語。


この時の俺はまだ知らない。

俺の“心”が、誰かに救われる日が来るなんて。

そしてその誰かが――

「心が読めるギャル」だったなんて。


いつもご覧いただき、ありがとうございます。

※本作は、一部AIの補助を参考にしながら執筆していますが、物語の構想・登場人物・表現の最終決定はすべて筆者が行っています

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