第25話 エトワール皇子の力
「おい、もっと早く走れ!」
皇帝はイライラしながら馬を走らせた。
「城の方から微かにハンナの力が伝わって来てるんだけど。」
コットが叫んだ。
「畜生!あのジジイが村に招きいれたのも時間稼ぎのためだ。恐らく私らが来る前にあの三人を城に瞬間移動させたんだろ!この私を馬鹿にしおって!」
皇帝は怒りに狂っていた。
「もう最悪だわ。」
そんな皇帝を見てコットは言い知れぬ恐怖を感じた。
「ハンナは少し弄んでやったら八つ裂きにして血を抜いてやる。」
悪魔の様に笑う皇帝にコットはもっと恐怖を感じてしまった。もうこうなったデグラス誰も止めることは出来ない。
「ハンナお嬢様は大丈夫なのでしょうか?」
エクラが今にも泣きそうな顔でサーブルに尋ねた。
「様子を見に行ってもいいのですが、今、私達は見つかるときっと反逆者として捕まるかもしれません。」
サーブルが厳しい顔をした。
「やはり、そうなのですね。」
「はい、皇帝は自分への忠誠心を重んじる方ですので、処刑されてもおかしくないでしょう。」
騎士団長だったサーブルが言うのならきっと間違えはないのだろうとエクラは肩を落とした。
「このままここで待っていたら必ずハンナお嬢様と会えますか?牢の抜け道はあるのでしょうか?」
「それは私も噂でしか聞いた事ないので何とも言えません。」
エクラは少し考え込んだ。
「ねえ、サーブルさん。もう少し待ってお嬢様が来ないなら見に行きませんか?」
「エクラさん。それはかなり危険だと思いますよ。それでも行くのですか?」
「ここに居てもいずれは見つかってしまうと思いますので、だったら皇帝が居ないこの時に動いた方がまだいいかもしれません。」
「分かりました。ではもう少し様子を見ましょう。」
二人はそう言って辺りをキョロキョロと見回しハンナの帰りを待った。
「エトワール皇子はどんな魔力をお持ちなのですか?」
ハンナがエトワールに聞いた。
「私の持っている魔力ですか?」
そう言うとエトワールはハンナの短剣をて手に取ってブツブツと呪文を唱えた。するとその短剣は命を吹き込まれた人形の様に動き始めた。
「え?とっても可愛い!生きてるみたい!」
ハンナはその短剣をマジマジと見た。短剣はハンナにお辞儀をして踊り出した。
「これが貴方の魔力なの?なんて素敵なんでしょう!」
ハンナがそう言うとエトワールは少し照れた。
「そんなに褒めてくれるのはお嬢様とエクラだけです。父上はこの魔力を毛嫌いするんです。孤児院などでこの力を使って人形劇をしたりするのが私はとても楽しかったのですが、父上は拒絶しました。私はこの力を戦争などには使いたくなかったのです。そんな私に嫌気が差しこの牢に閉じ込めたのでしょう。」
エトワールは皇帝が自分の事を愛していない事に薄々、気付いていたのだ。
「そんな事ない…と言いたいのですが、とても残念な事に皇帝はその力を自分の物にしたかったのかもしれないと思います。」
ハンナはエトワールに現実を突きつける事を躊躇ったが、命の安全の方が大切なので伝えた。
「少しは私の事を愛してくれているのかなと思っていましたが…残念です。」
母親を幼くして亡くし、父親は自分の欲の為に子供を牢に閉じ込める様な奴なのでエトワールが不憫に思えた。
「ところでハンナお嬢様。その、あの、、」
エトワールが何かを言いたげにモジモジしている。
「どうしたのですか?」
「あ、エクラは元気なんですか?」
耳まで赤くしながらエクラの事を尋ねた。
「エクラでしたら元気ですよ。エトワール皇子の事をとても心配していました。」
ハンナがそう言うとエトワールは笑顔を見せた。
「本当ですか?今、どこに居るのでしょう。」
「今は、裏の門の近くで待っていてくれております。」
余りにも目を輝かせながら聞いて来るのでハンナはピンと来た。
「もしかして、エトワール皇子はエクラの事を大切な人だと思ってますか?」
ハンナは軽い感じで聞いてみた。
「え、いや、あのその、、」
そのエトワールの態度に、なぜ大切だと言うだけなのにこんなに時間がかかるのだろうとハンナは不思議に思った。
「大切ですし、私はエクラを愛しています。」
エトワールは意を決したかのようにハンナに伝えた。
「そうなのね、愛してるのか。え?愛してる…?えええええ!?」
ハンナは突然の告白に驚いてしまった。
「はい。孤児院で子供たちのお世話を一緒にしていくうちにエクラの一生懸命さに惹かれてしまいました。」
エトワールはとても優しい顔をしながらエクラの話をした。だがハンナの頭にはあの女の存在が過った。
「エトワール皇子。一ついいですか。皇子にはコットという婚約者が居ます。ご存じではなかったのですか?」
エトワールはハンナの言葉に驚きを隠せなかった。
「婚約者!?そんなの聞いた事ありません。アンベスの間違いではないですか!?」
「いいえ、それは違うわ。私がアンベスと結婚してますし、コットは貴方の婚約者だと国民にも公表されてます。私は…エクラから聞きました。」
「エクラから!?そんな話聞いた事もない…。まさか、私が意識がない間に皇帝が勝手に…。」
落胆しているエトワールにハンナはなんという言葉をかけていいか分からない。
「推測ですが、そのコットという女性を私の婚約者としておけば、堂々と国や城を連れて歩けるからなのだと思います。ハンナお嬢様。私はもう許す事が出来ません。ここを出て皇帝が居ない所で暮らしたいです。」
エトワールは涙を堪えていた。その姿にハンナは胸が苦しくなった。自分も親にそんな事をされたら辛く悲しいに決まっている。けれどここは立ち向かわないと何も解決はしない。
「皇子、厳しい事を言うようですが皇帝はどこまでも追いかけて来ます。皇子の魔力を自分の物にするまでは諦めないですよ。コットは妖術使いなので直ぐに居場所を見つけて来ます。」
ハンナは真剣にエトワールを見つめ厳しめの口調で伝えた。
「じゃあ、どうすればいいのでしょうか。私には皇帝を殺す事なんてとても出来ません。」
「貴方のお爺様の所へ行きましょう。もう、リテ様はもうお爺様にお会いになられてると思います。皇子がもうこの城に未練がないならそこへ行きましょう。」
ハンナはエトワールの表情を気にしながら話した。
「私なんかが行ってもいいのでしょうか?」
「なぜ“私なんか”なのですか?皇子はお爺様の大切な孫なんですよ。」
ハンナはニッコリと微笑んだ。
「ありがとうございます!ハンナお嬢様。今日、貴方と会えてよかったです。」
エトワールが喜ぶと短剣もダンスをした。
「では、ここから抜け出さないと!」
ハンナは立ち上がり逃げ道がないかをもう一度確認した。
「ハンナお嬢様、私にお任せください。」
エトワールはそう言うと先ほど見つけた小さな抜け道の所へ向かった。その穴に向かって何か呪文を唱えるとその穴はポコンと人一人入れる大きさになった。穴の入口はぐにょぐにょと動いていて生きてるみたいだ。
「うわ!すごい!」
ハンナは歓声を上げた。
「先に私が行きます。すぐにハンナお嬢様も来てください。十分程で元の大きさに戻りますので。」
そう言うとエトワールはその穴に入って行った。
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