第35話 暴君デグラス

リンゴ―ン!リンゴ―ン!

街に悪人の処刑を知らせる鐘の音が響き渡った。サーブルとモンテスが手に縄を掛けられ二人、繋がれて歩いていた。

「この悪人め!」

「皇族殺しは地獄へ落ちろ!」

国民はサーブルとモンテスに向かって石を投げた。その石はサーブルのこめかみに当たった。

「騎士団長!大丈夫ですか!?」

モンテスがサーブルに声をかけた。

「ああ、大丈夫だ。どうせ死ぬんだ。この位なんて事ないさ。」

サーブルは妙に落ち着いていた。処刑台までの長い道を兵士に連れられて歩いていく間もハンナ達の事が頭から離れなかった。


「いい眺めだな。裏切者の二人が遠くから歩いて来ておる。」

皇帝が不気味に笑っていた。アンベスは皇帝の姿に大きな恐怖心が芽生えていた。

「アンベスよ。お前は私の子供なのに何の役にも立たないのだから、せめてハンナだけでも手なずけて欲しかったのにそれも出来ずにこのザマだ。今度、何かやらかした時はこれがお前の行く末だと思ってしっかり見ておけ。」

皇帝はイライラしながら言った。アンベスはろくに返事も出来ずにガタガタと震えるばかりだった。コットもその隣で俯いている。


「おやおや。これはこれは、皇帝にアンベスと聖女様もお揃いで。」

ロスタルが爽やかな笑顔で入って来た。

「何だ。ロスタル侯爵。今忙しいんだ。」

皇帝は冷たくあしらった。

「そんな態度なんて切ないなあ。それより何か皇帝一回り大きくなりました?」

ロスタルは話を続けた。

「侯爵には関係のない事だ。」

「ふーん、折角お客様を連れて来たのにそんな態度なら帰ろうかな。」

ロスタルがそう言うと皇帝は何か気付いた。

「お客様?それを早く言ってくれないと。通せ。」

「ねえ、出て来なよ。」

ロスタルに言われてハンナが出て来た。

「皇帝、私が戻って来ましたのでサーブル達を助けて下さい。」

ハンナは皇帝にお願いした。

「それは出来ぬ。サーブルはエトワールを殺したも同然だからな。私の事も裏切った。とても許される事ではないぞ。」

「そんな!そんなのはあんまりです!皇帝は酷いです!」

ハンナは皇帝に歯向かった。

「いいか。この国の皇帝は私だ。逆らうな!」

皇帝が手をグッと掴む仕草をするとハンナの心臓がグッと掴まれた様に痛くなった。

「ううっ!」

ハンナは苦しんだ。

「皇帝、これは魔法ではないですか!また魔力を持つ者の血を呑んだのですか!?」

ロスタルが珍しく声を荒げた。

「もうこれで侯爵と同じくらいの魔力になったのではないか?あんまり私を刺激しない方がいいぞ。」

「そんな事ばかりしてるといつか取り返しのつかない事になるぞ。」

ロスタルは今にも飛び掛かりそうな勢いだった。ハンナは何も成すすべなくその場に座り込んだ。



「皇帝!今から二人の処刑を行いたいと思います。」

ちょうどその時、兵士が皇帝に報告に来た。

「よかろう。先に、国民へ挨拶をする。」

皇帝はそう言うと国民からよく見える所に出た。


「我が愛する国民の皆よ。聞いてくれ、今、ここに居る二人が私の愛するエトワールを殺した。ずっと病気で闘病していたエトワールを拉致しようとしたのだ。私は悲しみに打ちひしがれている。この裏切り者に制裁を加えたいと思う。国民の皆はどう思うか?」

皇帝が迫真の演技でスピーチすると国民は皆、皇帝に賛同した。


「ありがとう!では、この悪党二人に制裁を!」


皇帝が合図を出すと、国民が歓声を上げた。


「やれ」


ハンナはその言葉を聞くと同時にサーブルの元へ走り出そうとした。そのハンナの腕を皇帝が力任せに掴んだ。


「まあ、そんな急ぐな。ハンナも直ぐにサーブルの元へ行く事が出来るだろう。」

ハンナの腕には皇帝の爪が食い込んでいた。

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