第34話 処刑ツアーへ行こう
「よし、それでは皆さん、参りましょうか。」
エトワールが村人に呼びかけた。
「はい。いつでも準備は出来ております。」
村長はハチマキ姿で気合が入っている。その他の村人達もそれぞれ戦いの為の格好をしていた。
「まず。私が先頭を行きます。一番最後尾はハンナお嬢様のお父様にお願いします。」
「ああ、任せて下さい。」
「ハンナお嬢様のお母様は中央に居て、女性の方を見守ってください。何かあればこの笛を吹いて私に知らせて下さい。」
「はい。分かりました。」
「リテ、何かあればすぐに知らせて。」
「はい。私は後ろ辺りを付いて行きます。」
リテはそう言うと馬にサッと飛び乗った。
「エクラ、君は大丈夫かい?」
エトワールが少し心配そうに聞いた。
「はい。私は皇子と村長の後ろを付いて行きます。こう見えても乗馬は得意なので。」
エクラが答えた。
「そうだったな。では、行くぞ。」
「はいっ!」
村人達は返事をすると一斉に結界を張り始めた。結界は村人達の姿を隠してそこにはまるで何もない様に見えた。
「う、うん…」
ハンナが目を覚ました。近くに見知らぬメイドが立っていた。
「ハンナ様。大丈夫ですか?何かお召し上がりになられますか?」
「いえ、結構です。それよりも私は城に戻りたいのですが。」
サーブルの事が頭から離れない。
「ではロスタル侯爵を呼んでまいりますので、少々お待ちくださいませ。」
無表情のメイドが部屋を出て行った。ハンナは皆の事が心配で不安に押しつぶされそうになっていた。
「おはよう。もう起きたの?普通の人なら三日間くらいは寝てるはずなのに。」
ロスタル侯爵は相変わらずヘラヘラとしている。
「私は城へ戻ります。」
ハンナはロスタルに伝えた。
「どうして?サーブルを助けるの?」
「はい。そうです。」
「今日は朝から悪人が処刑される時になる鐘が鳴り響いてるんだよ。もしかしてサーブルかもね。」
ロスタルはハンナの反応を試している感じだ。
「貴方の望みは何なのですか?その望みを言ってくれたら協力するのでもう二度と私の目の前に現れないでください。」
「僕の望み?それは君の力を借りて尾が紫色の不死鳥を呼び寄せたいんだ。」
「私はどうやって呼び出すのかなんて分かりません。それはロスタル侯爵の思い込みなのではないですか?それになぜ紫色の不死鳥の事を知っているのですか?私は赤ん坊の時に一度だけ見ただけです。それ以降は見た事もないです。」
ハンナはロスタルを真っすぐ見た。
「不死鳥って千年に一度卵を三個産むんだ。それで何万年、何億年と生きる。三個全部無事に生まれたら全身が真っ白の不死鳥に成長するんだ。けれど、他の卵が孵化出来なかった時は白い色ではなくなるんだ。紫色になるんだよ。今、成長していたら全身が綺麗な紫になっているはずだよ。」
ロスタルは真面目な顔で説明をした。
「それは確かなのですか?他の卵が孵化しなかったというのはなぜ分かるのですか?どうして私が紫の不死鳥を見た事を知っているのかを教えてください。」
「確かだよ。」
ロスタルはそれだけ返事をした。
「全てを信じる事は出来ません。」
ハンナはそう言って部屋を出ようとした。
「だってその不死鳥の卵を君のゆりかごの中に入れたのはこの僕だから。」
ハンナはピタリと止まった。
「何ですって?」
「君と、君の父親と母親と姉さん二人で彷徨いの谷の近くに来ていた時に、僕が君のゆりかごに卵を隠したんだ。」
ロスタルの話は父が言ってた話と同じだった。
「なぜ?なぜその様な事をしたのですか?貴方、自分の言ってる意味が分かってるのですか?」
ハンナはロスタルを睨みつけた。
「人聞き悪い事言わないで。僕はその卵は助けたつもりだったんだけどね。まあ、あの時の赤ちゃんがこんな綺麗な子になるなんて思いもしなかった。」
「私は、貴方が嫌いです。二度と顔を見たくない。城に戻ります。」
部屋を出ようとするハンナの手をロスタルがギュっと掴んだ。
「へえ。そんなに城に戻ってサーブルの死ぬところ見たいんだ。じゃあ僕も行こうかな。」
「えっ、ちょっ、ちょっと!」
ロスタルはそう言うと今まで見せた事のない恐ろしい顔でハンナを引っ張って行って馬車に乗せた。
「じゃあ、楽しい処刑ツアーに出かけようか。」
ロスタルの綺麗な顔はまるで悪魔に見えた。
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