第12話

「うぐっ!」

 

 新人ちゃんは、当惑する後輩の魔法少女の顎先を情け容赦なくぶん殴る。

 すると、脳震盪を起こした彼女は、力無くその場に倒れてしまった。

 しかし、それでも止まらない。

 流れるような動作で新人ちゃんは、先輩の魔法少女へとナイフを突き立てる。

 

「……っ」

 

 だが、先輩の魔法少女はすんでのところで突きを回避し、後方へと飛び退いた。

 中々に素晴らしい反射神経。

 俺と新人ちゃんに挟まれる形を避けるために、距離を取る判断も完璧だ。

 敵ながら、見事だと言わざるを得ない。

 

「その魔法は……ああもう! ほんまにどうなっとんねん。でも、そっちがその気なら、ウチの本気見せたるわ!」

 

 ゴゴゴと音が鳴り、地面が揺れる。

 恐らく、先輩の魔法少女は己の魔法を行使しようとしているのだろう。

 途轍もない圧力をひしひしと感じる。

 これからが、本番。

 演技や奇襲などは無しの真剣勝負が今、始まろうとしているのだ……。

 

「一歩も動かないで、魔法も解除して。でないと、この子の首を掻っ切る」

 

 俺も先輩の魔法少女も、物騒極まりない発言をした新人ちゃんへと視線を向ける。

 彼女は……身動きが取れない後輩の魔法少女の首元にナイフを突きつけ、少し動かすだけで頸動脈を断ち切れる体勢をとっていた。

 恐ろしいくらいに手際がスムーズで、瞳には光が灯っていない。

 脅しでも何でもなく、指示に反した瞬間に殺そうとしていると一目で分かる。

 ……あれ?

 いくら何でも覚悟ガンギマリすぎない?

 

「……わ、分かった。魔法は解除する。一歩だって動いたりせん」

 

 俺と同様に本気である事を感じ取ったのか、先輩の魔法少女は両手を挙げる。

 正直に言うと、俺もつられて手を挙げそうになってしまった。

 それくらい、今の新人ちゃんは怖いのだ。

 奇襲では、比較的与しやすそうな後輩の魔法少女を狙って戦闘不能にする。

 そして、躊躇わずに人質戦法を行って、そこそこ強そうな先輩の魔法少女を無力化する。

 

 全ての行動に無駄がなく、極めて合理的。

 文字通り、勝つためならば何でもする。

 卑怯な手であっても、人道的に非難される手であっても、行使出来てしまう。

 何よりも、元魔法少女という経歴があるからこそ、現役の魔法少女が嫌がる戦法がよく分かるのだ。

 まさか、ここまで新人ちゃんに悪の適性があったとは。

 興奮しすぎて、体が震えそうになるぜ。

 ……俺の目に狂いはなかった。

 出会えて良かったと、心の底から思う。

 

「なぁ……君、ツバメちゃんやろ? 瞬間移動に似た魔法を使う魔法少女なんて、一人しか思いつかんもん」

 

「…………」

 

「魔法少女になってから、まだ一年も経ってへんのに怪人を数十体も討伐して。今までに類を見ない異次元の成長速度やから、みんな君に期待してたんやで。100年に一人の天才。いずれ『七星衆』に届くかもしれん逸材や……とか言うてな」

 

「………………………」

 

「なのに……何で、こんな事しとるん? 君は悪に手を貸すような子では無かった。どんな時も生真面目で、真正面から職務に向き合っとった。やっぱり、原因となったのは、カナミが……」

 

「仲間に連絡するために時間稼ぎしようとしても無駄。この辺りには結界が張ってある。電波は届かないし、周囲の人々は我々の姿を視認できない。それは、魔法少女である貴女自身がよく理解してる筈」

 

 新人ちゃんの発言を受け止めた先輩の魔法少女は、悔しげに歯を食いしばる。

 多分、図星だったんだろう。

 因みに、俺は全く気が付かなかった。

 ……というよりも、奇襲がやけに遅かったのは結界を張っていたからだったのか。

 あまりにも用意周到すぎて、味方である俺でも恐ろしく感じるレベルになってきたな。

 こんなにも優秀な子を悪堕ちに導いた自分を褒めてやりたいくらいだ。

 

「怪人さん、この子達は好きにしていいよ。これで、私が悪に堕ちた証明になるよね」

 

「ククク…-ああ。これで、お前は立派な悪人だ」

 

 新人ちゃんの発言の意味がよく分からないが、取り敢えずそれっぽい返答をしておく。

 何と言っても、この局面で狼狽えたりしたら、恥ずかしいからな。

 ひとまず、先輩の魔法少女と後輩の魔法少女は、アジトに連れて帰ろう。

 もちろん、煮たり焼いたりはしない。

 命を奪う事なく……彼女達が扱う魔法を有効的に利用させて頂くだけだ。

 

「ウチらを、どうするつもりや……」

 

「俺達が更なる力を得るために、贄になってもらう。存分に怯え苦しむがいいぜェ」

 

「……この悪魔共が!!! 地獄に落ちろ!!!」

 

「言われなくても地獄に落ちるよ、私達は。だから、心配しなくていい」

 

 ゆっくりと近づき、首元に手刀を落とす。

 そうすると、恨み節を口にしていた先輩の魔法少女は意識を失った。

 想像していた展開とは大分違ったが……無事に戦闘が終わったのだ。

 魔法少女二人の確保にも成功したので、最高の結果だと断言できる。

 だが、それよりも。

 俺も新人ちゃんも無傷なので、一安心だ。

 

「お疲れさん。今回は大活躍だったなァ」

 

「うん。怪人さんも良い時間稼ぎだった。馬鹿な人の演技をするの……とても上手いね」

 

 にこりと微笑む新人ちゃん。

 ぶっちゃけ、時間稼ぎの時に演技はほとんどしていなかった。

 けれども、口が裂けても言えない。

 演技でも何でもなく。

 純然たる馬鹿なのがバレたら、死にたくなるからな!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る