第24話ここを出よう!

「ええ!?」

エトワール皇子は点滴の様な管に繋がれ血を抜かれている所だった。

「何と酷い事!生きてらっしゃるのですか!?」

ハンナは思わず駆け寄った。

「かろうじて生きております。皇帝はどこまでも身勝手です。自分の息子までもこのような事をして、いつか天罰が下ればいいんです。」

リテの言う通りとても人間のする事ではなかった。ハンナはさっきのリテの手当てでかなりの力を消耗したが、エトワール皇子は何としてでも助けたかった。

「リテ様。お水を一杯頂けますか?」

分かりました。リテはそう言うとお水をコップに注いでくれた。その水はハンナの喉の渇きを潤してくれた。

「では、エトワール皇子の手当てをします。」

そう言うとハンナは両手でエトワール皇子の胸に手を置いた。その光はとても熱く柔らかいお日様の様な光だった。エトワール皇子の顔色が良くなっていくに連れハンナの体力は限界に来ていた。それでもハンナは治療に専念した。

「う…、う…ん。」

エトワール皇子の口元が微かに動いた。

「ハンナ妃!あまりご無理なさらずに!」

リテがハンナを後ろから優しく抱きしめた。

「リテ?」

小さなか細い声が二人の耳に入って来た。

「エトワール?」

リテが恐る恐る聞いた。

「ここはどこなの?」

小さいがしっかりとした口調でエトワール皇子は尋ねた。

「あ、よかった…。」

ハンナは安心したのか身体の力がふっと抜けた。

「ここは城の地下牢です。私とエトワールは半年前から皇帝によって、ここに閉じ込められていたの。」

リテは言いにくそうに答えた。

「え?父上が?なぜそんな事を…。」

エトワール皇子は状況を把握するのに時間がかかっていた。


「エトワール。この方が貴方を助けてくれたのよ。アンベス皇子の妃のハンナ妃よ。」

リテにそう言われるとエトワール皇子は体を起こした。

「ありがとうございます。挨拶が遅れました事をお詫びいたします。」

エトワール皇子は礼儀正しく一礼をした。

「いえ。私は当たり前の事をしたまでです。」

そんなエトワール皇子を見てるとアンベスとの差にハンナは驚いた。

「それよりも、ここを出る事を考えましょう。」

ハンナがそう言うと二人とも悲しそうな顔をした。

「ここからは出る事が出来ません。警備も厳しいですし。」

そう言うとエトワールは頭を抱え、リテはため息をついた。


その時にサーブルが言っていた言葉を思い出した。

「リテ様!エトワール皇子!もしかしたらこの牢のどこかに抜け道があるかもしれません。探してみませんか?」

ハンナがそう言うと二人は素直に聞き入れてくれた。

「分かりました。探してみましょう!」

エトワールはベッドから起き自分の足で歩いた。

「大丈夫ですか?まだ体は本調子ではないでしょうから気をつけてください。」

ハンナは自分の体よりもエトワールの事を気にかけた。

一通り、三人で牢の隅々まで見てみたがそれらしき物は見当たらなかった。

「ダメだ。ないわ。となるとここからどうやって脱出しましょう。」

ハンナは床にペタンと座り込んでしまった。その時に村長に貰った短剣がポロリと落ちた。

「コン」「コン」「カツン」「コン」

その短剣の転げた音が一か所だけ違っていた事にハンナが気付いた。

「あれ?ここ、何かあるわ。」

ハンナは短剣をコツンコツンと当てて音が違う所を探し当てた。

「カツンカツン」

短剣で叩くと空洞がある様な音がした。ハンナは短剣を石畳の隙間に入れ、てこの原理を利用して石を持ち上げた。

「あ!!見つけました。」

リテとエトワールがその発見をとても喜んだ。

「どうしましょう。これで外に出れますか?」

リテがハンナの顔を覗き込んだ。

「外には繋がってるみたいだけど穴が小さすぎるわ。」

「そうですか。中々、上手くは行かないものですね。」

三人はまた頭を抱えた。その時にハンナは村長から貰ったペンダントを思い出した。ハンナはゴソゴソとペンダントを取り出しリテに見せた。

「リテ様!このペンダントをリテ様のお父様から頂きました。何かあった時に使えと。これを使ってリテ様は村にお戻りください。」

リテはそのペンダントを見て驚いた。

「そのペンダント!お父様に会われたのですか?元気でしたか!?」

リテは少し取り乱した様子だった。

「はい。お父様もお母様もメドックさんも皆お元気ですよ。奥様がリテ様に会いたがっておられます。」

ハンナの答えにリテは安堵した。


「けれど、いいのでしょうか?私がこのペンダントを使えばハンナ妃が危機の時のお守りがなくなってしまいます。」

「いいのです。これはリテ様がお父様達の元に帰るために使って下さい。こちらにはサーブルとエクラも居ますのでなんとでもなります。お父様達の所には私の両親も居ますのでどうか、このペンダントで村にお戻りください。」

ハンナはそう言うとペンダントをリテの首にかけた。その瞬間、ペンダントはパアッと輝いた。

「分かりました。この御恩は必ずお返ししますわ。ハンナ妃。」

リテはハンナの手を取りお礼を言った。

「期待してますよ。あ、あとハンナ妃というのはおよしください。皆、ハンナお嬢様と呼んでくれています。」

ハンナが悪戯っぽくニッコリと笑った。

「はい!ハンナお嬢様!」

リテも笑顔で直ぐに受け入れてくれた。

「エトワールをお願いできますか?」

リテが深くお辞儀をした。

「もちろんです。」

ハンナがエトワールの方を見た。

「ハンナお嬢様。どうぞよろしくお願い致します。」

エトワールも深くお辞儀をした。

「ではリテ様、お気をつけてください。」

そう言うとハンナはリテから離れた。

「はい。」

リテがそう答えるとペンダントが光り輝き出しリテを包んで行った。そして瞬きをする速さでリテは消えて行った。

「ハンナお嬢様、あんなすごい魔法を使えるお方が居られるのですね。」

エトワールが目をパチパチさせていた。

「そうですよ。エトワール皇子、貴方のお爺様ですよ。」

ハンナはエトワールの方を見てコクンと頷いた。

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