第28話 やはり敵なのか

「お帰りなさいませ!村長!レモネードです。奥様のお手製ですよ。」

村長の奥様はリテが帰って来た事によって昔の様に動けるようになった。メドックは涙を流して喜んでいる。

「貴方。そのレモネード好きだったわよね。リテと一緒に作ったの。美味しいわよ。」

「お父様。早く飲んで。」

リテが笑いながら言うと村長の胸は熱くなった。離れ離れだった時間が嘘かの様に、ずっと一緒に過ごして来た気分になった。村人たちにも少しだけ笑顔が戻ったようだった。


「村長。このお金があれば馬や武器は揃える事が出来ますね。」

父がお金を村長に渡した。

「ああ、貴方達のお陰だ。いい娘さんをお持ちになった。」

「ありがとうございます。娘夫婦がここまでしてくれるなんて感無量です!」

ハンナの父が笑った。

「あなた方の育て方が良かったのですよ。では、メドック。馬と武器を調達して来てくれないか?」

「はい。すぐに行って参ります。」

そう言うと走っていった。

「馬と武器は直ぐに用意出来る。だが、一つだけ問題があるんじゃ。わしらは馬に乗る事は出来るが結界を張るためには村人が乗る馬を統率しなければいけない。それを指揮できる人間がおらんのじゃ。」

「それは…」

父もある程度の技術はあるが大人数をまとめるのはやった事がない。

「では、できるだけ城の近くに行く事にしましょう。それからまた考えてはどうでしょうか。」

リテが提案した。

「そうじゃな。それが最善じゃな。」

とは言っても皇帝から狙われてる身なので結界で姿を隠せないのには皆、不安はあった。




「エクラ?大丈夫か!?ここからは少しスピードを上げて行くぞ。」

「はい!私は大丈夫なのでお気になさらないでください!」

「わかった!ではもっとしっかり捕まって。もうあと一時間もかからないだろう。」

「はいっ。」

そういってエトワール皇子はスピードを上げた。エクラは振り落とされない様に必死にエトワールにしがみついた。








サーブルが地下牢に着くのはそんなに時間はかからなかった。騎士団長を勤めていただけあって、サーブルを止めれる者は誰も居なかった。地下牢の扉の前の兵士も一瞬で倒し中に入った。そこでは半裸状態のハンナが泣きながら襲われそうになっていた。その瞬間、サーブルの頭の血管が切れそうになった。

「おい、その汚い手を離せ、ゴミくず野郎。」

兵士がサーブルを止めようとするがそんな攻撃を全て交わし、アンベスの方へ向かっていった。

「この無礼者!」

アンベスも大声で応戦したが、サーブルは胸元から村長に貰った銃を抜き出しアンベスに突き付けた。そのサーブルの剣幕と銃を向けられた恐怖でアンベスはそのまま気を失ってしまった。その気を失ったアンベスのおでこを目がけ、サーブルは引き金を引くと間の抜けた音でポンと空気が発射された。ハンナは悔しくて泣いた。

「ハンナお嬢様。」

ハンナはグッと息を飲み込んだ。

「逃げましょう。私が全力でお守りします。」

サーブルのその言葉は頼もしく聞こえた。

「はい。」

ハンナは力強く返事した。

「では行きましょう。」

二人は立ち上がり走って牢の外に出た。

「騎士団長。困ります。」

牢の前の見張りの兵士がサーブルを止めた。

「お前は…モンテス。私はもう、騎士団長ではない。」

「ではサーブル殿。どうかお戻りください。ハンナ妃はそのままここに残して頂ければ皇帝には報告は致しません。」

「モンテス、お前がハンナお嬢様を牢の中に入れてくれたんだな。ハンナお嬢様をここに置いて行ったとしてもリテ様とエトワール皇子はもう居ない。そんな事を皇帝が知ればお前もただでは済まされないぞ。悪い事は言わない。早く逃げろ。」

「サーブル殿。私はリテ様のお祈りを毎日見ておりました。今まで、皇帝の命令とは言え罪のない人々を傷つけ時には殺め、もう自分には生きる価値はないと思います。もし、処罰されたとしても悔いはありません。私は何も見ていない。ハンナ妃がここに来た事もサーブル殿が助けに来た事も。」

モンテスはリテと触れ合って行く中で、自分の犯した罪と向き合って来たのだ。あの時すんなりハンナを牢の中に入れてくれた事も全て覚悟の上だったのだ。

「モンテス。私はハンナお嬢様を両親の元へ送り届けなくてはいけない。お互い、生きてまた会おう。」

サーブルはモンテスにそう言うとハンナと走って城外へ急いだ。長いジメジメした廊下を抜けもう少しで外に出れそうな所まで来た。


「はーい。そこまでぇ。ごめんねぇ。」

二人の前に立ち塞がったのはロスタル侯爵だった。

「ロスタル侯爵。急いでおりますので。」

サーブルがそう言って突破しようとしたがロスタル侯爵は行く手を阻んだ。

「サーブル。君は早くどこかに逃げな。でないとモンテスと一緒に皇帝に酷い事されちゃうよ。アンベス皇子もあんな風にしちゃって。」

「いいえ。私はハンナお嬢様と一緒に逃げます。」

サーブルはロスタル侯爵をジッと睨んだ。

「うん。意気込みはいいけどね。どうしても無理なんだよ。」

ロスタル侯爵は少し迷惑そうに答えた。

「何が目的なんですか?」

ハンナが強めの口調で尋ねた。

「目的?そんなの決まってるじゃん?」

気味悪く笑うロスタル侯爵にハンナとサーブルは身構えた。

「僕の目的は貴方だよ。ハンナ・サラ。」

そう言った時のロスタル侯爵の顔は不気味な程に無表情でまるで凍り付いている様だった。

「そうはさせません!」

サーブルが威嚇した。

「サーブル。君はとても優秀だし生かしておきたいから早くどこかへ行って。」

サーブルの威嚇にも動じることなくロスタル侯爵はハンナの方へ近づいて来た。

「やめてください。」

サーブルが剣を抜いた。

「うっ…。」

攻撃しようとした瞬間、サーブルの動きがピタリと止まった。

「魔法は使いたくなかったんだよね。一時間位は動けなくなっちゃうよ。」

ロスタル侯爵はそう言うと動けないサーブルの横を素通りしてハンナの手を掴んだ。

「いや!」

ハンナはロスタル侯爵の手を振りほどこうとした。

「ねえ、大人しくしなよ。」

そう言うとハンナにも魔法をかけた。

「ううぅ。」

ハンナはリテとエトワールの治療で力を使ったので、そのまま気を失ってしまった。

「あれ?魔法強すぎちゃったかな。まあ、寝ててもらった方がいいかも。」

ロスタル侯爵は今までとは違い本当の笑顔で笑った。その笑顔は冷たく綺麗だった。ロスタル侯爵はサーブルをそのままにしてハンナを抱きかかえ歩き出した。



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